私を照らす七光り
私の名前はスソコート・セブンスライト。
ウィザー魔導大国宰相の三女にして、親の七光りの恩恵をたっぷりと受けてきた者です。
恵まれた環境に手厚いサポート。
子供の頃から周囲の大人も優しく丁寧に接してくるし、何度か大きな失敗をやらかした時だって叱られませんでした。
今は王立学園の高等部に通っていて成績は上から五番目くらい。周囲には友人が沢山いて、特にトラブルもなし。また、来月には学園の代表として『王家七本杖』の選抜試験に参加する予定にもなっています。
そんな恵まれた現状に対して私が抱いている感情を3文字で表現するなら、きっとこの言葉がピッタリでしょう。
罪悪感。
そう、私は今、漠然とした罪悪感を抱いています。
意外ですか?ああ、失礼しました。
確かにちょっと説明不足でしたね。
皆様は、『七光り』と聞いてどんなイメージをお持ちでしょうか。ズルい?実力以上に優遇される?まあきっと、あんまり良いイメージではないですよね。
私もそうです。
まず、幼少期から周囲よりもずっと手厚いサポートを受け続けてきたことに対して、なんだかズルをしているような気持ちがあります。
なのに成績トップを取れていないという不甲斐なさや、そんな未熟な私を持ち上げて下さる皆様へお返しできるものがあまり無いことに申し訳なさも感じる今日この頃。
だからーー
「ねえ皆様、明日は新しく出来たお店でお茶会をしませんか。落ち着いて楽しめるように貸し切りましたの。」
「まあ!お誘いありがとうございます。またスソコートさんが予約して下さったんですね」
「あの……今回もご馳走して下さるんですか?」
「もちろんですよ。私が行きたいからですし」
こんなつまらない女に付き合ってくれるお礼に、せめてお金やコネでできることはして差し上げないとなーと思う日々です。
「ではお言葉に甘えて」
「そういえばスソコートさんから先日頂いた化粧品のサンプル、とっても肌に馴染みました。」
「それは良かった。今度一式差し上げますね」
「えー、いいんですか!最高に嬉しいです」
そんな大したことではありませんけれどえへへ……そんなに喜んで頂けるなんてこちらも嬉しいですね。贈り物冥利につきます。
「スソコートさん、いつも本当にありがとうございます。今度は私からもお誘いさせて頂きますね。」
「それに、こちらからお力になれることがあればいつでも声をかけて下さいませ。」
***
「スソコートには今、気になる男の子とかっていないのかしら?」
ある日、お母様に呼び出され開口一番に言われたセリフがそれでした。
「どうしたんですか急に」
「貴女って同性の友人は多いみたいだけど、全然男っ気がないじゃないの。将来の結婚生活が少し心配だなって思っているのよ」
「異性との交流が無いのはその通りなんですけど、女性は貞淑で変に男性慣れしていない方が結婚相手には喜ばれるのではないですか?」
お父様やお兄様達からはそう聞いているのですが……とお伝えましましたが、お母様はちっちっちと指を振られました。
「貞淑さは勿論大切よ。だけど、いいこと?真に需要があるのは『男性慣れしていない……っぽく振る舞える女』なの」
だから、貴女も学生のうちに異性と話す経験を沢山積んで男心について学んでおく事をお勧めするわとお母様。
それに、私達のような立場の女が意中の相手と自由にお話したりドキドキできるのは学生の間だけよ、ともアドバイスを頂きました。
ふむ……そういうものなんですねぇ。
叶わぬ恋だろうし、立場的によろしくないだろうということで墓場までもっていこうとしていたんですが、実は私にも想い人がいるんですよ。
意中の相手はレオリオ君といいます。
彼って、一般家庭の出身ながら特待生として王立学園に通う才能溢れる方なんです。
人は自分に無いものをもった人に惹かれるというのはきっと本当のことなんでしょうね。貴族と比べて色んなハンデがあったでしょうに己の才覚一つで道を切り拓いた彼の事を私は尊敬していて、昔からお話してみたいなぁと思っていました。
なので、ここは一つ勇気を出し彼に声をかけてみましょう。せっかくお母様も背中を押してくださったんですし。
こんにちは、私の恋物語、
「いや、そういうのいらない」
「そ、そうですか……あの、失礼しました……」
フラれました。
グッバイ、マイラブ。
やはり、彼のような才能溢れる人物にとって私のような凡人は魅力がないんですかね。それとも知らず知らず何か気に障るようなことをしてしまったのでしょうか、いつも友人にやっているみたいにお茶に誘ってみたのですが……
そんな風に凹んでいると、後日、彼は『王家七本杖』の選抜試験に参加したがっていたことと、私に奢られる事に対して否定的な感情を持っていたようだという話を聞きました。
おおう、なるほど。
選抜試験って、宮廷魔導師や在野の天才も出るから学生が出てもどうせ勝負にならないだろうと教師陣が判断しており、不要なトラブルを回避するために私が出ることになっていたんですよね。
でもレオリオ君からみたら私って、実力不足なのに学園代表の枠を奪った嫌なやつであり、お金で友達関係を維持している人みたいにも見えていたのでしょう。
そして、それを否定できない自分がいます。
うーん、私の恋が終わったのは自業自得で仕方ないのですが、学園代表の件は彼に申し訳ないですね。何とか埋め合わせをしたい。
「とはいえ、ここから何とかする力は私にはなく……」
なんて言いながら、私の手はお父様に直通する通信用魔道具に伸びています。すぐ人に頼ってしまう、こういうところが彼に嫌われた原因だよなぁと自嘲しつつ。
『おお、どうしたスソコート。お前から連絡してくるなんて珍しいね。』
「突然申し訳ありません、少々悩みの種があるのですが、お父様の力でなんとか出来ないでしょうか?」
***
私の自嘲はさておき、あの時学園代表の変更が認められて本当に良かったです。だってーー
「厳しい選抜試験を突破し、新しい『王家七本杖』となった彼に盛大な拍手を!」
レオリオ君ったら下馬票を覆して、学生の身でありながら国を代表する魔術師の一人になっちゃいましたから。
試験には錚々たるメンバーが参加していたというのに本当に凄いです。
全校生徒の前で表彰された後、彼は一躍時の人となりました。
物静かで政治的な後ろ盾も無かったがゆえに今まで注目されてこなかった彼ですが、これからは異性からアプローチされることも増えそうですね……そう言えば彼ってどんな相手がタイプなんでしょうか。
なんて思っていたら、ある日レオリオ君にに呼び出されました。どうしたんでしょう、代表変更に私が関与したことは内密になっているはずですし……
あ、もしかして昔、権力者の娘である私がアプローチしたことが彼の恋愛に何か悪影響を与えてしまっていて、そのクレームがあるとか?
うう、何を言われるかちょっと怖い……
「スソコートさん、今だから言えるが僕は君のことがずっと好きだったんだ!」
ほへ?!
「……だから今度、デートしてくれないか?」
「うえぇ!?」
淑女らしからぬ声が出てしまいましたが、青天の霹靂的な事態なので仕方がないでしょう。
「あの、ドッキリとかではない……ですよね。だってほら、昔、固くお断りされていた記憶が」
「あの時は緊張と恥ずかしさのあまり無愛想になってしまい申し訳なかった。優等生で高嶺の花的な相手に一方的にご馳走して貰うのは男としてちょっと情けないなと思ってしまって……」
そんな理由だったんですか!?
全然予想できませんでした。男心について学んでおく事をお勧めするというお母様の言葉の正しさがバッチリ証明されてしまいましたね……
「でも今なら『王家七本杖』の立場と、就任時の契約金があるから多少は釣り合いが取れるようになったかなって。」
その天秤、今は逆に傾いている気がしますけど後悔しませんかねぇ。今のレオリオ君って王族との婚姻もあり得る立場ですし……
「本当に私でいいんでしょうか……優等生と言って下さいましたけど、環境に恵まれているだけで、きっと才能はあまりない女ですよ。」
自分の才覚でチャンスを掴んだレオリオ君としては、そう言うの嫌だったりしないんですかねぇ、なんてついネガティブなことも考えたり。
「いや、君がいいし……っていうか、どう生まれ育ったかも含めてその人の才能かなって僕は思っているよ。」
それからレオリオくんは、そもそも自分だって生まれには恵まれた部類だと思うと話をしてくれました。
平民の中には両親に学がなかったり、初等部に通えないくらい家計が苦しい家庭もあるんだからと。
「もちろん、恵まれた環境いるのにそれに無自覚で傲慢だったり、努力不足を棚に上げて嘆くような貴族は鼻につくよ。だから僕も反面教師にしてるけど、スソコートさんは全然そう言うタイプじゃないし。」
謙虚なコミュ強で、しかも皆んなに優しいからぼくと違って人望もあるしねー、とレオリオ君。
「学園代表の件だってそうさ。なぜか急遽変更になって、たまたま上手くいったから僕としては有り難かったけど別に君のままでも誰も文句を言う人はいなかったんじゃ無いかな。もちろん、僕も含めて。」
あ、あの。熱弁して頂けてありがたいのですが、褒められすぎて顔が熱くなってきたのでそのへんで……
「じゃあ、デートの件は了承してくれる?」
「は、はい……」
そうお返事すると、普段のクールさはどこへと言うくらいレオリオ君は大喜び。それをみて、こちらも思わず笑顔になってしまいました。
拝啓、お父様、お母様。
私、スソコート・セブンスライトは生まれてから現在まで、貴方達の威光による恩恵をたっぷりと受けて参りました。本当に感謝しています。
実はそれに罪悪感や、苦労を知らずに育ってきてしまったことにコンプレックスを感じたこともあったのですが……ある男の子のお陰で七光りも私を照らし、成長させてくれた立派な光だと最近気づくことができました。
また今後、私は意中の相手と結ばれ二人で幸せになっていくために持ちうる力の全てを尽くしたいと考えております。そのため時にはまたお世話になるかと思いますので、どうかまたお力添えを頂けますように。




