車の色
以前付き合っていた女性の話です。
当時彼女の働いていた職場で、とあるうわさが流行ったそうです。
夜暗い道で走っていると後ろから赤い車が追いかけてくる。追い付かれてしまったら、話はそのときによってさまざまでしたが、事故に遭うとかいつのまにか血が抜かれているとか。
当時車を運転し始めたばかりの彼女は非常に怖がって、夜の帰り道が暗い、どうしようどうしよう怖いと私に何度も相談してきました。
彼女の職場というのが辺鄙な場所にあって、田んぼと林に囲まれた人気のない場所を行き帰りにどうしても通らなくてはならないのでした。
車で通勤している人は数えるほどの数だったそうです。
その内のお一人が事故に遭いました。
今はもう覚えていませんが、腕を折ったのか、首をひねったのか、数日会社に来られなかったそうです。彼女も使う道でした。彼女は異常なほど怯えて、車で通勤するのをしばらくやめていたようでした。
事故から半年ぐらいたった頃。
何か用事があったのでしょうか、車を使って出勤した彼女は、夕方の日が明るい内に私に電話をよこしました。
少し残業することになりそうだ。迎えに来てくれないか。
少し浮かれて私は車を出しました。怖くなどありませんでしたし、ドライブのつもりなら彼女の通勤路も悪くない道だったのです。
私が着く前に日は暮れていました。彼女の待っていた駐車場には一台しか車が止まっていませんでした。
帰り道、彼女はずっと自動車で通勤しない人の悪口と同じ身の上の人達が心配だということを話していました。
その当時彼女が乗っていたのはクリーム色の小型車で、中古車屋に一緒についていって選んだものでした。本来のカラーリングに無い色で、前の持ち主が塗った色だったそうです。かわいらしいからと決めたのでした。
車に詳しくない私でも同じ車種は見分けることができたので、ふと一台残っていた車は誰のものか尋ねました。彼女の乗っていた車と同じ車種でした。
彼女は怪訝そうな顔をして数人の名前といくつかの車種を口にしました。どれも彼女の車と違う車種でした。
駐車場に一台残った車は赤色で、どこにも彼女の車はありませんでした。
その日、残っていた車通勤の人間ももう彼女だけだったのだそうです。
その彼女と別れたのはそれからすぐのことでした。
怖かったためではありません。