OUTBREAK -勃発ー
翌朝、寝坊した貴矢はいつもより遅めに登校した。
普段きっちり時間通りに起きるので、自分でも驚きだ。人間たまにはあることだが、毎日クラス一番乗りの霞さんは寝坊という概念がないのだろうか。小走りしながら、二階の教室まで駆け上がる。恐らく綴や猛が待ちわびているだろう。いや、綴はカノジョとラブラブかな?
平和なことを考えながら、扉を開ける貴矢。
だが彼の思考とは裏腹に、教室内は不穏な空気が、満ちていた。
「……?」
一瞬で解る。いつもと雰囲気が違う。皆、不安そうな顔つきで各々の友人と話し込んでいる。今日の登校は遅い方なので、ほとんど全員のクラスメイトが一概に不安、不審な表情を浮かべている。
とりあえず綴と猛のほうへ行く貴矢。その二人も類にもれず神妙な顔つきをしているだろう、と思ったのだが、悪い意味で予想は大きく外れる。
二人のうち一人はいつも通り冷静で。もう一人は憤慨と、焦りにを帯びた様子である。言うまでもなく前者が猛で、後者は綴である。
「綴、猛。なにが起きたの?」
なにかあったの、とは聞かない。今重要なのは内容だ。何かが起きたのはクラスに入ったと同時に肌で感じている。人と感性がずれている遅刻ギリギリ男であっても感じられる程、大きな歪であった。
「貴矢? 何が起きた、じゃねえよ! くそっ、呑気にしやがって!」
「おい、やめろ綴。焦っているのはわかるが、人に当たるな。そして落ち着け」
綴の怒りを見ても何も思わない、思えない貴矢。精々、なんか綴に関係する何かがおこったんだな、くらいである。自分の『怒』がない分、人の怒りに疎い。
今日は珍しく綴の机に集まっているな、いつもは僕の席なのに。
『怒』を亡くした少年は、その程度しか感じない。
制された綴は落ち着かない顔をしつつも、貴矢に当たるのは止めた。しかしせわしなく頭を掻きむしったり、貧乏ゆすりをしている。彼の様子に溜息をつき、委員長が話しだす。
「貴矢、お前早朝の事件を知らないのか?」
「……事件? 早朝の?」
緊張が走る。まさかまた暴行事件……!?
「ああ、一昨日俺が言ったやつだ。そして、被害者はこのクラスの生徒」
「え……!?」
慌ててクラス中を見回す。すごく声の大きな女子と話している(一方的に話されている)美少女を見つけ、一息つく。よかった、真刃はちゃんといる。それにしても昨日の今日で、よく話せるよな。薔に関心したところで、気づく。
ある生徒を、見つけていない。いつもクラスで一番初めに登校してくる女の子。貴矢の絵友達で、綴のカノジョの。そして、綴がこうも焦っている理由。
「……猛、もしかして……」
声が震えるのが隠しきれない。腕組を崩さぬまま、普段と変わらないトーンで、今クラスで最も冷静な者は応える。
「……ああ。今朝このクラスで襲われたのは、霞だ」
王は再び、動き出す。