忘れ物
ビックリ!
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突然掛かって来た電話、その一本の電話で家の中は大騒ぎ、何故なら近年稀に見る程の超大型台風が此の地に向けてやって来る、未だ沖合だが間違いなく海上を此方に向けて直撃コースで迫まってる、此処に上陸するのは間違いない、台風が此処に到達する迄進路上障害に為る物は何も無い、勢力は其の儘、否、海上で燃料になる温かい水蒸気を得て更に勢力を増しながらやって来るだろう…。
何故大騒ぎ?、今居る俺の家は崖状の山を裏に背負い眼の前は20m程先で湾の中とは言え海になる、此処には粗平地と言われる物が無く、海沿いの山の裾に有るホンの僅かな平らな土地にへばりつく様に肩を寄せ合う様に家が建つ小さな集落、台風は未だ沖合遠く風は未だ左程では無いが既にかなりの降水量が降って居る、家の前に有る国道さえ直に通行規制が掛かる降水量まで達そうとしている、眼の前の国道以外に迂回する道すら無い様な場所、夏ももう直ぐ終わろうかという日に起きた出来事。
其の電話は地元の消防団からで、この集落で崩落危険個所の確認に家の裏山に入ったが、その裏山の壁面に此の降水量で亀裂が見付かったとの知らせ、此の地域の住民に上陸前に安全な場所に避難するようにと指示が出た、俺が昔通った小学校に避難所を開設したから其処か親戚等の安全な場所が在るなら其処へ避難しろと、その電話は警告では無く命令と言った方が良い緊迫感の有る電話だった。
お世辞にもとても裕福とは言えない我が家、両親と弟、未だ幼い妹、そして俺の5人家族、車は有るが軽のバン一台、スズキのキャリーバン然も360㏄です、そう四人乗りの軽バンは無理矢理乗ってしまえば全員乗れるのだが数日分の着替えや身の回りの物等の必要な物載せると…、550㏄の軽バンより一回り小さい車体は中はギュウギュウ詰めになる、スペースの余裕は勿論無くそれで…。
「俺は乗らないよ、バイクで付いて行くから!」
避難先の小学校に向かい走り出す家族が乗った軽バン、その後をGRで追って行く。
避難所に成った小学校に到着した時、雨は強いが風は未だこれからと言った処で中に入って一安心、周りを見るとテレビから流れる台風情報を食い入る様に見ている大人達、台風が通るコースも勿論だがこの後何処迄勢力が発達するかでも被害の大きさは全く違う、其処に気が向くのは仕方無い。
最初に書いた様な僻地の此処には商業圏は無く、一次産業の集落で避難者には圧倒的に女性と高齢者が多い、何故なら農業と漁業が主の集落、少し内陸に家が有る農業従事者は避難せずに自宅で待機も可能だが、海沿いに住む漁業従事者は仕事の道具で在り且つ財産でも在る漁船を台風から守らなければ為らず、台風の影響を受け辛い沖へ船を避難させに外洋に出て行く、それで残された女性と高齢者が此の避難所に居るのです。
15時を少し回った頃には少しずつ横殴りの雨が避難所の窓に叩き付け始め、其の音に段々避難所の中は緊張感が増し、其の場の不穏な空気に押されたのでしょう、妹がぐずり始めました。
母があやして居るのだか一向に泣き止みそうに無い、よく見ると何時も引き摺る様に離さず持ってる熊のぬいぐるみを持って無い…。
悪い時には悪い事が重なるものですよね…、学校の電話で祖父母の家へ避難した事を連絡しに行った父が険しい顔している、何でだ?、祖父母の家は海から離れた高台の安全な所に在るのだが?。
(。ŏ﹏ŏ)?
「如何したん?」
険しい顔して妹をあやす母と相談してる、気に為りその話に割って入り聞き出した、内容は飛来物で雨戸が壊れ更にガラスも割れてしまい、これ以上風が強く為ったら雨が家の奥まで打ち込む、祖父の力では応急の補修すら出来ずに居るらい…。
「こんな事なら向こうへ避難して置けば良かった。」
今更そんな事を言っても遅いだろと思った、時既に遅し、後の祭りでしか無いよな…。
確かに此方を避難先に選ぶのが当たり前、何故なら祖父母の家は約30キロ先、平時で早くても40分は掛るしコーナーのキツイ峠を越えなければ為らない、況してやこんなに強い台風の中では…。
此の避難所まで自宅より約4キロ、車で5分も掛から無い、何方を選択するか等は考える迄も無い、祖父母の家は俺の学校とは反対側へ走る、先ず海岸沿いの道が約10キロでしかも目の前は外洋に面した海…、そうです其の先には日本の陸地が有りません、其処を過ぎた先はお互いが譲り合わなければバスと乗用車が離合出来ない道幅でヘアピンが連続する峠道、其れが約8キロ程在る始末…、その峠道は地肌剥き出しで落石対策も殆ど無い、この降雨で何時崩れて来るかも判らないそんな道…。
そんな道でも国道なんですよね、そんな危険な道を通る位なら避難先に此方を選ぶのは当たり前の事…。
<さあ如何する?>
窓に叩き付ける雨音に一瞬躊躇うが既に答えは出ている、これ以上愚図愚図していると状況は更に悪化する、決めた今から俺が行って来る!。
「じゃあ行って来るよ、熊さん連れて来るから母さんの言う事聞いて良い子で待っててな!」
泣きじゃくり乍も頷く妹の頭を一撫で、雨具を身に着け避難所を後にした。
先ずは自宅へ向かうが此処までは湾の内側、海側山側共に家並みが続き内海だから雨は兎も角風は其れ程問題無い、家に入り子供部屋で大事な宝物を確保、濡れない様にビニールに幾重にも包む、俺が万一転倒しても大丈夫な様に更に二重にタオルに包み込む、コレで濡れる心配も傷む心配も無い、Dバックの奥に仕舞いGRで自宅を後にした。
「さぁて外海側はどんなもんだろな?」
自然に言葉が零れる、多分今の此奴なら走り切れる、何時もの様に無事に走り切る為の儀式だタンクに手を置きGRに声を掛ける。
「頼んだぞ、無事に走り切ろう!」
ゆっくりと自宅から走り出し外海の遮る物の無い海岸線の道へ、台風で大時化の海沿いの道に向かって…。
さぁ次回は因縁の台風の高波との対決、そして激しい降雨の中の峠越えに為ります、無事に走り切る事が出来るのか?、其れとも途中で挫けてダウンするのでしょうか…?、さて如何なる事やら…。
(´Д`)ハァ…
この時がDTかXTだったら楽勝だったのかも…
(ΦωΦ)フフフ…