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第一話 真実を知るモノ

青葉が太陽に輝き、初夏の風が髪を揺らす昼過ぎ。少年は木陰に腰を下ろしていた

「お休みのところ失礼いたします。フランセン中尉であらせられますか?」

少年が声のする方を見ると、20代半ば程の女性が立っていた。きめ細やかな白い肌に細い手足、整った顔にアメジストのような瞳。きわめつけには腰まで伸びたプラチナブロンドの髪が風に乗ってサラサラとなびいている

「...どちら様でしょう?」

「あら、私としたことが名乗り忘れていましたわ。申し訳ございません。私は隣国、ペトゥロス帝国の外交長官 兼 特命全権大使、『リディ・バローネ』と申します」

女性の名を聞き、少年は慌てて立ち上がり姿勢を正す

「ペトゥロス帝国の外交長官殿でしたか、先ほどの無礼をお許し下さい。私は『レイヴン・フランセン』。外交長官殿の探し人で間違いないかと」

と言い、レイヴンは深々と頭を下げる

「頭を上げて下さいな。元はと言えば、名乗り忘れた私の落ち度ですから」

と少し慌てたように言い、話題を切り替えようと試みる

「それより、改めて名乗らせてください。私は今は亡きあなた方の母『アイシス・フランセン』の友人リディ・バローネです」

それを聞き、レイヴンは目を見開く

「...母の友人が私たちになんの用ですか?」

少年は少し問い詰めるようにリディに問う

「アイシスとの約束を果たしに来ました、今はそれしかお伝えできません。差し支えなければあなたのお姉様、『レイヴィア・フランセン』大尉もこちらにお呼びいただけますか?3人で少し話をしませんか?」

「...分かりました、少々お待ちください。すぐに呼んで来ます」

なんとか平静を保って答える

「ではあちらの植物園でお待ちしています」

と言い残し、颯爽と歩いて行ってしまった。客人を待たせるわけにもいかないので、レイヴンもレイヴィアのいるであろう彼女の自室に急いで向かった。


レイヴィアの自室前に着き、ノックをする

「どうぞ」

「失礼します、姉さん」

「あら?もう夕食の時間?呼びに来てくれたの?」

報告書を書いていたのか、机にはたくさんの書類が積まれている

「いや、まだ2時だよ。夕飯で呼びに来たんじゃない」

「じゃあ、何しに来たのよ?あ!もしかして1人で寂しかったのね?それとも怖い夢でも見ちゃった?怖かったねーよしよし。ほら!こっちへいらっしゃい、お姉ちゃんが慰めてあげるわ!ごめんね、かまってあげられなくて」

レイヴンに向け手招きする

「いつまで僕を子供扱いするつもり?」

「私から見ればいつまで経ってもレイヴンは私の可愛いくて頼りになる弟よ!ほーら!遠慮しないで、こっち来なさい?」

「わ!ちょっ、姉さん!」

レイヴィアがレイヴンを抱きしめ、頭をわしゃわしゃと撫でる

「やめてよ姉さん!それにどっちも違うよ、離して!...僕たちにお客さん。植物園で待たせてるから早く行くよ」

姉さんのせいで髪ぼさぼさなんだけど、などと悪態を付きながらレイヴンは手櫛で髪を整える。あらかた元の髪型に戻ったことを確認し、レイヴィアの部屋を後にした

「ところでお客さんって誰?今日は私達2人共オフだし、面会の予定とかなかったよね?」

「...ペトゥロス帝国の外交長官殿だよ。それになんだか訳ありみたいだ。詳しい話は会って直接本人に話を聞く方がいいと思う」

「ふ~ん、私達に来客なんて珍しいこともあるものね。しかもかなりの高官で訳ありなんて...」

途中厨房に寄りティーセットを拝借し、植物園へ向かう

「この時期のあそこは虫が多そう...嫌だな~、虫は苦手なんだよ」

「そうでもないと思うな、あそこは結構そういうとこしっかりしてるから」

「へー良く知ってんね。てかなんで分かんの?」

「あそこには虫が嫌う植物や毒を持つ植物がかなりの数植えられていたからね」

あれこれ話しているうちに植物園に着く。中に入ると色とりどりの草花が出迎え、そのちょうど真ん中にガーデンファニチャーが鎮座し、テーブルの上に置かれた小さな植木鉢に植えられた花を愛でる女性がいた

「外交長官殿であらせられますか?」

レイヴィアの声を聞きこちらを向く

「ええ、レイヴィア・フランセン大尉ですね?」

「はい、お待たせしてしまい申し訳ありません。改めて、レイヴィア・フランセンです。外交長官殿がお呼びと伺い参りました。」

先ほどまでの和やかな雰囲気がなくなり、2人共真剣な眼差しをリディに向ける。それを感じてか、リディが

「そんなに警戒しないで下さいな。別に取って食おうだなんて思っておりません。今日はただ大切な友人との約束を果たしに来ただけです」

「友?それはいったい誰の?」

「あなた方双子の母アイシス・フランセンです。今日は彼女との約束を果たしに来ました」

そう言い、鞄から2通の手紙を取り出す

「アイシスが子供たちが18歳になったら渡すようにと残した2通の手紙です。確か今日が18歳のお誕生日でしたよね?」

「ええ、そうですが」

戸惑いを隠せぬままレイヴィアが答える

「お誕生日おめでとうございます。ささやかながら私とアイシスからの誕生日プレゼントだと思いこの2通の手紙を受け取っては頂けないでしょうか?」

2通の手紙を差し出される。2通の手紙にはそれぞれ『私のまだ見ぬ愛しい子へ』と書かれている。

受け取って良いものかレイヴンが悩んでいると、レイヴィアがスッと手を伸ばし自分の分の手紙を取った

「ありがとうございます」

「...ありがとうございます」

それに習うようにレイヴンも手紙を手に取る

「今ここで開封してもよろしいでしょうか?」

早く中身を知りたいとうずうずしている2人を見てリディが

「かまいませんよ。私もなにが書いてあるのか知らないので、差し支えなければ内容を教えていただけると嬉しいです」

「ありがとうございます。立ちながらでは疲れてしまいますし、どうぞ座って下さい。ほらレイヴンも、座って」

「あ、はい。失礼します」

数十分ほど沈黙が流れる。2人はそれぞれ母からの手紙を食い入るように読んでいた。だが、その表情は次第に曇っていった。レイヴィアに関してはうっすらと涙すら浮かべている。読み終わる頃にはリディが心配し声を掛けるほど2人の表情は曇っていた

「あの、本当に大丈夫ですか?良ければ手紙を拝借しても?」

その問いかけに対しレイヴンが

「誰にもこの手紙の内容を見せるなと書いてあるので、私の口からで良ければお話しします」

「分かりました。ぜひとも聞かせて下さい」

レイヴンは手紙の内容を淡々と語った


・この手紙を誰にも見せないでほしいという前置き

・この手紙を書いたのは子供達の成長を見届けられないが、母の思いの丈を子供達には知っていてほしいから

・母は罪を犯してなどおらず、誰かの陰謀により嵌められてしまった事

・そしてそれを2人には信じてほしい事

・罪人の子として苦労を掛けてしまうだろう事と、その謝罪

・どんなに周りの人間が2人を非難し差別しようとも、お互い支えあって生きてほしい事

・父親は誰で、不器用な人だからあなた達は苦手かもしれないけど、本当は優しい人だからうまく付き合ってあげてほしい事

・母は2人をとても愛しているという事


話し終えたレイヴンは目に涙を浮かべていた。レイヴィアの手紙にも同じようなことが書かれていたらしく、彼女はこらえきれず涙を流し、小さな嗚咽だけが聞こえていた

「あの子ったら、結局真実を教えることにしたのね」

「...外交長官殿は、知ってたんですか?母が冤罪だと」

レイヴンが問う。レイヴィアも同じことを思ったようで、視線をリディに向ける

「もちろん。私の知る限りでは、彼女は一度たりとも罪を認めたことすらありませんでした。そして私も彼女の言葉を信じていました」

少し悲しそうな顔を浮かべるリディ。それを見た2人は彼女もまた、冤罪により大切な友人を失った自分達と同じ側の人間だと知った

「......私....私は、復讐したい。お母さんを貶めた犯人を見つけ出して、この手で殺したいです!そのためにはなんだってやれます」

この手紙を読んだときレイヴィアは悲しみとやるせなさが心を満たすと同時に、怒りと復讐心に燃えていた

そしてそれはレイヴンも同じだったようで

「僕も、母さんを苦しめて追い詰めた奴らに腹が立ちます。今すぐにでも犯人を突き止めて、死んだ方がましだと思うくらいの苦痛を味わせてやりたい程に!」

「...その気持ちはよく分かります。でも、もしアイシスがそれを望んでいなかったとしても、あなた達は復讐をしますか?」

「...母さんには申し訳ないけど、」

「...それでも私達はお母さんの仇を打ちたい」

リディは確信した、もうすでにこの2人を止めることはできないと

「...分かりました。私が今持っている情報を全て出しましょう」

「それって!」

「私にも復讐の片棒を担がせて下さい」

(ごめんなさいアイシス。私には彼女たちを止めることはできない。彼女たちの決意は固すぎる。

それに、私も心のどこかでこの瞬間を待ち望み、密かに情報を集めていたから。私も彼女たちと同じ側の人間だから)


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