表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫サマだって密かに恋を謀る  作者: そうじ職人
第一章 孫家の帰還

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/25

第012話 黄金色に彩られた間道を抜けて

 シャオと陳(パオ)幕舎ばくしゃに戻る頃には、も既に沈み軍議もとっくに終了していた。

 幕舎ばくしゃには油灯ゆとうに火がともされ、辺りをほのかに照らし出す。


 太妃は戻ってきたシャオの手のひらに付いた泥を一瞥いちべつする。


「ご苦労でした」

 ごく短く一言だけ述べると、奥の寝屋に引き下がってしまう。


 後を兪河ゆかが引継ぎ、軍議の内容を改めてシャオと陳(パオ)に対して説明する。

「行き先を変更して、砕石洲さいせきしゅうの渡しに向かうことになった。この先から田園地帯を抜ける間道かんどうを使う。これによって山林からの奇襲は避けられる。更には常に戦闘を想定して隊列を組み、前後と両脇には常に斥候せっこうはいして進む。これによって移動の速度は下がるが、より安全な行程を保証することになる」


 兪河ゆかは意見を求めるように言葉を区切ったが、陳(パオ)から何も問い掛けがないのを確認すると再び後を続ける。

「それと昨夜襲撃してきたぞくを、今後『褐巾賊かっきんぞく』と呼ぶことになったので伝えて置く。最後にだ」


 兪河ゆかは何やら詰まった革袋を軍議の卓に並べる。

「これは『褐巾賊かっきんぞく』を討伐した者に与えられる報奨金ほうしょうきんだ。革袋一つに銭一貫(いっかん)が詰まっている。一応、証言に基づいて用意させた。是非受け取られよ」


 兪河ゆかは卓上に置かれたいくつかの革袋を、ズイっと陳(パオ)の方に押しやる。

 暫し複雑な面持ちで見詰めていた陳(パオ)であったが、静かに首を振るとその革袋の山を押し返す。


「こいつを受け取る資格のある者は既にこの世に居ない。この任務は我らにとっても、銭金ぜにかねで受けるような安っぽいものじゃないんだ。それにな」


 言葉を区切ると、その眼は隣にたたずシャオに向けられる。


「ここにいるお姫サマが、われらの誇りをシッカリと形にしてくれたんだ。われらにとっては、それが何よりの報酬ってことよ。だからこいつは受け取れねぇ」


 そう言い残すと、幕舎ばくしゃの内から立ち去ろうとする。


「お待ち下され、ちん隊長。これはよくの君が奏上して、太妃が手づから革袋に詰められたもの。それを断るのは不敬ふけいに過ぎる」


 兪河ゆかの言葉にシャオが割って入る。


ちん隊長は伯符はくふ兄様……孫殄寇(てんこう)将軍の配下ですわ。いくらそん家からの褒賞とは言え、それを飛び越えて直接に褒美を取らすことは序列じょれつに反するおこないよ。『善く兵を用うる者は道を修めて法を保つ』そん家の者であれば、その道理が分からないはずがないわ」


 おさなき姫サマ、シャオは改まって陳(パオ)に声を掛ける。

「これはそん家からの矜持きょうじなのです。ただし褒賞とするのは、あなたの言う通り間違ってるわ。これはそん家から正式に目録もくろくを添えて孫殄寇(てんこう)将軍にお渡しします」


 改めて兪河ゆかを見詰めて問う。

期門僕射きもんぼくいもそれで良いかしら? お母様にはわたしからも事情は説明します」


 いかに姫サマの申すこととはいえ、年端としはのいかないシャオ理路整然りろせいぜんと言い込められては、兪河ゆかも唯々諾々《いいだくだく》と従うには年を取り過ぎている。

 憮然ぶぜんとしながら言葉を荒げる。


「それでも一旦は軍議にはかって決まったこと。それを姫君は一存でないがしろにするお積りか?」


 一瞬、幕舎ばくしゃを不穏な空気が包み込む。


「ガハハハハッ! 悪かった悪かった。悪銭あくせん身に付かずって言ってな。われら義侠の者が、こんな大金をいただくのが気が引けただけなんだ。兪伯海ゆはくかい殿もわれのガサツな育ちに免じて、勘弁してくんねぇか」

 陳(パオ)は、兪河ゆかかたわらに立つとその肩をバンバンと叩く。


「ま、まぁちん隊長がそこまでおっしゃるなら」

 兪河ゆかも陳(パオ)豪気ごうきな物言いに当てられて、矛を収めることとなる。


「それに出立は明朝なんだろ。急ぎ隊列の確認や斥候せっこうの人選と交代の間隔も詰めなきゃなんねえ。兪伯海ゆはくかい殿にも付き合って貰わなけりゃなあ。ガハハハハッ!」


「それでは改めて、変更した行程と隊列の素案をご覧頂きたい」

 兪河ゆかは改めて、軍議の卓上に地図を広げだす。


 シャオは悔しそうに、その光景を見詰める。

 すると陳(パオ)がこっそりとシャオを見()って、片眼をつむってお道化どけてみせる。


 シャオは一礼をして、幕舎ばくしゃを後にして寝屋に一人()を進める。


「はあっ。わたしにはお母様どころか、まだまだけん兄様のようにも振舞えないわ」

 溜息をきつつ寝屋に入ると、既に紅紅フォンフォンが穏やかな寝顔でスヤスヤと寝息を立てている。


「そうよね。きっとみんな疲れているのよ。今は寝ることも大切なんだわ」

 そうひとちると、紅紅フォンフォンの隣にもぐり込む。


 満天の星空の下、静けさを取り戻した草原が虫の音に溶け込んで漆黒の広がりを見せている。



 翌日は早朝から出立の準備が淡々と進み、馬には馬装ばそうが整えられていく。

 期門僕射きもんぼくいの号令と共に、隊列はゆっくりと進み始める。


 今日の出立には、シャオも騎乗して隊列に加わる。

 シャオにとって騎乗は不得手ふえてである。とても早駆けのような真似は出来ない。

 しかも昨日は裸馬はだかうまに乗った影響から、未だにお尻がヒリヒリする。


 すると大柄な陳(パオ)が、いつの間にかくつわを並べている。

小梟シャオシャオの嬢ちゃん。あんまり肩に力を入れ過ぎないことだ。馬だって乗り手の気持ちを察して負担に感じちまう」


 シャオは自分が乗る馬が疲れた様子を見せてるのに比べて、陳(パオ)葦毛あしげの大きな馬は楽しそうにを進めているように感じる。


「陳(パオ)が乗ってる馬って、白くって可愛い目をしてるのね。それに何だか楽しそう」


「そうだな。この馬とは長年苦楽(くらく)を共にしてるからな。それに周りを見渡してごらん。それぞれの馬が楽し気にしてたり気難しそうな顔をしてたり、小梟シャオシャオの嬢ちゃんみたいに疲れた表情の馬だって一杯いる。視野を広げれば色々のことが見えて来やがる」


「あなたって、まるで白馬はくば太子たいし様のようね」


 陳(パオ)はあどけない表情の娘が、真剣な表情でつぶやくのを聞いて目を見開いて驚く。


「こんな、熊みたいなオッサンが白馬はくば太子たいし様ねえ。ガハハハハッ!」

 ひとしき呵呵大笑かかたいしょうしてたかと思うと、馬を進ませて隊列の先頭の方に行ってしまう。


「そうね。明日は無理せずに、また紅紅フォンフォンと一緒に荷馬車に載せて貰おうかしら?」

 小さくつぶやくと、辺りの景色に改めて目を遣る。


 間道かんどうに入ってからというもの、黄金こがね色の稲穂が見渡す限りに棚引たなびく。


「これならば、きっと無事に砕石洲さいせきしゅう辿たどり着けるわね」

 誰に言うともなくひとちると、馬の首を軽く叩きながら隊列に息を合わせて進む。

 シャオる馬も、いつの間にか尻尾を振りながら楽し気にを進める。

【用語註】

褐巾賊かっきんぞく:謎の賊徒。黄巾党こうきんとうに因んで命名。

黄巾党こうきんとう:道教一派『太平道たいへいどう』の信徒。農民中心に黄巾を被り各地で武装蜂起した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ