第二話 情報交換
「さて、ここからは堅苦しいのはなしにしましょう。私が持っている情報を全てあなた達に開示するわ」
リディはテーブルに肘を付き、足を組んで座りなおす。先ほどまでとは打って変わった、砕けた姿勢と態度で話しかける
「私が持っている情報は、『深紅の薔薇』という、昔あった裏組織が関係している可能性が高いという事、それと......」「待ってください!」
レイヴィアが話を遮る
「お母さんは深紅の薔薇の首領だったって聞いていたのですが......違うのですか?」
レイヴィアが戸惑いの表情を浮かべる。リディは少し考える素振りを見せ「なるほど」と呟きこう言った
「......どうやら私とあなた達の知っているアイシスの情報は違うみたいね。あなた達の知っているアイシスを私に教えてはくれないかしら?」
レイヴィアとレイヴンは顔を見合わせる。どうやら彼女達の知る母ですら嘘で塗り固められているようだ
「分かりました。私の知るお母さんは、この国を乗っ取ろうとした軍部の裏組織『深紅の薔薇』の首領で、私の父を暗殺し、その混乱に乗じてこの国を乗っ取ろうと計画した極悪人だった、と聞きました。幸い、暗殺は未遂に終わり、父は一命を取り留めたそうです。それでも、一年ほど昏睡状態にさせたと聞きました。そして、父を暗殺する舞台を作るために色仕掛けをし、その結果できた子供が私たちだとも聞かされました。他にも、他国に情報を売ったり、部下を不当に扱ったりと、良い噂は聞きません。私はいままでこれら全て本当のことだと思っていたのですが、これも嘘なのですか?」
レイヴィアの話を聞き終わるとリディはゆっくり口を開く
「......次は私の知るアイシスを話す番ね。確かにアイシスは傍から見ると、冷徹で狡猾な人に見えるかもしれない。私も最初はそう思ってた。でもね、それは自分を守るための分厚い仮面のような物で本当は誰よりも心優しくて、怖がりで、寂しがり屋な人だったわ。......私の知る限りあなた達の知っているアイシスの話は全て嘘よ。あらかた彼女を疎ましく思っていた人達の策略でしょう。一度国を裏切っているとはいえ、少なくとも恩を仇で返すような人ではなかった」
「待って下さい。母さんが一度国を裏切ったってどういう......」
どうやら今日は双子の知らないアイシスの情報がたくさん出てくるようだ
「ああ違うの。ここでの話じゃないわ、前にいた国のことよ。元々アイシスはフランセン王国軍に所属してて......ああ、フランセン王国っていうのはね、今のユーラリ地方の辺りにあった国でね、そこでの彼女もまたスパイとして活動してて、フランセン王国の敵国だったここサルバート連邦でちょっとした騒動を起こしたのよ」
いままでアイシスのことを知りたがる人が居なく、話す機会がなかったのだろう。リディはニコニコと楽しそうに語っている
「その騒動って?」
「総帥閣下を暗殺してこいって命令を受けたらしいのだけど、普通に考えてそんなの何人居たって無理じゃない?だけど、アイシスったら、1人で乗り込んでしかも閣下の書斎にまでたどり着いたそうよ。しかもそこで閣下に向かって、『王国軍より良い待遇を約束してくれるなら、私の知っている情報を全て開示する』なんて言ったんですって」
クスクスと笑いながら話すリディに少し空気が和むが、次に発せられた言葉でまた空気が重くなる
「そんな経緯で連邦軍に、しかもいきなり諜報長官として入ったのだから元々その座を狙ってた人から恨まれるのは当然だったわ。アイシスも仕方のないことと割り切っていたし、受け入れてもいたけど、まさかこんなことになるなんて......悔やんでも悔やみきれないわ」
膝の上に置いている手に、無意識のうちに力がこもる。アイシスがたくさんの人に恨まれていた事を知りながらも、リディはなにもしなかった。そのせいで彼女は殺された。もしそうなる前になにかしら行動を起こしていれば、こんなことにならなかったかもしれないと後悔しているのだ
「...なら、尚更お母さんを殺した人に痛い目にあって貰わないと!外交長官殿。あなたの知っている犯人の情報を教えてください」
励ますようにレイヴィアが言う。それを聞きリディは微笑む
「そうね、これくらいで落ち込んではいられないわ。これは私が今まで集めた情報で、確実性があるものを厳選したものです。これをあなた達に託します。これをどう使うかは2人に任せるわ。有効に使って頂戴」
そう言い上着のポケットからUSBを取り出しレイヴィアに手渡す
「ありがとうございます!」
「いいのよ。それと、私達はこれから同志になるの。私達しかいないときは、外交長官殿なんて堅苦しい言い方しないで気軽にリディとでも呼んでくださいな。敬語も外してくれていいわ」
「良いのですか?でしたら、リディさんと呼ばせてもらいますね。私のことはヴィアとでも呼んでください!」
「ありがとうございますリディさん。僕のこともぜひレイと呼んで下さい」
「ええ、ありがとう。今日はこれくらいでお暇させてもらいますわ。あまり長くいると怪しまれてしまいますから。来月こちらで会議があるからその時また会いましょう」
2人に一礼し、植物園を出る。時計を見るとかなり長い間話し込んでいたらしく、既に4時を回っていた
「5時から夕飯だから急いでティーセット片付けないと。姉さん?どうかしたの?」
少し俯いたレイヴィアの手には先ほどリディから渡されたUSBが握られていた
「ねぇレイ、そのティーセット私が片付けておくから食堂でご飯食べた後私の分の食事私の部屋に持ってきてくれない?」
レイヴィアはいつになく真剣な表情でレイヴンを見つめる
「いいけど、なんで」
体調でも悪いのかと心配そうにレイヴィアを見る
「この中に入ってる情報を早く確認したいの」
それを聞きほっとしたのかレイヴンは胸を撫でおろし、いじけたように
「やっぱだめ。これは僕が預かる」
「えっ、なんで!?」
「僕だって早く見たいんだから。抜け駆けはずるいよ?姉さん」
「ちょっと!そんなつもりじゃないわよ!あーもう!こんなことなら具合悪いとでも嘘つけばよかった!」
「姉さん嘘つくの下手なんだからすぐばれるじゃん」
「な!そんなことないもん!ってか置いてくなー!あとそれ返せ!」
2人のはしゃぎ声が中庭にこだまする。ここだけ見れば、普段と変わらない日常だろう。お互いに軽口を叩き合い、茶化しあう。でもそれはまるで、嵐の前の静けさのように、なにかが起きる前触れになるのだった




