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僕と友達



 何でしょうか、若干コメディチックな内容が含まれています。







 7番支部の基地は、鬱蒼とした湿度の高い森の中にある。


 通常は基地は塔のような円筒形で、階数は少なくて六階、多くて八階ほど。


 この7番基地には地下があり、実質外に曝されているのは五階分となる。



 気候と自生する植物の生態の所為か、その外壁には蔓植物(つるしょくぶつ)が絡み付いていた。


 基地の門も、湿度と気候にやられて錆がひどい。


 錆び付いて植物に絡み付かれた門の更に向こう。

 基地入り口の鉄扉の前に、人物らしき物が4人、二グループに割れて対峙していた。


 唯一の女である動物耳の少女は、その大きな立ち耳を警戒気味に立たせている。


 反して彼女の隣にいる少年は人が良さそうな笑みを浮かべていた。そこからは余裕の影すらも伺える。



 突然、



 重たそうな鉄扉が僅かに開いた。


「…っ!!…おおおお待たせ致しました!8番隊隊長様!!」


 そこから飛び出してきた7番隊の部下は、極力完璧に敬礼を決める。


 その表情からは緊張と焦りと怯えが窺えた。



 当の本人の笑顔は変わらず、笑顔が優しそうである。


「…遅いじゃないか。僕の管轄(かんかつ)は君達じゃ無いんだけど―?建前だけでも僕の方が上級だって事。…知らないわけじゃあ無いよねえ?」


 言葉は、優しい様で恐ろしく脅迫じみていた。


 …事実的にも彼は下っ端だった。

 その彼の前に佇んでいる男。これが問題のすべてであった。


 つい半日前に自らの部隊を皆殺しにまで追いやり、更には基地を半壊させ壊滅させた狂気的危険人物である。



 何としてもどうにかこの男の機嫌を取り、この場を凌がないと明日を無事に迎えられない。



 ―彼はこんなヤバい奴の立ち入りを許可した自分の上司を心底呪った。


 …しかも、殲滅対象のダイヤのメスを連れているのに。



「じゅ…重々承知しております!!」


「じゃあ入っても構わないね」


 間髪入れずに男は鉄扉の間に指を差し入れ、易々と片手で扉を全開にした。


 ここの支部隊長でさえも侵食した錆の所為で開けられない扉を。




 ―確かに、隊長を含んで7番部隊に配属される昆虫系は非力だ。


 エネルギー効率を下げ、飛行スピードに重点を置くには腕力を犠牲にする他無かった。


 ―しかし、それだけ打撃にも脆いという事でもある。



 こんな…―戦闘に特化した8番部隊の、しかも隊長なんかには世界が引っくり返っても強う筈が無いのである。


 ―絶対に、彼の気分を損ってはいけない。



 その場に立ち合わせた隊員達は、戦慄と共にそう誓った。



「…ご、御案内いたします!」


 一人が男の後を追う。 男は答えなかった。


 機嫌を取るためにどうにか話題を探し、持ち出す。



「……と、隣に連れているのはダイヤの雌奴隷ですか?」

 それ以外には考えられない。

 この話題を持ち出すと本人が上機嫌になるのは、最早決定事項のような物である。



「…―二度と喋れなくなりたくないなら」


 さらりと口にした言葉に、隊員は直感的なもので危機を感じて狂気的人物を見上げる。



「―二度と、そんな事は僕の目の前で口にするな」


 睨み下す形相は、ヤバいと本能に訴えるには充分すぎるほど充分すぎた。


 全く訳が分からないが、自分の命が危険に晒されていることは悟った。


「も、申し訳ございません…!!」


「もう良い。付いて来るな」


 こんな状況からは、許可が下ったからには一刻も早く逃れたい。



「―は!大変失礼致しました!!」

 男は無反応だったが、案内役は逃げるように立ち去った。









「…エイト…?」


 あたしはなんだか怖くなって呼んだ。


「―ん?……あぁ、そうか」


 普段通りの声でエイトが笑った。


「びっくりした?」


「う、うん」


 あたしは正直に答える。…だって、性格が全然違うから。

 あたしの知らない人かと思った。


「ごめんね、疑われちゃうから」

「…じゃあ、前はあんな感じだったの?」


 答えにくそうにエイトが苦笑い。


 …あたし、困らせるようなこと訊いちゃったのか…。


 しばらく、ジメジメした廊下を歩いて、


「…まぁ…そうだね。生まれてからだいたい百年半くらいは―」


 …んう?


「…あれ、冗談?」

「……あ、あ~…」


 何だろう?


「…ぃいやぁ~…、…あっはっはっはー」


 何で急に笑うのかな?

 思い出し笑い?

 友達に会えるから嬉しいとか?


 つい首を傾げた。


 …と、突然エイトが止まる。


「てっ…!」


 急に止まれなかったあたしは何かにぶつかった。

「…?」

 前を見ると有るのは木の扉。


「…わ、あたしこんな大きい木の物見るの初めてだよ」


 あたしが居た砂漠では木は貴重品だった。


 …確かに、この建物の周りには沢山大きな木が生えてた。


 …気持ち悪い虫もいっぱいいた。


 …グロテスクな色の植物とか…


「…と、ティル?」

 名前を呼ばれた。


 お父さんとエイトしか呼んだことのない、お父さんとエイトの為の名前。


「…僕の友達―カゲロウは、怖い人じゃないんだけど…。…物事を円滑に進めるために、あんまり馴れ馴れしく話したりはしないでね?」


 警戒してるからそんな事は絶対に無い。


「……って言うか…話さない方が良いよ。突然キレるし皮肉言ってくるから。ホンっトストレス溜まるから。本気(マジ)ムカつく」



 …うーん

 …友達…?


「おーい、聞こえてるぞー」


「っ!?」


 扉の向こうから突然した声に、つい身構える。


「あっれー?聞いてたのー? 駄目だよ盗み聞きはー」


 扉に向かってわざとらしくエイトが叫ぶ。


「悪かったなァ?突然キレて皮肉とか言ってー」


 がちゃり、と、エイトが扉を開けた。








 再会した友達。


 誰より理解し合って気遣い合ってる。

 …けど、誰より攻撃し合ってる相手でもある。


 詰まる所喧嘩友達。腐れ縁。でも…まぁ、親友。


「―一応連絡は受け取ったぜ。揉み消したけどな」

「君ならそうしてくれると思ってたよ」


 カゲロウが馬鹿にするように鼻で笑った。


「バーカ。連絡したらお前の馬鹿げた理由が聞けなくなっちまうだろ。」


 偉そうに椅子にふんぞり返って言う。


「楽しみにしてたんだぜ? どんな下らねぇ言い訳すんだかよ」


「言うねぇ」


 今更頭にも来ない。


「…今始まった事じゃないんだよ。ずっと考えてた」


 カゲロウは立ち上がる。


「あぁ、知ってらァ」



 部屋の隅に積まれた缶コーヒーを渡してくる。

 僕はそれを受け取ってプルタブを開けた。



「…で?久し振りに顔見せたと思ったら女連れかよ。誰だその女」

 ティルにも缶を渡す。


 …が、彼女は警戒しているのか、それに手を出さない。

「なんて言うか…仲間?友達?連れ?…何だろう」


 この場合何と称したらいいか判断に困る。

 成り行き上一緒に居ることになったので。


 ティルは突き出された缶コーヒーにも断固として手を出そうとしない。


 カゲロウが苛立ったように舌打ちをした。


「…可愛くねー」


 つんとそっぽを向く。


「君を警戒してるんだよ。彼女フェネックだから」

「ふーん?」


 にやりとカゲロウが笑った。


 唇の片端を吊り上げる屈折した笑い方。



「…なぁ、俺と付き合ってみねぇ?」


 ティルが逸らした目線を合わせる。


 缶をカゲロウが投げ、咄嗟(とっさ)にそれを受け止めた。


「見た目良いじゃん。そんなヘタレの所なんかに居ねぇでさぁ、俺ん所来―」

「―ダメ!!絶対ダメ!!」


 僕は即座に否定する。


「…はぁ?何で」

「何でって―!…とにかくダメ!!」


 僕を無視してカゲロウはティルに話し掛ける。


「な、いいじゃん。」


 怒った様に、キッと彼女はカゲロウを睨んだ。


「―あたしは、あなたなんかとツキアッたりしません」


 …多分、付き合うの意味を解っていない。

 反抗期の子供のように否定したいだけなのかもしれない。


「あなたとツキアうなんてイヤです」

 急に興味を失って、カゲロウが回れ右で椅子に帰った。


「あっそ。つまんねーの」

 温いコーヒーは微妙に甘い。

 あまり気は進まないがこのままじゃ色々スムーズに進まなそうなので、仕方無く口を開く。


「ティル、悪い奴じゃないから仲良くしても大丈夫だよ」


 性悪だとは思うが。


「…、…―わかった…」


 渋々承諾してくれた。


 手始めにコーヒーの缶を見回す。

 それが何なのか解らないようだ。


 口を付けて中の液体を飲み込む僕を見て、ますます不思議そうに首を傾げた。



「―で。俺、訊きたいことが有り余ってるんだけど」


 缶を貸して貰ってプルタブを開けてあげる。


「あんま根掘り葉掘り訊きたくねぇんだけどさ。だから訊かねぇけど」


 見様見真似(みようみまね)で中味を飲んでみる。


「そのみっともねぇ服はどうしたんだよ」


 ティルが苦味に驚いたのか、いきなりコーヒーに噎せた。


 そのフォローに回る。


「…あぁ、そうそれ。隊服の予備無い?」


 不味そうに顔を歪める様は何だか新鮮で可愛い。


「有るぜ。下っ端の奴だけどな」


 ついでにティルの着替えも欲しいところだ。


「おい女」


 涙目でティルがカゲロウを睨み上げた。


「…席外せ。着替えとシャワー用意してやる。感謝しろよ」


 拒否の意で彼女は返事をしない。

 カゲロウはコーヒーで汚れた彼女を一瞥した。

「……そのナリで歩き回られちゃ強わねぇよ。―だから行け」


 苛立ったようにティルが目を細める。


 鼻筋に皺が寄り、本当は威嚇したいくらい、…多分機嫌が悪い。


 僕に眼で訴えるティルに、仕方なく頷いた。

 彼女が渋々口を開く。


「…わかった」


 カゲロウが部屋の外で待機する部下に、彼女を先導するように命令を下す。

 大層機嫌悪そうに、ティルは透明の羽を持った青年の背中について行った。


「…―さて」

 区切るように言って、カゲロウが立ち上がる。


「俺が聞きたいのは一個だ」


 僕は、空になった空き缶をゴミ箱に投げた。


 キレイに、

 一発シュート。


「―お前の行動は突発的だったり思い付きだったり―なんかじゃ、ねえんだろーな」


 迷い無く、僕は答えた。


「違うよ。…そんな馬鹿じゃない」


 彼の、色素の無い切れ目が、

 シュッ、と細められた。


 暫く、静寂が部屋を支配する。


 基地の外から、熱帯雨林を実感させる動物や鳥類の鳴き声がする。


 高い湿気に、たらりと汗が垂れた。


 ―カゲロウの、吐息。


「…―そう、だろうな」


 色素の薄い彼の金髪が、鬱陶しいと言わんばかりに、乱暴に振り払われた。



「…疑う気なんて無ぇ。分かった。お前が本気なら協力してやるよ」


 予想は付いていた。

 ―それでもやっぱり有り難い。


「―ありがとう」


 ふて腐れた様に、横柄に彼は頭を掻く。


「…今更何言ってんだよ。昔っから迷惑ばっかだっつーの」


「あはは、そう言えばそうかもね~? ……カゲロウが。」


「あ? テメェ今何か言ったか?」


「さぁあ? どっちだろう」


 僕は、愉しくてけらけら笑った。








 砂漠で出会った少女、ティル。

 彼女は今現在、最上階のゲストルームでシャワーを浴びている予定だ。


 ―が、そこに問題がある。


 彼女はシャワーを知らないのだ。

 シャワーを知らないのでコックもシャンプーも石鹸も知らない。



 ……心底心配だ。



 大丈夫だろうか。無事だろうか。石鹸誤飲したり熱湯被ったりしてないだろうか。


 考えるだけで徒歩のスピードが上がる。


 最終的には僕は小走りになり、彼女の居る部屋に飛び込んだ。



 既に頭は空で、シャワールームの扉を開け放つ。



 小脇に新品の隊服一式を抱え、そこら中が破れてボロボロな僕が、である。


「ティル!! だいじょ、う…―」

 クリアな視界を保つシャワールームの中。


 その先には言うまでもなく全裸で振り向く彼女が居た。



「…―ぶ…」



 むろん無事だがもうそんな事は問題ではない。

 この戸が開いた瞬間から問題はすり替わった。



「…――!!」

 みるみるエイトの顔が赤面してゆく。

 ―彼はウブなのだ。



「―あ、エイト。…これ、使い方分かんないんだけど」


「―や、っわ!!ご、ゴメン!! 今すぐ消えるから!!」


「ねぇ、ちょっと聞いてる?」


「はい!!仰る通りで―」

 背を向け掛けたエイトは、ティルとの温度差にやっと気づいた。



「…―え?」


「…ねぇ、エイト」


「……ティ…ル…?」



 恐る恐る振り返ると、仏頂面でゆっくりと尾を揺するティルが居た。



「…エイト」


 とんでもない違和感を感じた。


「あ…あのさ、恥ずかしかったり、とか」


「言ってる意味が分かんないんだけど」



 怒ったように言われるのでそれ以上は言えなかった。


 …そうだ。そもそも彼女に『常識』は存在しないのだ。


 …だから、これは彼女が変態で確信犯とかじゃなくて、多分というか絶対に素の天然。



 と言うより彼女に其処までの知恵があるとは思えない。


 …僕、物凄く失礼な事言った気がするけど。



「……ティル、怒ってる…?…よね」


「…―あたし、あの人嫌い」

 …あの人?

 …ああ、カゲロウか。


「なんか、気が合わないと思う」


 …それは、見ていて分かった。


 元々合わないだろうとは思っていたが、まさかあれ程反りが合わないとは。



「…昔はああじゃなかったんだけど……」


「―えぇ!? 嘘っ!」


 心底驚いたように見上げられ、向き直られる。

 ……いや、目のやり場に困るんだけど。


 …せめて目を逸らす事を許してほしい。



「あれが!?」


「…………うん」



 消え入るような声で呟くと、やっとティルが僕の態度に違和感を感じてくれた。


「えいと?」


「…………うん、何だろう」


「どうしたの?」


 すっぽんぽんの少女が言う台詞では無いと思った。


「…………いや、僕がやましいだけ…」



 …これは彼女から見たら凝り固まった偏見かも知れないけど、僕としては相当恥ずかしい。


 これで直視なんかしたら本当に変態みたいじゃないか。



 でも、と思い直す。これからは馬の合わないというカゲロウも一緒なのだ。

 彼女のこれは危険だ。とにかく、絶対に。



「…ティル、裸っていうのは、ね…。…は、恥ずかしいん…だよ…?」



 実際は言ってる僕が恥ずかしい。



「だから…その、…」


「…恥ずかしい?」


 一般的には。


「…うん、…そう」


「…そうなの?」


 そう、そうなのだ。


「―あたし恥ずかしくないんだけど…エイトが困るなら…。…―えっと、どうしたらいい?」


 改善の意志は有るらしい。これは、何とか成るかも知れない。


 …というか何とか成らなかったら困るのだが。


「…同姓以外にはあんまり見せない方が…」


 …一般的にはそんな所じゃないだろうか。


「……曖昧で難しいかも…」


「―え…! …そんなぁ……」


 自分でも驚く程情けない声が出た。



 具体的に、シンプルに、かつ一般的に。


 …もうこの際、この場が凌げてぱっと見まとも、位で構わない気がしてきた。


 元を正せば彼女はシャワーの使い方が分からないのだ。


そこを解決するには、僕が教えるほか無いのだろうが……。


 つい溜め息をついた。


 ……おかしな事になってしまった。


 …しかし思考を停止するわけには行かない。何より自分の為に。


 こうして考えている内はティルの裸は晒されたままなのだから。


 彼女は良くても、こんなのは僕に良くない。



「…エイト?」


 僕を覗き込むのは他でもない彼女な訳で。


 色々と目一杯な僕はもう半ばヤケクソで叫んだ。


「―分かった! 僕以外の前では裸を見せない!! ―これで良いだろ?」


 きょとんとしたティルを見て、しまったと思った。


 口調がつい強くなってしまった。彼女に悪気などある筈も無いのに。


 …本当に―無自覚は罪だと思う。



「…それは結構…分かりやすいかも」


 意外な答えが返ってきた。


「え、勢いで言ったのに―…?」


「ん?」



「…いや、何でもない」


 じゃあそうする、と笑う彼女を見て、これでも良いか―なんて思った。


 すっかり問題を解決した気になった僕はこの状況から逃げようと踵を返した。


「―あ、ちょっと待ってエイト!」



 手首を掴まれてから思い出す。

 僕には大事な使命が残っていたのだ。


 真っ裸の彼女にシャワーを教えなくてはならない。




 …困ったな。


「…じ、自分でなんとか…。―…ならないよね…」


 ならないから呼び止められたのだ。



 恐る恐る視線をあげた先に無垢なティルの瞳があって、


 どうしたものかと、僕は深い溜め息をついた。








「ティル、僕は今からシャワー浴びるから…大人しく待っててね」


「はぁーい!」



 僕の方はまぁ何とかティルのシャワーを終える事が出来た。


 初めての石鹸やシャンプーの感触にティルはご機嫌だった。



「いい、誰かがドアをノックしても絶対に出ちゃ駄目だからね。何かあったら絶対僕のこと呼んでね、良い?」


「分かったよー!」



 当の本人は無邪気にはしゃぎながらベットにダイブしている。


 ……ホントに分かってんのかな…。


 一抹とはとても言えない不安を抱えながら、僕はバスタブのないシャワールームに入った。



 外からティルの声が聞こえる。のんびりはしていられない。


 傷の治り具合は良好だった。既に薄皮が張っている。


 …ただ、擦ると破れそうなので石鹸でゴシゴシするのは控えた方が良さそうだ。



 温度をぬるま湯位に調節し、汚れを洗い流す。

 血が溶けて皮膚から流れるのが気持ちいい。





 本部と較べると、支部の設備は全体的に古くアナログくさい。


 恐らくこの星に移住したばかりの設備に近いか、それよりももっと古い地球時代の設備くらいだろう。



 シャワーは水とお湯の配分を調節しなければ使えないし、電気は最悪オイルランプである。


 電話線も無ければ電波式の電話すらない。



 もっと言うなら特殊繊維の隊服も強化素材のゴーグルもない。


 至って普通の、綿とポリエステルの混合生地とUVカットのガラスである。


 技術の進歩が聞いて呆れる。




 ―僕等は人じゃない。


 人権など存在しない。


 だから、人並みの生活など不要ない。



 …そういう事だろう。


 本部については市民の手前、そう非道い扱いは出来ない。

 だから市民くらいのレベルの生活設備は整っている。


 僕等の住み着く支部は所詮武器庫だ。そこに戦える武器と兵器が居ればいい。



 …まぁ、だからと言ってこの扱いに取り立てて不満は無いが。


 別に困るわけでもない。そもそもそんなに便利になんてなる必要は無い。

 これ以上手間が省けても、ダメに腐るだけだ。



 シャンプーの後のリンスを馴染ませながら、ぼんやり光る白熱灯を見ていた。



 細く柔らかい割に量が驚異的に多い僕の髪は、リンスをサボると収拾が付かなくなるのだ。


 …全く、邪魔で使用が無い。



 …カゲロウはリンスじゃなくてトリートメントだって馬鹿にするだろうなー…。




 取り立てた不満は無くとも―ただ、この狭さには若干の文句を吐かせて貰おう。


 どうしてって羽が洗えないからだ。

 半分も伸ばせなくては詳細に洗うことが出来ない。


 …カゲロウみたいな透明でコンパクトな羽は別だろうが。



 僕の羽はでかくて、正直こういう時は邪魔でしかない。



 心地よい温めのお湯を浴びて、リンスを洗い流した。




 …―良いこと思い付いた。

 ここからカゲロウと一緒に出て行かなくてはならない。…その方法。



 当たり前って言ったら当たり前過ぎるけど。



 白熱灯を見て思い付いた、しょうもない子供騙しだけど。



 …戦いたくないなら、結構良い案だろう。




 ……僕はすっかり連れの少女の事なんて忘れて、


 傷跡だらけの醜い身体を晒したまま、とバスルームを出たのであった。






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