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【短編】妖狐の洋子さん クリスマスに憧れて学校に潜入したらハズレ召喚されたのだが

作者: 月野槐樹
掲載日:2025/12/23

私は妖狐の洋子。狐の妖怪よ。

洋子って名前は、ずっと前に知り合った人間がつけてくれたの。


最近、街のあちこちがキラキラしてくる時期になったわ。

知っているのよ。「クリスマス」っていうのよね。


それでね。今日は「高校」ってところに潜入して見ているの。

だって、この「高校」って言う場所に集まっている女の子達が話しているのを聞いちゃったのよ。



『ねえ。クリパのケーキ、予約してたっけ』

『バッチリだよ! カラオケ屋もクリスマスはケーキの持ち込みOKだって!」

『楽しみ〜!』

『プレゼント交換しようね!』


「クリスマス」って楽しそう。「カラオケ」って言うのは知っているのよ。

お祭りでもないのに、楽しそうに歌っているのを見たことがあるわ。

それが「クリスマス」なら更に楽しくなるんじゃないかしら!


みんな同じ服を着ているから、私も同じ格好をしてこの「高校」の中をウロウロしていたら

「一緒に行く?」って誘ってもらえるんじゃないかと思ったの。

名案でしょ!


妖術を使えば服装を変えて姿も人間に化けるのは簡単よ。

廊下を歩いて見たけれど、誰も振り向いたりしないわ。ちゃんと溶け込めているようね。

でも、それだけじゃダメなのよね。ちゃんと「クリパ」というものに誘ってもらわないと。


廊下を集団で歩いている人達は慌ただしくて、私のことを見向きもしないわね。

立ち止まっている人を探しましょう。


廊下をしばらく歩いてたら、階段の下に三人立ち止まっているのが見えたわ。

早速近づいてみる。


「立花さん、あの、今日花壇の水やりの当番……」

「わ、オタク君に話しかけられちゃった!どうしよ! 勇輝君!」

「おい、水木! ……いや、オタクだっけ。聖美に気安く話しかけるなよ」

「僕はただ、花壇の水やり当番を……」


男の子二人と女の子一人。何か揉めているみたいね。私が近づいたら「そういえばクリパ!」って思い出したりしないかしら。

周りを三周くらい回ってみようかしらね。


立ち止まっている人達の視界に入るようにゆっくりと彼らの周囲をぐるっと歩いていたら突然、床がピカッと光ったの。


光る床に気を取られていたらいつの間にか違う場所に来ていたわ。

薄暗い広間のような場所で、大勢の人達が周囲を囲むように立って、遠巻きにこちらを見ていたわ。

その中の一人、豪華そうな服装をして、ちょっとデップリした人物が大きな声で言ったの。


「ようこそ勇者殿! よく来てくれた!」


先程みた三人も私と一緒に来たみたい。髪をツインテールにした女の子が、背の高い男の子の腕に縋りついたわ。


「え? 何? ここ何処?」

「は?どういう事だ?」

「え……まさか、勇者召喚?」


三人が呆然とした様子になってる。私もびっくりだわ。どんな妖術かしら⁈ 幻術? それとも神隠しに使う技かしら。あっという間に移動するやつ。あれ、私まだ出来ないのよね。


「魔力なし! ハズレだ!」


よく分からない布被った人が、水晶を持ってきて何か失礼な口調で言ったわ。魔力? 私、妖力は多い方なのよ。あら? 何だかいつもより妖力がみなぎっている気がするわ。尻尾で跳ね飛ばしちゃおうかしら。


「ハハ! オタク君もハズレだってさ」

「そっちの一年の子も? お気の毒!」


背の高い男の子とツインテールの女の子がなんだか勝ち誇ったみたいな口調で言ってる。二人とも、ついさっきまで怯えてたのに。言われた「オタク君」はしょんぼり落ち込んでるわ。……あら、「一年の子」ってもしかして私の事かしら? こっち見てるわ。「お気の毒」って何で?


意味は分からないけど、馬鹿にされたみたいね。私と「オタク君」が甲冑着た人に「こっち来い」って言われて何処かに連れて行かれた時、クスクス笑っていたもの。


「ハズレは不要だ。出て行け!」


何処に案内されるのかと思ったら、私と「オタク君」は、門から外に追い出されたわ。振り返るとお城みたいな大きな建物がある。あの場所から出てきたのね。


「え……、でも……、何処に行ったら……」

「いいから出てけ!」


甲冑の人に食い下がった「オタク君」が、突き飛ばされたわ。まあ、乱暴ね!

鼻毛がめちゃくちゃ伸びるようにしてあげようかしら。多分くすぐったくなるわよね。


えい!


「ハックション! コンチキショー!」


鼻毛が伸びる妖術をかけたら、甲冑の人がくしゃみを始めたわ。くしゃみの時に威勢がよくなるタイプね。親父くしゃみタイプだわ。


「ハックション! ハックション! うぇぇ、何だぁ⁈ ックション! ッキショー!」


甲冑の人がメチャクチャくしゃみをし続けているうちに、「オタク君」は立ち上がって、パタパタとズボンを叩いていたわ。くしゃみしているうちに、甲冑の人からは離れちゃいましょう。


「行きましょ」

「え? でも」

「ックション!! ッキショー!!」


甲冑の人がくしゃみしすぎて身を屈めたら、甲冑が重いからかバランスを崩して、膝をついちゃったわ。ちょっとやりすぎたかしら。

もう十分鼻毛が伸びただろうし、妖術は解いておくわね。鼻毛は自分で切ってね。


お城のような建物を後にした後、私と「オタク君」は、長く続く坂道を降りて、街に入ったわ。街? 村? ちょっと古臭い建物が並んでいるわね。石造りの建物もあるけど高さが二階か三階位までしかないわ。


「……これからどうしよう……」


「オタク君」が不安そうに街を見回してから、私の方を見たわ。


「……あの……、君、一年生?」

「洋子よ。『オタク君』?」


また「一年」って言われたけど、よく分からなかったから、名乗ったの。そうしたら、「オタク君」は、ちょっとムッとした様子で口を尖らせたわ。


「僕は、水樹努みずき つとむって名前だよ!」

「まあ、そうだったの。さっき、『オタク君』って呼ばれていなかった?」

「あいつらが勝手にそう呼んでるだけだよ!」


「オタク君」改め、努君はチラリと来た道を振り返ってから、街の方に視線を戻して溜息をついたの。


クンッ……


その時、私の嗅覚が肉を焼いた匂いをキャッチしたわ。


「お腹空いてきちゃった」

「ええ……」

「何かお肉を焼いてるところがあるみたい。行ってみない?」

「ちょ、ちょっと! 僕達、この国のお金持ってないんだよ」

「まあ! そうだったわね」


お金はその国によって違うのよね。私だって知ってるわ。……どうしようかしら。葉っぱをお金に変える? でも、そもそもこの国のお金のお札や硬貨がわからないわよね。


考えていたら、「オタク君」……じゃなくて、努君が背中のリュックを下ろして、リュックの中からゴソゴソと何かを取り出したの。


「……良かったら、食べる?」


努君が取り出したのは、半透明のタッパーだったの。蓋を開けて見せてくれたんだけど、中にはいなり寿司が並んでいたわ。


「いなり寿司? 私を稲荷神様と一緒にしてない?」

「あ、嫌いだった?」

「いえ。せっかくなので、いただいてみましょう。……あら⁈ 美味しい〜!」


ジューシーなお揚げと酢飯のバランスが最高!


ファサッ


美味しくて思わず尻尾が出てしまったわ。


「え? モフモフ尻尾?」

「ああ……。私、妖狐なの。妖狐の洋子よ」


努君がびっくりした顔をしたので、自慢の二本尻尾をワサワサさせて、見せてあげたわ。


努君は、ジーッと私の尻尾を見つめた後、おずおずとしながら言ったの。


「あの……。尻尾、撫でさせてもらえないかな……?」

「は? 破廉恥な!」


何てことを言い出すのかしら。私は慌てて尻尾を見えなくしたわ。尻尾はね、心を許した相手にしか触らせないのよ!


「あ、ご、ごめん!」


努君はすぐに頭を下げて謝ったわ。すぐに謝ってくれたから、許してあげる。


さて……。これからどうしようかしら……。


私は周囲を見回したの。何か面白そうなものはないかしらね。


何だか、街の人の表情が暗いわね。あまり住みやすい街じゃないのかしら。


「ドケドケドケ!! 邪魔だ!」

「危ない!」


横の道から、一頭立ての馬車が勢いよく走ってきたわ。努君が私の腕を掴んで引っ張ってきた。


「ブルル!!」

「うわ!」


馬車を引いていた馬が突然跳ねるようにして方向転換したわ。馬車がグラっと揺れて怒鳴っていた御者が慌ててるわ。


……あの馬、私に怯えて逃げて行ったわね。乱暴に通り抜けたら尻尾で叩いてやろうって思っていたのを察しちゃったのかしら。御者は振り回されてお気の毒……、でもないかしら。もうちょっとで馬車に跳ねられそうだったもの。


馬車が遠ざかって行った後、私と努君は街を見て回ったのだけど、お金がないと悟られると、情報すら教えてもらえないみたい。

何か持ち物を売ったらどうかと思ったのだけど、買取りにも紹介がいるみたいなの。

他の人が物を持ち込んでいるのを見たから、真似して買い取ってもらおうと思ったら、「紹介状は?」って聞かれちゃったのよ。


「……困ったね……。……あ!」


しょんぼりとして歩いていた努君が何か見つけたみたい。黒っぽい建物を指差したわ。


「あれ、冒険者ギルドじゃないかな。 仕事がもらえるかもしれない。行ってみよう」

「仕事?」


努君が言うには冒険者ギルドと言うところは、冒険者という狩人みたいな人が仕事を請け負うところで、狩り以外にも雑役などの仕事もあるのですって。

努君はこの街は初めてなのに、詳しいのね。


見ると、黒っぽい建物の看板には剣と盾の絵が描かれているわ。そして皮や金属の鎧を着て武装した人達が出入りしているようね。

あれが、冒険者かしら。


「あ、あの……、ここは冒険者ギルドでしょうか?」


建物の入り口付近で地べたに座り込んで盾を磨いている人に努君がおどおどしながらも尋ねたの。


革鎧を着た筋肉質の男性だったわ。ギロッっと鋭い目で努君を見上げた後、ジロジロと私と努君を交互に見て、フンッと横を向いてしまったの。


「あ、あの……」

「……冒険者ギルドだったらどうだってんだ。お坊ちゃんお嬢ちゃんが来るところじゃねぇよ!」


盾を磨いていた男性はフンッと鼻息を荒くして立ち上がると、建物の中に入って行ってしまったわ。態度悪いわね。入り口近くに屯していた人達がジロジロとこちらを見ている。ニヤニヤしたり、怪訝そうな顔をしていたり。

あまり、歓迎されていない様子ね。


「……い、行ってみよう」


努君はキュッと唇を引き締めて決意を固めた様子でドアを開けたわ。

その時、ギンっと殺気を感じて、思わず努君の腕を掴んで自分の方に引き寄せたの。


タンッ


努君の立っていた位置の頭一つ上くらいの木扉に小さいナイフが刺さって

ドッと笑い声が建物の中に響いたわ。


「ハハハ! お嬢ちゃんに庇われてやんの」

「あの顔を見ろよ。ビビってるぞ!」

「ギャハハ!」


冒険者ギルドのホールに居た人達がゲラゲラ笑いながら、私達を指差しています。

カウンターの奥には職員らしき胸の大きい女性がいますけど、「困った人達ね」って感じで、ちょっと眉を下げているだけで、口の端を上げているのを見ましたわ。


「……お下品な人達ね……。えいっ」


お下品な人達には、お下品な妖術でもかけてあげましょう。


ぷっぷー!

ブー!


「おい!誰か屁をこいたか?」


ププー!


「お前だろ!」

「お前だって!」


プップー!


ギルドの中にいる人達に、一時間オナラが止まらない妖術をかけてあげました。

カウンターの中にいるお胸の大きい女性が真っ赤な顔をしています。女性だとちょっと気の毒かしら。でも、ナイフを投げた人が居ても咎めなかったのよね。

特別にお色気のあるオナラにしてあげようかしら。「ぷっふーん!」って感じで……。


そんなことを考えていたら努君が私の袖を引っ張りました。


「ね、ねえ……。何かしたの?」

「え?……いいえ? 何か悪い物でも食べたのではないかしら。今は臭そうだから出ましょうか」


もうナイフを投げてきたりはしなさそうでしたが、何かお仕事をもらうという雰囲気ではなかったのでギルドの建物から外に出ました。


プップー祭りより、クリパの方が良いです。


そう考えて私はハッとしました。


「あ、クリパ! 早く戻らないと!」


何ということでしょう。ここでぐずぐずしていたらクリパのお誘いを受ける機会を逃してしまいますわ。


「え!? 戻れるの?」


努君が驚いて目をまん丸にしました。ぼさっとした前髪から覗く目は意外とパッチリしていますわね。


「ええ、妖怪道なら繋がっている感じがしますわ」


私は頷くと、ギルドの建物の横にある薮に、ポンと狐火を投げ込みました。


「えええ!? 火事になっちゃう!」

「大丈夫ですわよ」


狐火は、ジュッという音と共に消えて、黒い煙を立ち上らせました。黒い煙が黒い裂け目に変わります。妖怪道の入り口です。


「わわわ!」


その入り口は、冒険者ギルドのドアより大きくなっていました。努君が驚いて、後ろに飛び下がっています。


思ったより大きい入り口ができましたわ。ここにきて妖力がアップしたのかしらね。


黒い裂け目から妖怪道に足を踏み入れると、うねり曲がった森の小径が続いています。薄暗くてジメジメしていて、懐かしい雰囲気ですわね。


「わわわ!」


後ろをついて妖怪道に入ってきた努君が、ピョンと飛んできた黒玉に驚いて悲鳴を上げました。黒玉が複数、努君の周りをぴょんぴょんと飛び回っています。人間が珍しいのかしらね。


「大丈夫ですわよ」


私はスゥッと息を吸ってから、妖怪道全体に伝わるように妖力を乗せた声で言いました。


「私のお客人ですので、揶揄ったり、意地悪したりしないでくださいね!」


「「「「おおおおお」」」」


あちこちから返事が聞こえてきました。地響きのような低い声から、耳が痛くなりそうなキンキンの高音まで、色々な声が聞こえてきました。

皆、了承はしてくれたようですわね。


「さあ、大丈夫ですわよ。進みましょう」

「うん……。でも、今言ってくれるまでは、危なかったんじゃ……」


努君がブツブツと呟いています。

確かに、放っておいたらメガネをずらしたり、鞄の中身を抜き取ったりはしていたかも知れないですわね。あら、努君の鞄の中にはいなり寿司が入っているんだったわ。皆を止めておいてよかったわね。


努君は妖怪道の小径を歩いて暫くの間は、妖怪達とすれ違うたびにビクビクしていましたが、誰も絡んできたりしないと実感したのでしょうか。少し経つと落ち着いてきました。

ふと、立ち止まって来た道を振り返ります。

一本足でピョンピョンと走り去っていく傘バケが珍しいのでしょうか。


「ね、ねえ……。なんで皆あっちに向かっていくの?」

「知らない国と繋がったので興味深いのではないかしら」

「ま、まさか……。妖怪の道の出口からあっちの国に出て行ったり……」

「しているかも知れないですわね」

「えええ!!」


努君は叫ぶように大声をあげると来た道を引き返して早歩きします。


「どうしたの? 忘れ物?」

「違うよ! みんな妖怪にビックリしちゃうよ!」

「そのくらい良いのではないかしら。妖怪の私を誘拐したんですわよ。それに貴方だって酷い目に遭ったでしょう?」

「そ、そうだけど……。あ! 勇輝君と立花さんは……」

「あの二人も、貴方を馬鹿にしたりしていましたわよね。放っておいて良いのではないかしら?」

「だ、ダメだよ! 家族だって心配するだろうし……」

「まあ。優しいのね」


努君が勇輝君と立花さんの二人のことを気にしているので、仕方なく周囲の妖怪達にお願いすることにしました。


「誰か、あっちで、勇輝君と立花さんっていう日本人の男の子と女の子を見かけたら、日本に連れ帰ってくれる?」

「「「「おおおおお」」」


お願いすると野太い返事が返ってきたわ。


「大丈夫そうよ?」

「……大丈夫かな……」


努君は心配性ね!

仕方ないから、妖怪道の出入り口まで様子を見に戻ることにしたわ。


「ぎゃあああ! バケモノ!」


プップー!


「黒いウネウネが! こっちくんなー!」


ブブー!


妖怪道の出入り口まで戻ってみると冒険者ギルドの方から叫び声が聞こえてきました。それとオナラの音も。


ギルドの建物から外に飛び出した人達がオナラをしながら逃げていきます。その後ろから小豆洗いがじゃらじゃらと小豆を洗いながら追いかけていますね。

一人の背中におんぶお化けがひっついているわ。

街の方からも悲鳴が聞こえてきますわね。皆テンションが高そうだわ。


ズシンズシン


「ぎゃああああ! 助けて! 助けて! ヒィィ!! 」


地面を打ち付けるような重たい音と悲鳴が近づいてきました。みると、ぬりかべちゃんがベッタリと濡れた壁の上部に、勇輝君らしき人をクルリと巻いて、近づいてきているわ。


「ぬりかべちゃん、ありがとう」

「おお……」


無口なぬりかべちゃんが返事をして頷きました。ズンッと壁が揺れて、勇輝君が更に悲鳴を上げています。


「助けて! 助けて!」

「助けましたわよ。 送ってくれるから心配いらなくてよ」


あの国が誘拐したのを助け出して上げているのよね。でも、勇輝君には伝わっていないかも知れないわね。


ドタドタドタ


「きゃあああああ! ヒィィィ!」


今度は、ろくろっ首ちゃんが、立花さんという女の子を首で巻いて運んできたわ。


「ろくろっ首ちゃん。ありがとう」

「うむ……」


ろくろっ首ちゃんは、親指を立てて、妖怪道の奥へと消えていきます。立花さんの悲鳴が遠ざかっていったわ。


「ね? 助けたわよ」

「う……、うん……。大丈夫、だよね……?」

「もちろんよ」

「なら良かった……」


努君はまだちょっと不安そうな顔をしていましたが、納得した様子でしたわ。

努君からの頼まれ事は済んだのですけれど、妖怪道の出入り口はいずれ閉じてしまいます。自分で妖怪道を開くことができない弱い妖怪が取り残されたら可哀想ですわね。


スゥッと息を吸って、妖怪道の外にいる妖怪達に聞こえるように妖力を乗せて言います。


「みんな! 月が沈む前にこの入り口は閉じるから、その時までに戻ってね!

「「「「おおおお」」」」


地響きのような返事があちこちから返ってきました。これで心配ないでしょう。


妖怪道を歩いている間はずっと心配そうな顔をしていた努君だったけど、日本側に続く出口から出て、「高校」内に戻ってきたら、ようやくホッとした顔になったわ。


「あ……! 立花さん達……。良かった。戻れてた……」


中庭に呆然と座り込んでいる二人を見て、安心したようね。


「良かったわね! では私はこれで……」

「あ、待って!」


努君にヒラヒラと手を振って立ち去ろうとしたのだけど、努君に呼び止められたの。


私が振り向くと、努君は目を泳がせて俯いたわ。用事があったんじゃないのかしら。


「あ、あの……。その……」

「何かしら?」

「えーと……。あっ……。『クリパ』って言ってたけど……。予定が入っているの?」

「予定が入るのは、これからよ?」

「そ、そうなんだ……」


努君は顔をあげて、意を決したように私を見つめたの。


「あのさ……。えーと……。駅前のカラオケ屋でクリスマスフェアをやってて、クリスマスケーキサービス券持ってるんだ。良かったら一緒に行かない?」

「まああ!」


私のフッサフサの尻尾が思わず揺れてしまいましたわ。なんだか耳が熱くなりますわね。


ふふっ。尻尾、ちょっとくらい撫でさせてあげても良いかしら。


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感性があくまで人ならざるもの……すっき!!!
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