第五話 合同演習
調査記録 『アイシスの後任』
アイシスの死後、諜報長官の座に誰を着かせるかで、幹部内にて僅かに論争が起こった。結局、諜報部隊の隊員の位を一つ上げることで、解決した。
テスタニア・トルンブロム
性別は男で魔法属性は霧。現在の役職は諜報長官。出身国はヒュノマキマ合衆国。
東大陸内でも特別貧富の差が激しいヒュノマキマ合衆国で生まれ育ったためか、非常に権力欲が強いようで、アイシス諜報長官時代は何かと理由を付けて自分を諜報長官にするよう何度も幹部に打診していた。理由に正当性がなく、ことごとく突っぱねられていたそうだ。向上心があること自体は評価できるが、その方法が他者を貶めるものである点は看過できない。アイシスの死後、諜報長官になるという夢を叶えたが、この程度で満足するような人には見えないため、引き続き注意が必要。
ローズマリー・ウエストモア
性別は女で魔法属性は氷。現在の役職は諜報副長官。出身国はヒュノマキマ合衆国。
20年程前には既に軍敷地内の孤児院にいたらしい。第一印象は、物静かで無愛想な人。トラブルにも冷静に対応し、現場判断が重要な諜報活動において非常に向いていると言えるだろう。容姿は平均よりやや上。スパイとしてどんな事をしているのかは知らないが、ほどほどの地位にいるため良い成績を収めていることが伺える。シャマール・レドモンド前線総司令に思いを寄せているとのこと。アイシス生前、アイシスとシャマールが仲良さげにしている様子を彼女が忌々しく見ていたのを見かけた。独占欲が強い故の嫉妬か、ただアイシスが気に入らないだけなのか、いずれにせよアイシスにとって危険な存在であったことに変わりはなかった。アイシスに似ているレイヴィアに危害を加えないかが心配。
ペトゥロス帝国 軍本部某所
「サルバート連邦軍の皆さま、こんにちは。ペトゥロス帝国軍の外交長官兼、特命全権大使であり、本演習の責任者、リディ・バローネと申します」
そう言って、リディは一礼する
「本日は、遠いところわざわざ合同演習にお越しくださり、感謝申し上げます。早速ですが、これから大まかなスケジュールの確認を行います」
と言い、手元の資料のページを一枚めくった
「まず、今回の演習では『模擬戦』を行う予定です。明日からは、市街戦の演習を。市街戦が終わり休息を取った後、森林戦を行う予定となっております。では次に、『マーカス・チェロニア』統帥補佐官より、ルール説明をお願い致します」
と言い、持っていたマイクをマーカスに渡す
「これより、模擬戦のルール説明を開始する。まず勝利条件は、先に相手の司令部テントを占拠した方の勝利となる。次に戦線の離脱判定だが..............................」
長々としたルール説明が行われる。合同演習のたびに説明されるため、すでに何度か演習に参加したことがある者は皆退屈そうにしており、真面目に聞いているのは今回初参加の新人隊員ぐらいのようだ。あくびまでしている人がいる中、レイヴィアとレイヴンは、隣の列の先頭付近を見つめていた。そして、そこにいたのはテスタニアとローズマリーだった
「..........................となる。最後に、この模擬戦では制限時間を設けていない。故に、守りと攻めのバランスを見極めるように。以上で、ルール説明を終了する」
そう言い、マーカスはリディにマイクを返却した
「ありがとうございました。本日の日程はこれにて終了となります。明日に備え、ゆっくりお休みください」
それを合図に、皆それぞれ宿泊場所である本部周辺のホテルへ向かう。周辺のホテルがいくつか貸し切られていた。部屋割りは自由のため、レイヴィアとレイヴンは同じ部屋で過ごすことにし、その日は早めに休んだ
翌日、朝7時から模擬戦がスタートした。市街戦は滞りなく進み、ペトゥロス帝国軍が勝利という形で3日程で終了した。その後1週間の休息が設けられ、森林戦が開始されたが、そこで問題が起こった。森林戦4日目の20時頃、サルバート連邦軍司令部に1本の通信が入った
『司令部へ通達します!トルンブロム諜報長官と、ウエストモア諜報副長官が何者かに暗殺されました。』
少し時間を遡った17時頃、サルバート連邦軍司令部から通信が入った
『サルバート連邦軍、司令部から通達。今日の野営地の夜間見回りは2人1組で行うように。また、まだペトゥロス帝国軍と交戦していないとは言え、警戒を怠らないように。繰り返す。今日の野営地の夜間見回りは..............』
とのこと。どうやら今日の見回りはペアを作って行うようだ
「レイ。見回りのペア決まった?」
「何、嫌味?決まってる訳ないじゃん...」
そう、この双子は悪い意味で有名人なのだ。この2人とペアを組もうとする人なんてまず居ない。だが今回ばかりは、その状況がありがたいとすら思えた
「だよね~私も決まんない。一緒にどう?」
「奇遇だね、僕も言おうと思ってた」
「あら、そうだったの。なら、もう少し待っておけば良かった」
「わざとらしいな......」
一見何気ない普通の会話だった。だがそこには、周りから不自然に見られないための演出も含まれていた。何やらアクシデントを起こそうと画策しているらしい。そして、見回りの担当時間である18時、2人は行動を開始した。2人は一度テントに戻り、装備を整えることにした。
レイヴィアは銃とナイフを隠し持つ。この2つは彼女のデフォルト装備だ。一方レイヴンは腰に剣を指している。一見支給された特別制の剣に見えるが、中身は彼が愛用している剣だ
「そろそろ見張りの時間だ」
「もうそんな時間?じゃあ行こっか」
2人は見回りを開始した。当たり障りのない雑談をしながら回り始めて半周くらいしたところで人影を発見した
「こちらレイヴィア・フランセン。4時の方向にペトゥロス帝国軍と思われる人影を確認しました。いかがいたしましょう」
『こちら司令部。人数は?』
「目視した限りでは2人です。あ!あちらも気づいたようで、逃げていきます!追いかけますか?」
『追跡してくれ。準備が整い次第、救援部隊を送る』
「了解、レイヴン・フランセン中尉と共に追跡します」
そう言い、2人は森の方へと走って行った。かと思えば途中で方向転換した
「こちらレイヴン・フランセン。4時の方向から200m程進んだところで見失いました。こっち方面に帝国軍の野営地がある模様。このまま進みますか?」
『こちら司令部。深追いしなくていい。そのあたりを捜索してくれ』
「了解」
そう言うとレイヴンはインカムの電源を切る
「本当、このタイミングで敵襲なんて運がいいね。それじゃあ、諜報長官のテントまで行こうか。付いて来て姉さん」
2人はわざと見失ったようだった。少し歩いて目的の場所に着いたらしく、足を止めた
「さあ着いた。確かこの辺りだったはずだよ。準備はいい?」
「もちろん、準備万端よ」
「じゃあ、いくよ」
それを合図にローズマリーが宿泊しているテントをレイヴンの剣で切り裂き、レイヴィアが突入する
「ちょっと、あんた達!?こんな所でな...にを......」
レイヴィアはナイフで喉元を突き、素早く引き抜いた。
「......!............!...」
さっきのさっきの一撃で声帯が切れたのか、あるいは気道に血が入り込んだのかは分からないが、ローズマリーはなにか言葉を発しようとするたびに、喉からゴポゴポと音がなっている。そんなローズマリーにレイヴィアが嘲笑交じりに話しかける
「はっ...まるで『どうしてこんなことをするの?』とでも言いたげですね。ウエストモア諜報副長官?心当たりがない、なんて言わせませんよ?」
レイヴィアは笑っているが、目は笑っていないし殺意も隠しきれていない。続いてレイヴンが歩きながらテント内に入ってくる
「アイシス・フランセン。知らないわけないですよね?そう、僕達の母です」
と言った。アイシスの名を聞いた途端ローズマリーはビクリと反応し、殺意を込めた目でアイシスに似たレイヴィアを見つめる。それに気づいたレイヴィアがローズマリーを床に押し倒す
「あなたとはここで永遠のお別れみたい」
レイヴンから剣を受け取り、ローズマリーに馬乗りになった
「残念ね。これでも私、女性でありながら諜報副長官の地位まで上り詰めたあなたを尊敬していましたのよ?」
「母さんを殺した罪、その命をもって償ってください」
レイヴンがそう言うと同時に心臓めがけて剣を突き刺す。ローズマリーは何度か血を吐きながら咳きこみ、1分程経った頃にはピクリとも動かなくなった
「1人目終了。次はトルンブロム諜報長官だったわね?」
「うん、トルンブロム諜報長官のテントは1つ挟んだ隣だ。気づかれないうちに早く行こう」
そう言い、2人は入ってきた方から出て行った
さっきと同じようにレイヴンの合図と同時にテント内に突入し、レイヴィアがテスタニアに攻撃を仕掛ける
「...っ!」
しかし、テスタニアはそれをものともせず剣で弾き返した
「なんだ、お前ら?俺になんか用か?ははっ!随分大胆な登場だな。危うく死ぬところだった」
曲がりなりにもテスタニアは諜報長官なのだ。ローズマリーのように簡単にはいかないらしい
「くっ!分かってたけど、そう簡単にはいかないわね......」
レイヴィアは後ずさり、テスタニアとの間に間合いを取る
「で?俺に何の用だ?レイヴィア・フランセン大尉?」
「...そうね、お母さんの復讐をしに来た。って感じかしら?」
苦笑いを浮かべながらレイヴィアが答える
「はっ!逆恨みはよしてくれ。まったく、こうなるから子供ごと殺せって言ったんだ。それなのに『子供に罪はない』とか抜かしやがって。連帯責任だろうが」
「あら、ずいぶんとお母さんの悪口が出てくるのね。そろそろこっちに集中してくれる!?」
一気に距離を縮め、喉元めがけてナイフを振り下ろす
「!ぐぁ......!」
しかし、みぞおちに一撃を受け、ナイフを手放してしまった。レイヴィアはその場に崩れ落ち、苦しそうにうめき声を上げる
(こんなことならレイヴンの剣借りておけば良かった)
「そういえば、いつも一緒にいるのはどうしたんだ?どっかに隠れてんのか?」
そこでレイヴィアはハッとする。どうやらテスタニアはレイヴンに気づいていないようだ
「......はは、レイヴンは優しい子なの...そんな子に...私の身勝手な復讐に付き合わせたくない。あの子には、真っ当に生きてほしい...から」
「ほ~ん、大した姉弟愛だ。」
そう言いテスタニアはレイヴィアの近くにしゃがみ、レイヴィアの胸倉を掴む
「だが残念だな。このことが明るみに出れば、その大切な弟は母親だけでなく姉も犯罪者だという汚名を着せられることになる。そうなれば、あいつも今後何かやらかす前に殺せという意見が軍内部から出る。そしたらあいつも処刑され――
「それはどうかな」
テスタニアの眼前でレイヴンが剣を振るった。テスタニアはそれをギリギリで避け、レイヴィアから離れる
(こいつ!いつの間に!?一切気配を感じなかった...だと!)
「雷閃」
そう呟くと、レイヴィアは全身に雷を纏い一気に間合いを詰める
(この女、こっちに来やがる!いや待て、さっきこいつは武器を取り落としたはず。なんでこっちに向かってきて...)
テスタニアがそんなことを考えてるうちに、レイヴィアがしまっていた銃をテスタニアの胸に突きつける
「雷封弾」
発砲音が鳴り響き、テスタニアが後ろに倒れこんだ。レイヴンがとどめを刺すように剣を首に突き立てた。そして、テスタニアは動かなくなった
「姉さん!大丈夫!?」
「へーき。それより早く戻ろう。さっきの銃声聞いて何人か集まってきてる」
「そうだね」
そして、2人は静かに走り去って行った
『雷閃』
雷のような速さで、移動できるようになる身体強化魔法だ。ただでさえ走るスピードが速いレイヴィアがこれを使うと、彼女に追いつける者はほぼいなくなるだろう
『雷封弾』
弾丸に魔力を込めて撃つと、通常の3倍程の威力が出る。魔力さえあれば使えるため、魔法属性を持たない者でも使えるが、込める魔力が少ないと威力が上がらず、逆に多いと暴発してしまうため、使いこなすためには時間がかかる。使う人の属性によって違うエフェクトが出るため名前が異なるそうな




