第九話 作戦実行
調査記録 『二人で一つな軍務長官』
うちの国の軍務長官は二人いる。だが、公式には一人となっている。それはなぜか、その答えは簡単で、周辺国の目を欺くためだ。ただでさえ強い幹部が、実は一人多かったなんて、他国からしたらたまったもんじゃない。そして、この事実はサルバート連邦軍幹部しか知らない機密情報だ。
アスカ・シノノメ
性別は女で魔法属性は雷。現在の役職は軍務長官で、出身は菫沢共和国。年齢は32歳。
黒髪に紫のメッシュが所々にあるのが特徴的で、本人曰く生まれつきらしい。瞳の色は淡めの黄色。そして彼女には、かなり親しくないと区別がつかない程そっくりな双子の妹がいる。
彼女の出身国である菫沢共和国は、サルバート連邦がある東大陸のほぼ反対側にある西大陸の近くにある島国だ。実際に行ったことはないが、話を聞く限り自然豊かな国らしい。また、島国ということもあってかかなり閉鎖的で、自国の人をあまり他国に行かせないし、他国の人をあまり受け入れないのだとか。そのせいか、かなり独立した文化を形成しているらしい。たとえば、彼女の祖国ではファミリーネームが名前の前に来るのだとか。その他にも、アスカの普段着や武器などはいままで見たこともないような物ばかりで、とても興味がそそられる。
アイシスのことはどう思っていたのか正直よく分からない。ただ、悪い印象を持っていたわけではなさそうだ。
マドカ・シノノメ
彼女のプロフィールはアスカと全く一緒だ。性別も、魔法属性も、出身国も、年齢も、見た目も。だからここでは二人の違う所を書こうと思う。
まずは性格。いくら見た目がそっくりでも、性格はかなり違う。アスカは礼儀正しく品行方正で、誰に対しても敬語を使うような人なのに対し、マドカは少し荒っぽく大体の人にため口で話す。とは言えアスカのふりをしている時は、礼儀正しく品行方正に振る舞うため。ただアスカと区別しやすいようにそうしているだけの可能性もある。次に、戦闘方法。二人とも『刀』と言われる菫沢共和国特有の武器を使っているが、アスカは左手を、マドカは右手を軸に刀を振っている。これはおそらく二人の利き手の違いから来ているのだろう。今でこそ二人とも右手でペンを持ったりしているが、アスカは元々左利きだったように思える。その証拠に左手で字を書かせたほうが上手く書けている。
これくらいだろうか。正直、本当に二人いるのかと疑いたくなるほどそっくりだ。大抵の人は言われるまで気づかないだろう。
2日後、レイヴィアとレイヴンはシャマールに先日の謝罪をするという名目で再び幹部棟に来ていた。
コンコンとシャマールの自室の扉をノックすると、少ししてからシャマールが顔を出した
「はーい、どちらさ......ヴィア!それにレイ!え~とその、よく来たね」
前回会った時、喧嘩してしまったため若干気まずいのかレイヴィアと目を合わせようとしない
「......とりあえず入ってもいい?お父さん」
「ああ、もちろん!どうぞ」
そう言って2人を部屋に招き入れる
「今お茶を入れるよ」
「いらないわ。今日来たのは、この間のことで謝りに来ただけよ。この間はついカッとなって言い過ぎちゃったわ。ごめんなさい」
そう言ってレイヴィアは深々と頭を下げる。シャマールは慌ててレイヴィアに頭を上げるように言った
「頭を上げてくれ!俺の方こそ言い過ぎてしまった、申し訳ない。その、許してくれないか?」
それを見たレイヴィアはクスっと笑いをこぼした
「やっぱり、私とお父さんは似てるわね。でも、だからこそ不思議なの、どうしてお母さんの復讐をしようとしないの?」
「......前にヴィアが言った通り、怖いんだよ。真実を知るのが」
「そう。お父さんがお母さんの復讐をするつもりがないなら、私達がやる」
突然のレイヴィアのカミングアウトにシャマールだけでなくレイヴンも驚いている
「ちょっと姉さん!?もう復讐はやめると言ってたじゃないか」
「ごめんなさいね、レイ。嘘をついちゃって。やっぱり私、お母さんの復讐をしたい」
そう言ってレイヴィアはシャマールへ向き直した
「どうしてだヴィア、どうしてそこまでして復讐しようとするんだ?もし、ばれれば何もかも失うんだぞ?それでもいいのか!?」
「そんなの覚悟の上よ。お母さんの復讐を成し遂げられるなら、私は死んでも構わない」
シャマールはレイヴィアのあまりの覚悟に圧倒され、何も言い返せなくなってしまった
「私達からの話はこれでおしまい。それじゃあ、またね」
「待ってくれ!次は誰を狙うつもりなんだ?それだけ教えてくれないか?」
その問いに扉へ向かっていたレイヴィアの足が止まった。言うべきか考えているようだ。少しの沈黙の後、シャマールの問いに答えた
「バルバロッサ総帥閣下。次のターゲットは彼よ。この情報をどうするかはお父さんに任せる。それじゃ、私達は失礼するわ」
そう言って、2人は部屋を出て幹部棟の最上階へと向かった。2人の顔には薄く笑みが浮かんでいた
最上階に着いてすぐ、近くの空き部屋へと2人は入り込む
「さて、ここからは換気ダクトを伝って行く予定だけど、ちゃんと掃除されてるかしら?」
と言いながら、レイヴィアは換気ダクトの蓋を外す作業に取り掛かる
「あまりにも汚かったら総帥室に正面突破することにしよう。さすがに僕も埃まみれのとこには行きたくないし......」
そんなことを言っているうちに蓋が外れたようだ。2人は中を覗き込む
「あら、案外綺麗にされているのね。うちの清掃員さんは優秀だわ!さあ、行きましょう。道案内は任せた!」
「......姉さんが1人で行ってもいいんだよ?」
「どこに着いてもいいのなら、そうするけど......どうする?」
「やっぱ僕が案内する」
そう言ってレイヴンは換気ダクトの中に入って行った。何度か曲がりながら、なるべく音を立てないように慎重に進んだ。しばらくしてレイヴンが1つの蓋を指差しながら、レイヴィアにぎりぎり伝わるかどうかくらいの声量で話しかける
「着いた、ここだよ」
レイヴンの声は聞こえていたらしく、レイヴィアは場所を交代するようにジェスチャーする。レイヴィアが蓋の網目越しに室内を覗き見ると豪華な執務机、それと向かい合って書類の確認をしているバルバロッサが見えた。それを確認したレイヴィアがレイヴンに戻るよう指示を出す。レイヴンが見えなくなった頃、レイヴィアは思いっきり蓋を蹴り飛ばし、その勢いのまま総帥室に入る
「何者だ!!」
バルバロッサが驚いて椅子から立ち上がった
「ご機嫌麗しゅう、総帥閣下。レイヴィア・フランセンと申します」
そう言ってレイヴィアは右手でこぶしを握り、左胸にあてた。これは総帥の前でのみ行う最上位の敬礼だ
「あら、驚かせてしまったようですね。そんなつもりはなかったのですが、申し訳ございません」
レイヴィアはクスリと笑いながら、心にもない謝罪をする
「......アイシスの娘か、そんな所から入り込んできて一体何の用だ?普通にそこの扉から入って来れば良いではないか」
バルバロッサは驚かされたことに少し腹を立てているらしく、少し高圧的だ
「そう、ですね。母の仇を討ちに参りました」
「......は?」
「雷閃」
そうぼそりと呟き、レイヴィアはバルバロッサとの距離を一気に縮め、喉元に向けてナイフを振るった。......が、バルバロッサはそれを華麗にかわし、逆にレイヴィアに一撃を加えようとする。それに気づいたレイヴィアは後ろに跳び、再び一定の距離を保つ
「......さすがは総帥閣下ですね。この程度じゃやられませんか」
「こんなのでも一国のトップなんだ。自分の身くらい自分で守れなくてどうする」
「それもそうですね。では、次から本気で行かせてもらいます!」
そう言い、レイヴィアはガンホルダーから愛用の銃を取り出した。バルバロッサもまた、執務机の下に忍ばせていた2本の剣を取り出し応戦する
「待て!少し話し合わないか!?」
「そんなことを言うなんて、随分余裕がおありですね!?なら、存分に魔法を使わせてもらいます!磁界補正!」
レイヴィアに話し合う意思がないことを確認したバルバロッサは、レイヴィアの攻撃を避ける事に意識を集中させる。次々と繰り出されるレイヴィアの攻撃をバルバロッサは、ただかわし続けた。それに違和感を持ったレイヴィアは攻撃の手を少し緩め、こう問いかけた
「総帥閣下。失礼ですが、もう少し強かったですよね?どうしたんです?」
「さっきから言っているだろう!?話し合わないかと!」
またそれか、とでも言いたげに嘲笑しながらレイヴィアが語りかける
「一体何を話し合うんです?話すことなんてなにも――
「アイシスの事についてだ。それと深紅の薔薇についても」
それを聞き、レイヴィアは攻撃の手を止めた
「......そうやって、時間を稼いで他の幹部達に助けて貰おうという魂胆でしょう?騙されませんよ」
レイヴィアが訝しげに問いかける
「はは!どうだろうな?だが話をしたいのは本当だ。君とは一度、腹を割って話をしたかったんだ。どうだい?ゆっくり茶でも飲みながら語り合おうじゃないか」
その誘いにレイヴィアは少し考え、次のように答えた
「そのお誘い、受けさせていただきますわ。ですが、こちらから1つだけ条件を付けさせていただきます。よろしいですね?」
「ああ、構わない。なんだね?」
バルバロッサがそう言うとほぼ同時に、レイヴィアがバルバロッサの肩にナイフを投げた。見事に命中し、バルバロッサはその場に座り込んだ。レイヴィアはバルバロッサにゆっくり近づきながら、こう語りかけた
「驚かせてしまい申し訳ありません。ですが私は今日、母の復讐としてここに来ていることをお忘れなく。お茶は結構です、その状態では淹れるのも困難でしょうから」
「......はは、油断してしまったな。これは、かなり痛い......こんな痛みは、久しぶりだ」
バルバロッサがそう言い終わったあたりで、レイヴィアはバルバロッサの元へたどり着き、しゃがんで彼と目線を合わせ、話を続けた
「私と語り合いたいとおっしゃっていましたね、心ゆくまでお話ししましょう。大丈夫ですよ、急所は外しましたので、たとえ深く刺さっていたとしても致命傷にはなりません。ああ、それと」
そう言ってレイヴィアは、バルバロッサの肩に突き刺さったままのナイフに手をかけた
「このナイフは返してもらいますね。レイから貰った大切な物なので」
そう言い、レイヴィアは勢いよくナイフを引き抜いた。バルバロッサが苦しそうな声を上げる
「いったいなぁ、もう......もう少し優しく引き抜いてくれてもいいじゃないか!?」
「申し訳ございません。少しでも多く苦しんでほしくてつい一気に引き抜いてしまいました」
レイヴィアは悪びれる様子もなくむしろ楽しそうにそう言った
「それより、早くお母さんの話を聞かせてください。早くしないと誰か来ちゃいます」
「ああ、そうだな。まずは、彼女と私の出会いから話して――
「バルバロッサ~?昨日頼んでおいた書類にハンコ押してくれ...た......」
「ほーら、言わんこっちゃない......」
ノックもなしに入って来たのは、『アスカ・シノノメ』軍務長官だった
「......これは一体どういう状況です?それにその制服、うちの制服ですよね?こんな事をして、一体なにを考えているのですか!?」
そう言ってレイヴィアを睨みつけ腰に下げた刀を構える
「そんなに警戒しないでくださいよ~シノノメ軍務長官。総帥閣下に一撃与えただけじゃないですか」
「だけって、あなたね......十分重罪なのですが?そもそも、一体何の理由があってこんな事――
「母の復讐のためです」
アスカの問いに間髪入れずレイヴィアが答える
「申し遅れました。私、アイシス・フランセンの娘のレイヴィア・フランセンと申します」
それを聞き、アスカは驚き黙り込む。少ししてから我に返り、レイヴィアに冷たい視線を向ける
「......アイシスさんは国家に背いた。それは事実です。ですから、処刑されて当然だったのです。それなのに逆恨みして復讐をするとは、『蛙の子は蛙』なんてよく言ったものですね」
「何を言っているんです?蛙の子供はオタマジャクシでは?」
「......私の祖国にある『ことわざ』というものです。機会があれば、他にも教えて差し上げますよ。まあ、そんな機会は来ないかと思いますが」
そう言ってアスカは、雷のような速さでレイヴィアに近づく。いきなり目の前に現れたアスカに驚き、レイヴィアは咄嗟にアスカと距離を取った
「軍務長官も雷属性なのですね。私とお揃いだ!」
レイヴィアは適度な距離を保ちながら、銃に弾を込める。弾を込め終わると、磁界補正や雷装填、雷封弾などを駆使しアスカに応戦するが、さすがのレイヴィアも幹部と本気でやりあうと敵わないらしく、少し押されている
(さすがは幹部、強いわね。このままなら負けてしまうわ。隙をついてなんとかこの状況を抜け出さないと)
レイヴィアは、アスカの一瞬の隙を突き体勢を立て直すため、防御に徹する。そして、アスカが刀を振り下ろす際、右手を軸に刀を振っていることに気づいた
(振り下ろす直前に左側に一瞬だけ隙が生まれている。次に剣を振り下ろす直前になんとか左に回り込めれば!)
レイヴィアはそう考え、反撃の準備をする
(今だ!雷刻射!)
レイヴィアはアスカの懐に潜り込み雷印を込めた弾を撃つ。そして間髪入れずナイフで弾が撃たれた辺りを斬った
「え......っ!?!?」
アスカの口元から赤が滲み、そのまま崩れ落ちる。足元を見ると、床に赤色が広がっていった。
「はぁはぁ。さて、邪魔者は居なくなりました。お母さんの話を聞かせてくださ............」
そう言いかけてレイヴィアもその場に倒れ込んだ
(頭が痛い......もう1人いたのか、気付かなかった)
どうやらレイヴィアは誰かに頭を殴られ、脳震盪を起こしたようだ
「マドカ!!しっかりして!!マドカ!!!」
と言いながらアスカに近づく、アスカとよく似た人の姿がぼんやりと見える
(マドカって誰?......それに、軍務長官とそっくりなあの人は誰なの?私、幻覚でも見ているのかしら)
その光景を最後にレイヴィアは意識を失った
磁界補正
ほんの少しだけ弾道を曲げることができる技。軌道が予測されにくくなり、命中率が格段に上がる優れ技。曲がる方向は、使い手の魔力量が多ければ多いほどコントロールしやすい
雷装填
弾に微弱な電撃を付与させる。攻撃力はあまり高くないが、相手を一時的に感電させ怯ませることができる。相手が複数人の場合に使う事はおすすめしない
雷刻射
レイヴィアの必殺技のうちの1つ。弾に微弱な雷印を仕込み、ナイフでその印を斬ると体内で印が弾け、体内から切り裂かれる。想像を絶する痛みを伴い、痛みのあまりショック死する事の方が多い。単発の威力は普通の銃やナイフより少し威力が強いくらいのため、銃で撃ってからナイフで斬ることが前提の技




