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エピソード2

 「そんな…いやぁぁあ゛!!」

駄々をこねる子供のように、月はその場に座り込む。

デスゲームの参加者は、太陽と月の2人。勝者は生き、敗者は死ぬ。つまり、自分が生き残るためには恋人を殺さねければならない。

泣きたくなるのも当然だ。

しかしゲームマスターは、子供を叱責する親のように、呆れた調子で喋る。

『喚いてないで、とっととゲームを始めろ。さもなくば、殺す』

「殺す」という言葉は、日常ではありふれた冗談だ。しかしゲームマスターの放った「殺す」は、日常で使う「殺す」とは全くの別物であるかのように冷たい。

ゲームマスターの言葉は逆効果となったのか、月は一層激しく泣き喚き、席に着くことを拒む。

『いい加減にしろ!!これ以上遅延行為を続けるなら、お前の首輪に致死レベルの電流を流す。これが最後の警告だ。死にたくないなら、今すぐゲームを始めろ』

痺れを切らしたゲームマスターが、怒りを滲ませた声で月を脅す。それでも月の号哭は止まない。

「嫌ぁ!そんなゲーム、絶対無理ぃ!!」

『そうか。不本意だが、従わないというなら仕方ない。ペナルティを下す』

断固としてゲーム参加する姿勢を見せない月に見切りをつけたゲームマスターは、月の首輪に電流を流そうとする。

「ちょっと待て!!」

突然、黒川が叫ぶ。

「ゲームマスター。もしゲームをやらせたいなら、月ではなく、俺の首輪に電流を流すと脅せ!」

『はぁっ!!??』

意味の分からない要求に、ゲームマスターは当惑する。しかし太陽の顔には、確信が見て取れた。

一考した後、ものは試しとゲームマスターは通告する。

『ふむ…。ではこうしよう。もしゲームに参加しないというのなら、お前ら2人の首輪に、致死レベルの電流を流す。まぁ、これで月月の行動が変わるとは到底……アレ?』

さっきまで泣いて喚いていたのが嘘のように、月は澄まし顔でテーブルに座っていた。

「太陽のせいで、作戦が台無しじゃない」

「そうはいかない。俺には使命があるんだから」

ゲームマスターには何がどうしてそうなったのか皆目見当もつかないが、太陽と月は完璧に理解しているようだった。

ゲームマスターは困惑しながらも、咳払いをしてゲーム開始を宣言する。

『おほんっ。2人とも、席に座ったな。それでは、『革命戦争』を始める。プレイヤーはカードを選択し、裏面を上にして卓に置け』

2人は1~5の数字が記載された簡素なカードを数刻の間眺め、カードを置く。

『両者、選び終わったな?それでは、両者同時に、カードオープン!』

太陽のカードは3。月のカードは2。大きい数字のほうが強いため、太陽が2枚カードを獲得する。

太陽は、考えられる限り最も理想的な勝ち方をした。だというのに、渋い顔で額の汗を拭う。

奇妙な光景にゲームマスターは訝しむも、平静を装ってゲームを進行する。

『1ターン目、勝者太陽!2ターン目に入る。次のカードを選べ』

月は悠々とカードを選択する。太陽は頭を抱えて長考した後、カードを机の上に置く。

『それでは、カードオープン!』

太陽のカードは2。それに対し、月のカードは1。またしても、太陽は理想的な勝利を得る。

あと一回でも勝てば、太陽はこのラウンドで勝利。残り札から考えても、黒山の勝利はほぼ確実だ。

しかし太陽は圧倒的優勢であるにも関わらず、こめかみを押さえ、眉間に皺を作って苦悶する。対象的に、白河は得意満面。

こいつら、なにか酷い勘違いをしているじゃないか?

ゲームマスターがそう思った時、太陽が白山を真正面で向き合えるよう座りなおし、話しかける。

「月、考え直すんだ。()()()()()()()思うな」

ゲームマスターはあまりのことに耳を疑う。


負けようとする?


まさかとは思うが、恋人を助けるために、自分は犠牲なろうとしていたのか??

そんな美しい愛、創作の中だけにしか存在するわけない!!

性格のひん曲がったゲームマスターは、そう信じてきた。

しかし、事実は小説より奇なり。彼らはまさしく創作物に勝る愛情で繋がっていた。

「告白の時に言ったろ。命に代えても君を守ると。俺が死ぬことなんて気にするな。君が生きてくれるのであれば、俺は灰になっても本望だ」

B級の恋愛映画でも言わないクサいセリフを、太陽は真剣そのものな表情で言う。

聞いているこっちが恥ずかしくなるセリフだが、月も同じく真剣な面持ちで返答する。

「勿論覚えているわ。8カ月と3週と2日と4時間前に、気温19.2度湿度56.8%風速1.4m快晴の中で聞いた告白を、私が忘れるわけないでしょう?厳密に言えば、『僕は命に代えても君を守り、一生愛する。だからどうか、俺と付き合ってください』ね。そっちこそ忘れた?私は『私も貴方のことを、命を代えても守る。だからこっちからお願い。私と付き合って』と。分かるでしょ?貴方が譲らない様に、私も譲らない」

「なるほど。頑固な君も素敵だよ。質問のついでに、もう一つ尋ねるとするよ。どうして、君は僕が出す札が分かったんだ?」

そう。結局の話、如何に相手を勝てせる気があったところで、2ターン連続で相手に理想的な形で勝たせるなんて芸当、相手が何を出すか分かっていなければ出来ない。しかし序盤の1,2ターン目で、相手が出すカードを読むなど、じゃんけんで相手の手を推測することと大差ない。

「2ターン目にカードを選んでいる時。太陽は眉を0.2㎜下げ、いつもの約2.4倍の頻度で瞬きをしていた。声はいつもより平均して3Hz高く、じんわりと汗の匂いが漂っていた。自分の手が読まれているのではないかという疑念が芽生えたことによる緊張。その疑念を確かめようとする、挑戦の気概。疑念を確かめるため、思案の末2の札を切る。これが太陽の思考でしょ?私はいつも太陽のことを見て、聞いて、嗅いで、感じていた。貴方の心を読むなんて、私にとって絵本を読むことと同じよ」

『こっわ…じゃなかった!2ターン目、勝者太陽!次のカードを選べ!』

月の常人離れした観察眼に、思わず素で引いてしまったゲームマスターは、慌ててキャラを取り繕う。

太陽は月はじっくりと観察する。

月はその様子に微笑みを浮かべ、揶揄うように言う。

「そんなに熱烈に見られると、照れるわね。でも無駄よ。太陽に私の心は読めない」

「どうかな。俺だって、恋人として月のことを見てきたつもりだ」

「えぇ。太陽は私のことをちゃんと見てくれてきた。でも無理よ。だって私の太陽に対する愛は、世界で一番強いから」

2人がカードを選択し、ゲームマスターは言う。

『両プレイヤー、選択完了。それでは、カードオープン』

2人はカードを太陽のカードは4。月のカードは3。再び太陽は理想手で勝たされ、合計6枚のカードを手にした。つまり、1ラウンド目は太陽の完全勝利だ。

「7と10。これが何を表す数字かわかる?」

目論み通り敗北した月は、蠱惑的な笑みを浮かべて問いかける。

その余裕綽綽とした姿に死が迫っているとは、到底信じられない。

「貴方の部屋につけた、カメラと盗聴器の数よ。私が貴方を観測しているとのは、何も貴方といる時だけじゃない。貴方が起きた直後、寝る直前、ご飯を食べる時、お風呂に入る時、友達を家に招いている時、大学の課題に取り組んでいる時。私は貴方の全てを見て、聞いてきた。私の愛は、貴方の心を見逃さないわ」


第2話【love=power】

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