第十二話 約束
調査記録 『同性愛者』
自分と同じ性別の人を恋愛的または性的に好きになる人のこと。男性の場合は男性を、女性の場合は女性を好きになる人を同性愛者と呼ぶ。世界的には認められておらず、国によっては迫害の対象になることもある。もし同性に好意を抱いたなら、心苦しいかもしれないが黙っていた方が賢明だろう。
クラウディア・ディルーカ
性別は女、魔法属性は草。現在の役職はサルバート連邦軍、軍医総監。出身はカウロテリア皇国。年齢は33歳。
淡い黄緑色の髪に黄色の瞳の女性。彼女の出身国カウロテリア皇国は『リンメレイム聖教』という宗教が信仰されており、クラウディアも信徒の一人。
そして、おそらく同性愛者だ。彼女とはアイシスを通して何度か会ったことがあるが、彼女がアイシスに向ける目は『愛しさ』や『慈しみ』に溢れており、とても『友人』に向ける表情とは思えない。そして、残念なことにリンメレイム聖教では『同性愛は罪』とされている。彼女がアイシスに好意を抱いていることに自覚があるのかどうかは分からないが、どちらにせよ気付いたときの絶望はとてつもないだろう。信心深い信者ほど、そういう時の罪の意識は半端じゃない。
時は少し遡り、4日前。レイヴンは植物園でリディと会っていた
「聞いたわよ。ヴィアが捕まったんだってね」
「はい」
レイヴンは淡々とした口調で答えた
「何があったの?私の工作は完璧だったはず。だから犯人が捕まるわけないのに。一体私がいない間に何をしたの?」
そう言うリディの表情は不安でいっぱいだった
「......総帥閣下を暗殺しようとしました」
「え......あなた今なんて言ったの?バルバロッサを暗殺しようとした?あなた、それがどれだけリスクが高いか分かっててやったの!?」
リディがレイヴンに掴みかかる。さすがにその行動は予想していなかったのか、レイヴンは目を見開いている
「落ち着いてください、リディさん。この話には続きがあるんです」
レイヴンがそう言うとリディが掴んでいた手を放す
「どういうこと?ちゃんと説明なさい!」
「まず前提として姉さんにはわざと捕まってもらいました。それから......」
レイヴンは作戦の内容をリディに説明した
・確定した情報がなく、復讐を進めづらかったこと
・そこで思いついたのが、『こちらが捕まれば、あっちは油断して尻尾を出してくれるのではないか』ということ
・もちろんレイヴィアをこのまま死なせるわけにもいかないので、ちゃんと救出作戦は立てていること
「......というわけなんです。なので、ここまでは作戦通りなんですよ。後は、姉さんがどれだけ情報を持ってきてくれるかだけなんです」
「なるほどね。さっきは取り乱して悪かったわ。でも、危ない橋を渡っているのに変わりはないわ。今からでも私に協力できることはある?」
レイヴンの説明を聞き、リディは納得したようだ
「なら、1つだけいいですか?」
遠慮がちにレイヴンが言う
「もちろん」
「姉さんを救出した後、僕達はここにはいられません。なので、復讐を終えるまでの間匿ってくれませんか?」
「......申し訳ないけど、それはできないわ。私があなた達を匿うためにはペトゥロス帝国に行かないといけない。でも、国境は厳重に警備されているからそこを超えるのはかなり厳しいの。でもね、私の代わりにあなた達を匿ってくれそうな人なら知ってるわ」
「本当ですか!?」
「帰ったらその人に連絡を取ってみるわね。安心して、信頼できる人だから」
「ありがとうございます!」
レイヴンは深く頭を下げた
「じゃあ、早速帰って連絡を取ってみるわね。それじゃあまた、2人の無事を祈っているわ」
そう言いリディは帰路についた
「リディ」
正門へと向かう途中誰かに呼び止められた。振り向くとそこにはシャマールとクラウディアがいた
「......なに?」
「少しいいか?」
シャマールがそう言うと、リディは呆れたような顔を見せこう言った
「はぁ、どの面下げて私に話しかけているのかしら。私はあなた達に用なんてないわ」
そう言いリディが歩きだそうとしたとき、クラウディアがこう言った
「アイシスのことよ。それと、レイヴィアとレイヴンについても。少し話をしましょう」
「......!」
それを聞きリディは足を止め、2人を見る
「少しだけよ」
「ありがとう。あまり人に聞かれたくないし、カウンセリングルームにでも行きましょう」
クラウディアがそう言い、3人は建物内へと入っていった
「それで、話って何?」
カウンセリングルームに着くや否やリディが話を切り出す
「なあリディ、お前アイシスのこと2人に話しただろ?」
「ええ、話したわ。だったら何?私はアイシスとの約束を果たしただけ。それに2人にも真実を知る権利はあるはずよ?」
悪びれる様子もなくリディが言う。実際リディはアイシスとの約束を守っただけに過ぎない。復讐をする選択をしたのはあくまで2人なのだから
「なんで止めなかった!?アイシスは、復讐なんて望んじゃいない!」
「うるさいなあ!別にいいでしょう!?2人が望んでやってんのよ!?アイシスだって、きっと分かってくれるわ!それに――
「2人とも!少し落ち着きなさい!」
クラウディアが声を荒げた。クラウディアの声に2人は冷静さを取り戻し、声のトーンを落とした
「そうかもしれないが、だとしても2人のためを思うなら、こんなこと今すぐにでも止めさせた方がいいに決まってるだろう」
「......あの子達のことを知らないくせに、勝手なこと言わないで」
その言葉にクラウディアとシャマールは黙り込んだ
「ねえシャマール、私はあなたが嫌いよ。アイシスの手紙を言い訳にいつも真実から目を背けてる。ねえ、いつまでそうするつもりなの?」
シャマールは何も言い返すことができないようで、リディと目も合わせず黙っている
「クラウディア、あなたもよ!あの時、あなたは処刑を止められる立場にいた。なのに、どうして止めなかったの!?」
「それは......その...」
クラウディアが口ごもる。それを見て呆れたようにリディが続けた
「それだけじゃない。レイヴィアとレイヴンのことだってそうよ。あの子達が周りからどんな目で見られているか、どんな環境で育ってきたのか知っていたでしょう!?」
「!......それは、だってどうしようもないじゃない!もし庇ったとしてヒートアップしたらどうするの!?もっと苦しい思いをすることになるのよ?そうなるくらいなら、最初からなにもしない方がいい」
クラウディアの発言にリディは呆れを隠さずため息をついた
「初めて2人に会った時、2人は全てを諦めたような顔をしていた。『この世で信じられるのは自分と双子の片割れだけ』とでもいうような目で私を見ていたわ。今までずっと、なんでそんな顔をしているのか分からなかった。でも、」
リディは2人に問い詰めるような視線を向け、話を続けた
「今分かったわ、誰も助けてくれなかったからだったのね。だからあんなにも簡単に復讐することを決意できた。もっと2人を気に掛けていれば、そこまで世界に絶望することはなかったかもしれない。助けられた思い出で踏み留まれたかもしれない!こんなことになったのは半分あなた達のせいよ!?」
そうまくし立てると、リディは少し息を荒げていた
「......話はこれで終わり。もう帰るわ。私だって暇じゃな――
「お前だってアイシスの復讐をしたがってたじゃないか」
荷物を持ち、帰ろうとするリディに向かってシャマールがそう言った
「......は?何?言い返せないからって、そんなことで私を問い詰めようっての?一応言うけど、復讐する決断をしたのはレイヴィアとレイヴンよ。私から言ったんじゃない」
「なら、どうして前々から情報を集めていたんだ?復讐するつもりがなかったなら、そんなことをする必要はないはずだが?」
「それは......」
リディがあからさまに動揺しだした。それを見たシャマールがさらに話を続ける
「最初から、ヴィア達を使って復讐するつもりだったんじゃないのか?」
「......っ!」
シャマールの問いにリディがたじろいだ。そして、分が悪いと感じ取ったのか、扉へと走り出す
「逃がさないわよ」
扉の前にはすでにクラウディアが回り込んでおり、リディは逃げ道を失う
「どきなさい、クラウディア!」
「その前に、シャマールの質問に答えて」
リディはクラウディアを睨みつけるが、一歩も引かないクラウディアの様子に観念したのか、先ほどまで座っていたソファーに座り直し、話し始めた
「確かに、私はアイシスの復讐を望んでた。でも、アイシスがそれを望んでいないことも分かっていたわ。だけど、真相は知りたかったの。本当に知るだけ、黒幕が分かってもそれを誰かに言うつもりもその人に危害を加えるつもりもなかった。だから私は情報を集め続けた。そして黒幕も分からぬまま、2人の18歳の誕生日になった。だからアイシスとの約束を果たすために2人に会った」
「そして、2人の復讐に力を貸したのか?」
これまでの話を聞き、シャマールがそう問いかけた
「そうよ。これで満足?悪いけど、本当にそろそろ帰りたいの。もういいでしょう?」
リディは立ち上がり、腕時計を見ながらそう言った
「ええ、もう大丈夫よ。こんな時間まで引き留めちゃって悪かったわ」
クラウディアがそう謝罪し、扉を開ける
「それじゃあ、私はこれくらいで失礼するわ」
そう言って、リディは部屋を後にした。廊下を足早に歩くリディの顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた




