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OUTBREAK ー真価ー

 霞が、襲われた。

 第一発見者は綴。曰く、いつもより少し早めに行ってカノジョに会いたかったらしい。昨日までならここで茶化す貴矢だが、すでに状況は悪い方に動いている。話の腰を折っている場合ではない。いち早く登校した綴は、何者かに荒らされた教室で、霞が机の下敷きになっているのを発見。急いで助けだすが、意識は無く、体も傷だらけだった。そして次々とクラスメートが登校し、霞を保健室まで送り届け、机を皆で直し終わったのがつい先程らしい。

「霞はまだ、意識が戻らないのか……?」

 貴矢の問に、一番心配しているであろうカレシが答える。

「ああ、オレもさっきまで保健室にいたんだけどよ。もうすぐホームルームだからって追い返された。まあオレは、霞を見守ることしか出来ねえんだけどな……」

 綴の悲壮な声に何も言い返せない。いや、言い返しても上辺だけの薄っぺらい言葉になる……等と貴矢は考えていたわけではない。最早彼の思考は次の段階にある。今回は霞か……猛は被害者に関係はないって言ったけど、一度自分でも調べてみた方が良さそうだ。そして、霞を貶めた犯人。それはすでに、分かっている。だからこそ、此処の王は厭らしい。『怒』がない彼は、それでも嫌悪する。

 知って知らずか、恋人同士を争わせるなんて。

「……貴矢……お前」

「……ん?」

珍しく猛が言い淀む。何か僕の顔に付いているのか、と思わせるほど、こちらを凝視している。それは彼だけでなく、黙って立っている綴もであった。 

「何だよ、二人とも……」

「……俺たちは一昨日から、気になっていたんだが……」

 癖である腕組をして、ゆっくり話し出す猛。妙にものものしく歯切れが悪い。今、彼の目に浮かぶのは、不審。誰に向けての? 当然決まっている。僕に対してだ。

「お前……事件の話した時、あからさまに反応良くなった……よな? 何故だ? 疑うつもりじゃないが、何か知ってるんじゃないのか?」

「……」 

 言葉に詰まる。否定してこの場を凌いでもいいが、それだと猛たちにとって僕が事件を調べる理由がないから、委員長の協力を得ずらくなる。だからといってすべての事実を語るか? まず信じてもらえない。僕を猜疑心で見つめる男は現実主義者だし、正直見ないと解りづらい。折衷案として、真実と虚実を半分ずつ……いや、そんなことをしたら、必ずいつか矛盾が生まれる。それ以前にどこまでを半分とするか、現段階では決めかねる。やはり苦肉の策だが、ここは虚偽で…… 

「別に、言いたくないならいい」

 嘘を吐こうとした矢先別にいい宣言がでたので、じゃあ黙っていようかと思う貴矢。でも続く猛の想いに揺さぶられる。

「だけど……何か知っているのならば、教えてほしい。俺は委員長だ。クラスの平穏、しいては学校の平和のための役職なんだ。そんな俺が自分のクラスさえ守れなくて、情けないんだ。だからお願いだ。全面的に手伝うから、本当に何か知っているなら俺に教えてくれ。この通りだ」

 椅子に座ったままではあるが、頭を下げる委員長。猛は常日頃から他人を見下す傾向にある。誰かにするのは、お願いでなく命令だ。その彼が、人に頼み込んでいる。

「……んん……」

 王の話は僕と真刃だけの秘密というわけではないにしろ、伝えた瞬間猛はもういままでのようには学校で過ごせないだろう。過去の僕がそうだったように、疑心暗鬼の塊になる。出来ることなら、彼らには普通であってほしい。友達として。黙っていた綴がここでようやく口を開く。

「貴矢。頼む猛に教えてやってくれ。オレからもこの通りだ」

「……?」

 同じように頭を下げる綴だが、今の言い方だとまるで……

「猛だけが知って、君は知らなくてもいいのかい?」

 という風に聞こえる。疑問を呈すると、被害者のカレシは頭を上げ少し寂しそうに笑った。

「ああ。オレは霞が目覚めるまで傍にいてやるつもりだ。悪いが犯人捜しに付き合えねぇ。だけどさ。オレが世界で一番信頼するフツメンと俺様委員長なら、必ず犯人を見つけくれると信じてるからよ」

「俺もお前の言うことは全て信じる。お前と共に、戦いたい」

 猛も真摯な目で告げる。そう二人は貴矢に重き信頼を置いている。貴矢とてその重みが心地良いのは確かだ。ならばこちらは信用していないのか……? 違う。僕も二人を信じている。この気持ちに偽りは無い。張り詰めていた緊張を緩めるため、一息つく。ふぅ……仕方ない、か。

「僕は絵画が大好きな一般人だよ? それでも、いいかい?」

 聞くと同時に満面の笑みになる二人。期せずして、次のセリフは被った。

『勿論!』

 

 では語ろうか。初めから、僕たちに権利はなかったことを。

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