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幽霊恋慕  作者: 水底1号
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第1章 出会い

 「殺女さん?」

 「そ、この学校に昔から伝わる彷徨える亡霊だってよ」


 嬉々として語る友人A、彼とは一年生の頃、窓の外をぼーっと眺めてた所をお節介焼き宜しくと言うように話しかけてきて最初こそスルーしていたがしつこく付き纏われ最終的にこっちが先に折れ、あとはなし崩しに友達関係にまでなった友人A


 「失礼な事考えてなかったか?」

 「別に?それでその殺女さんってのは今度はどんなガセネタなんだ?」


 ガセネタじゃねえよ!と抗議して来るが今まで聞いてきた怪奇現象や幽霊ネタでガセでなかった事などなくハイハイと頬杖付きながら窓の外へと視線を向け友人Aの話を聞く


 「…って、どう見ても聞く姿勢じゃねえじゃねぇか…。はぁ、まぁいいや、その殺女さんだけどな、中々凄いらしいぜ?」

 「お前のアホ面よりもか?」

 「そうなんだよ…って誰がアホ面だよ!自分で言うのもなんだが顔は整ってる方だぞ!」

 「で?何がどう凄いんだ?」

 「スルーかよ!…その殺女さんってのはなんでも人を死に追い込む悪霊らしいんだ」


 またそのネタか、とうんざりする彼に友人Aは不服そうに信じてないのか?と尋ねて来るので当たり前だと返す


 「大体、悪霊なんてそんな大そうなのがいる訳ないだろ」


 自慢ではないが、ここ菖蒲浦校は中高一貫校、なものだから現在5年目の菖蒲浦学校生活を送っているこちらとしてはそういう幽霊ネタなど聞き飽きている。それでも毎度のことネタを拾ってくる友人Aの情報網はある意味で目を見張るものがあるのかも知れないと全く関係ないことを頭の中で思い描く


 「まぁ、聞けって、殺女さんってのは本当にいるっぽいんだよ」

 「何だ?目撃者が多数いるとかそんな感じか?」


 いや違う、と否定すると勿体ぶるかのように一呼吸を置き


 「殺されてるんだよ、殺女さんに」


 神妙な顔つきで言ってくる友人Aには悪いがますます信憑性が薄れる話だと辟易する、そもそも死人に口なし、死んだと言うならどうして殺女さんとやらが殺したと言うのか、その手の作り話は散々だ、と言うと友人Aはさらに声のボリュームを下げ、耳元でささやく


 「死んだ奴が語ってるんじやないんだよ、殺女さんってのはこっくりさんみたく唄で呼び出して相手を殺すらしいんだ」

 「……。」


 これはまた珍しい話題だなと少しだけ友人Aを見直した。この手の話は割と深く調べ如何に本物のであるかのよう作り込まなければならない、ともすればそれは相当の時間と労力だったろうに、と感心する


 「って、信じてねえだろ!」

 「当たり前だろ、第一、殺すってどうやってだよ、それに死人が出たなんて話、ここ最近どころか俺が中学の頃から聞かねえよ」

 「だから黄泉へ連れて行って俺達の記憶から全て消し去って…」

 「32点」


 そう適当に採点して立ち上がり教室を出ようとすると、待て待て待て!と声が掛かる、さすがに投げやりすぎだったかと振り向くと


 「その点数低すぎね!?」


 どうやら点数の低さが友人Aにとって問題のようでそんな彼に言うことなどなにもないと今度こそ教室を出て行く


 「ちょっ、何かツッコめよ!ボケだぞ今のは!おいって!瑞樹!|杜若瑞樹≪かきつばたみずき≫ー!」


 叫ぶ友人Aを無視しながら歩いていく瑞樹、心の中でフルネームで呼ぶなよ、と別のツッコミをいれながら、いつものお気に入りの場所へと向かった




 降り注ぐ太陽の光が屋上を熱した鉄板のように焼き上げる中、貯水タンクの影で昼寝に勤しむ瑞樹。午後の授業をすっぽかすという学生としてあるまじき行為だが今は夏休みの強化勉強会で自由参加である。

 それに別にレベルの高い大学を受ける気などなく、そもそも大学自体受けるかどうかも怪しい瑞樹にとって勉強会などなど暇つぶし程度の価値であり暑い中、教室に籠もるなど考えられないと思っている


 「しっかし、殺女さん、ねぇ…」


 先ほど友人Aが語っていた内容を思い返す、と言っても殺女さんという悪霊がいるというだけでこれといって思い出す内容などないが


 「ま、いいや、昼寝昼寝」


 そう言って寝返りを打つとなぜか背筋が凍るような寒気が瑞樹を襲う、嫌な予感が…と振り向いてみるが特に何かあるわけでもなく飛び降りるなら卒業してからにしなさいと書かれた狂気じみた注意書きがあるだけだった


 「…気のせい、か?」

 『違うわよ?』

 「ッ!?」


 いきなり掛けられた声に飛び起き、辺りを見渡す瑞樹、しかし右も左もついでに後ろを見ても誰もおらず空耳かと安堵した瞬間


 『ばぁ!』


 視界の9割を支配する逆さまに映る女性、鮮やかな赤紫色の長髪に少しだけ吊り上った瞳、ぷくりとした薄いピンク色の唇の綺麗な顔立ちの美しい女性。それだけ目に焼き付けると悲鳴をあげるよりも早く意識を落とし、強制的に夢の中にダイブする瑞樹だった




 「…ぃ…き…」

 「ん…」

 「…きろ…みず…」


 体を揺さぶられる感覚に耳に無断侵入してくる声、せっかく見たくもない現実から目をそむけてるのに誰が邪魔を、と考えてると自ずと拳が前へと突き出た


 「ぐはっ!」

 「んぁ?」


 まるでモブキャラが主人公にやられた時の様な声が聞こえ目が覚める瑞樹、ふと視線を下に移してみると蹲りピクリとも動かない友人Aの姿が


 「返事がない、ただの屍か」

 「生きてるし!勝手に殺すなし!」


 喚く友人に手をさし出し起き上がらせると瑞樹はふと周りを見渡す


 「どうした?」

 「いや、昼寝のとき誰か居た気がしてな」

 「三年とかじゃね?受験でカリカリしてるからお前みたいにサボってたとか」

 「ちなみに女性だった、結構美人だった気が…」

 「探せ!草の根分けて探すんだ!」


 屋上に草などないしそもそも見た気がするのは昼ごろであって今さら探したところで、と思ったがこんなにも必死な友人を見るとそっとしておこうとガラにもなく気を利かせてそっと屋上から出る


 「って、置いていくなよ!」

 「チッ」

 「舌打ちかよ!」


 そんなやり取りをしながら下校する二人、と、ふと教室に忘れ物をしたと友人Aに言うと待っててやるからとってこいよ、と言ってくるがそこまでして貰うのも気が引けるので先に帰ってても良いと先に帰らせ教室へと向かう瑞樹


 「お、あったあった」


 この暑い教室で授業を受ける気はないが勉強自体は嫌いではないので家ではきちんと予習復習を欠かさない瑞樹、ちなみにその旨を友人Aに話すとだったら学校でもしろよとツッコまれたのはいい思い出だと一人クスリと笑う


 『君は何時も一人ね?友達いないの?』

 「だ、誰だ!?」


 突然の声に振り向く瑞樹、しかしやはりそこには誰も居らず廊下に出てもやはり誰も居ない、またも幻聴かとため息を吐くと今度は覚悟を決めて目を開ける


 『ばぁ!』

 「…」

 『あ、あら?驚かないの?ひょっとして見えてない?嘘ぉ…む~、せっかく見える人と会えたと思ったのに…』


 目の前でうろたえる女性、この学校の生徒なのだろうかと思う以前にどうして居るのだろうと思うほうが強かった


 「あんた、幽霊か?」

 『!あ~、良かった、ちゃんと見えてるのね、安心したわ』


 うろたえてたかと思うと今度は手を合わせ嬉々として体をふわふわと揺らし笑顔になる幽霊。確認を取れてないが浮いてるし若干透けてるし幽霊でいいだろうと結論付ける


 『初めまして、って、屋上でも会ったわよね?私、菖蒲って言うの、糸桐菖蒲、よろしくね?』

 「…瑞樹、杜若瑞樹だ。なぁ、あんたが殺女さんなのか?」

 「?そうよ、私は菖蒲、もう、さっきそういったじゃないの」


 どう見ても人を殺すような悪霊には見えないのだが、と思いながらも本人が公認しているので殺女さんなのだろうなと警戒する


 「あんたが来たって事は俺を殺しにか?」

 『?どうして?私は寂しそうに一人でいる君にちょっかい出して元気付けようと思ってるだけよ?』


 ひょっとしたら対象は自分ではないのだろうか?と考え、同時に今すぐか今さっきにでも誰かを葬った後かと考える


 「なぁ、殺女さん…」

 「菖蒲さんだなんて他人行儀好きじゃないわ、ねぇ、菖蒲先輩って呼んで?」


 さん付けと先輩では何か差があるのだろうか?と疑問に思いながらも悪霊相手に逆らうのも無謀すぎかと素直に頷く


 「で、殺女先輩?どうして人を…」


 殺すのか?と思いを込めて尋ねると、菖蒲はどこか諦めたような悲しそうな顔をすると窓の外を見る、つられて瑞樹も向くと赤く染まった空と沈んでいく太陽がまぶしく映る


 『私ね、ずっと寂しかったの、自分がこんな姿になって彷徨って…最初はそこまでだったんだけど私に気付く人なんてずっと居なくて、それでも声くらいなら聞いてもらえて、それも直ぐに居なくなって…』

 「つまり、声を掛けた人間が消えていくって事か?」

 『う~ん、まぁそういう感じとも取れるかしら?遠くに行ったり目の前に現れなくなったり…』


 つまりは彼女は寂しくて人に声を掛けるがそれに応じた人間が彼女の何らかの原因で死んでいくと言うことだろうかと仮説を立てる


 『貴方みたいに私のことを見えて声が聞こえるって人は何人かいたのよ?でも皆居なくなってしまったわ』


 気まずい沈黙が続く中、ごめんなさいね?と菖蒲が謝ってくる


 『つい嬉しくてこんな愚痴聞いて貰っちゃって、貴方もきっと私の目の前から居なくなるんでしょうけどそれまで、それまでで良いから…私の話し相手になってくれないかしら?』


 縋りより上目遣いで見上げてくる菖蒲に瑞樹は一瞬ドキッと鼓動が早まるのを感じながら吸い込まれそうな綺麗な瞳と辛そうな彼女の表情に、思わずはいと頷いてしまった



先輩×後輩と言うものを書きたい衝動に駆られた結果です



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