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姫サマだって密かに恋を謀る  作者: そうじ職人
第二章 冠礼の儀殺人事件

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第022話 梟(シャオ)の初恋

 シャオ紅紅フォンフォンは連れ立って、部屋の応接の間に向かう。


シャオったら、いつの間に張(チン)を稽古の相手に誘ってたのよ」


「今は期門僕射きもんぼくい率いる近衛の衛士も、伯符はくふ兄様の麾下きかに再編されてるのよ。人数合わせで誰かが用意したのでしょうね」


「またまたぁ、そんなこと言っちゃって。ちょうど張(チン)なら、警備の手隙きの時間じゃないかしら? とか何とか言って、稽古のお相手になるように仕向けたんじゃないの?」

 紅紅フォンフォン揶揄からかうように、クツクツと笑う。


「わたしは絶対にお断りだわ!」

 シャオが本気でたしなめるように、強く否定する。


「ごめんなさい。シャオが、そんなに張(チン)のことを嫌いだったなんて知らなかったの」

 紅紅フォンフォンは、初めて感情的な大声を聞いて慌てて謝る。


「違うのよ。好き嫌いの話では無くて、張(チン)はどこかおかしいのよ」


「どこがおかしいの? 顔なら整ってる方だと思うんだけど」

 紅紅フォンフォンは頬杖を突きながら、張(チン)の容姿を思い浮かべる。


「外見じゃなくて、何とも言えない違和感みたいなものなの。おかげで周公瑾(こうきん)様の前で恥を掻かされちゃったわ」

 シャオはあの場で母と共にこちらを見詰める周瑜しゅうゆの眼差しを思い返すと、ほんのり頬が朱に染まる。


「なになに? 周公瑾(こうきん)様って、あのイケメンの方よね」

 紅紅フォンフォンは食い付き気味に話にのめり込む。


「わたしはハッキリとは覚えてないんだけど、幼い頃は周公瑾(こうきん)様のお屋敷を頂いて暮らしてたの。だから若い頃は何も理解してなかったから、知らず知らずにしゅう叔父様って呼んでたわ。だけど久しぶりにお会いしたら、何と言うのかしら? 何故か自然と周公瑾(こうきん)様って呼びたくなっていたのよ」

 シャオは真剣な表情で、言葉を選びながら答える。


「確かに周公瑾(こうきん)様って、見た目とても素敵よね。服装もお洒落しゃれだし、ちょっと年齢不詳なところがミステリアスよね」


二十歳はたちよ」


「え?」


「今年で二十歳はたちになるわ。長兄の伯符はくふ兄様と同い年なのよ。今はお独り身でいらっしゃるけど、もう立派に一軍を率いていらっしゃるわ。いつ結婚の話が持ち上がるか分からないの。わたしがもう少し早く生まれてさえいたらって時々悲しくなるわ。それでも早く追いつきたいって頑張ってるのに、今日は散々なところを見られちゃったの」

 シャオは悲しげにうつむく。


「そんなこと無いってば。あたしから見てもシャオって、同い年に見えないくらい大人びて見えるもの。だけど年の差は十三歳かぁ、チョッと開いてるわね」

 紅紅フォンフォンは指折り、年の差を数えている。


「そんなこと無いわよ。あと十年経てばわたしも十七歳、周公瑾(こうきん)様だって三十歳。年の差なんて全く問題ないわ!」


「まぁ、シャオの言う通りよね」

 紅紅フォンフォン周瑜しゅうゆが三十歳になるまで未婚でいる可能性を少し考えたが、直ぐに頭を振って考えを切り替える。


「これまでシャオは他の誰かを好きになったりとか無かったの? ひょっとして、これがシャオにとっての初恋になるのかしら」


「分からないわ。ただ周公瑾(こうきん)様のお姿を見掛けるだけで鼓動こどうが高なるの。ずっとあの方のおそばにいたいって思えるのよ。紅紅フォンフォン、これが好きってこと? これが恋なのかしら」

 シャオは真剣な表情で訴える。


「うん。良く分かったわ。今日はあたしもここで泊めてもらうことにする。二人で好きな人のことについて、思う存分に語り尽くしましょう」

 

 紅紅フォンフォンは元気よく、宿直衣しゅくちょくいや枕を取りに離れの自室に走り出す。

 その後姿を目で追いながら、ついつい物思いに耽る。


― わたしのこの気持ちは本当に恋なのかしら? わたしは周公瑾(こうきん)様と具体的にどうなりたいのかしら ―


 やがて紅紅フォンフォンがお泊りセットを抱えて戻ってくる。


「ちょっと狭いけど、わたしの寝室に場所を移す?」


シャオの寝室に入ったら、またフクロウのパイシャオに吠えられたりしないかしら?」


「わたしと一緒に入れば大丈夫よ。ちょうどパイシャオにご飯をあげるから、直ぐになつくと思うわ。パイシャオはとっても賢い子だから、警戒すべき人とそうでない者をちゃんと見抜くのよ」

 そう言うとシャオは小皿に盛り付けられた、カエルの足を携えて部屋に入る。


 パイシャオはご飯を感じ取ったのか、甘えるような声で”ピィーッピィーッ”っと啼く。

 カエルの足を手づから与えると、嬉しそうにそれをついばむ。


紅紅フォンフォンも与えてみる? ご飯を貰ったのなら、ますます仲良くなれると思うの」


「そ、そうかも知れないわね」


 紅紅フォンフォンはフクロウの猛禽類特有の鋭いくちばしもさることながら、餌のカエルの足を素手で摘まむのにも抵抗がある。

 しかし、パイシャオの”ピィーッピィーッ”という甘え声につられて、恐る恐るカエルの足に手を伸ばす。

 それをくちばしの前に差し出すと、器用についばむ。

 そしてきれいに食べ終えると、紅紅フォンフォンを見詰めて顔の向きを上下クルリと回してみせる。


可愛きゃわい――!」

 紅紅フォンフォンはカエルの足を摘まむのも気にせず、次々と与える。


 あっという間に小皿の上は空になり、パイシャオも満足気に”ホッホッ”と啼いて応える。

「あたし、この子と仲良く出来そうだわ」


「パイシャオも、あなたのことが気に入ったみたいよ」

 シャオは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「気に入ったと言えば、シャオは周公瑾(こうきん)様のどこが気に入ったの?」


「そうね。昔は家族同然の付き合いったから、伯符はくふ兄様みたいに感じてたのよ。だけど今回の長旅を終えて、久しぶりにお会いしてみると何か違う感情が溢れてくるのよ。紅紅フォンフォンだって、施(ラン)様とは幼馴染みで最初は兄妹みたいに思ってたんでしょ? どこまでが家族同士の好きで、どこからが恋人に対する好きに変わるの?」


「うーん、確かにどこからって聞かれても明確には答えられないわね。あたしの中に芽生えてた好き! って気持ちがドンドン大きくなって、これは恋だわ! って自覚した時からかしら。だって施(ラン)様はドンドン素敵になっていくのよ」


「わたしとは大分違うのね。わたしが思ったのは、最初は遥か手の届かない遠い存在だった人。たぶん好きって思いは有ったのでしょうけど、それはさっきも言ってた『家族が好き』って感じだったと思うの。だけど、この呉景ごけい屋敷で再開した時にはハッキリと違ってたわ。わたしもあの人のおそばに並び立ちたいと思ったの」


「並び立つ? 寄り添いたいんじゃなくて??」

 紅紅フォンフォンは頭の中に、クエッションマークが飛びっている。



 やがて夕餉ゆうげと湯浴みを終えて、紅紅フォンフォンには侍女が使う控えの間を使えるように準備したのだが、今は何故かシャオと寝床を共にしている。

 

 小声で囁くように『好き』について語り合っていたが、やがて深々と静まり返る夜中にどちらからともなく自然と眠りに落ちていく。

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