エピソード1
「どこだ………ここ?」
黒山太陽が目を覚ますと、硬いコンクリートの上にいた。
自室で飲んでいたら眠くなって……と太陽は記憶を探りながら、周囲を見渡す。そして真横で寝ていたもう1人の人物に気付き、度肝を抜かれる。
「月!!?どうして月がいるんだ!!」
太陽の隣で眠っていた人物とは、太陽の恋人である白川月だった。
「月、起きろ!」
太陽が肩を揺さぶると、月は目を覚まして瞼を擦る。
「ん…。おはよー、太陽。どうしての?怖い顔して。……って、ここどこ??」
2人がいる部屋は、床も壁も天井もすべてがコンクリートで覆われた、簡素な部屋だった。天井には蛍光灯が1つだけ付いており、淡い電球色の光を放っている。広さは6畳ほどだが、木製の小さなテーブルが1卓と2脚のパイプチェアしかないため、なんだか広く感じられる。
『おはよう。黒山太陽。白川月。硬い床で申し訳なけない。体は痛くないか?』
部屋の隅にあるスピーカーから、加工された声が響く。2人を慮るようなセリフだが、心は一切こもっていない。
「なんだお前!なんで俺たちの名前を知っている?」
『なんでも知っている。貴様らの名前も、年も、出身地も、身長も、体重も、貴様らが1年前から付き合い始めたカップルなことも。貴様らは、我々が主催するデスゲームに参加させられたんだ』
スピーカーから流れる声が狭い部屋に反響して、ぐわんぐわんと2人の脳に響く。
「な、なにが目的だ!どうして俺たちを選んだ!」
『人間の本性が見たい。悪辣で残酷で利己的な、人間の本性が。ただそれだけだ。そして我々としては、貴様らを選んだつもりはない。参加者を見繕っていたら、たまたまお前たちが目に入った。それ以下でもそれ以上でもない。質問に答えてやるのはここまでにして、ルール説明に入らせてもらう。貴様らにはこれから、あるゲームをしてもらう。簡単なゲームだ。ゲームに勝てば、五体満足のまま家まで送ってやる。負ければ、天国に送ってやる。安心しろ。送迎費は不要だ。自分の首を触ってみろ。首輪があるはずだ』
促されるまま、2人は首元を触る。説明された通り、鉄鼠色の首輪がついていた。
『ボタン一つで、その首輪には致死レベルの電流が流れる。殆ど痛みを感じず死ねる、良心的な設計だ』
露悪的な説明に、2人は顔を青ざめる。
『早速ゲームの説明に移ろう。ゲームの名前は“クイック戦争“。簡単に言えば、トランプゲーム“戦争“の時短版だ。まずプレイヤーにはそれぞれ、1〜5までのカードが配られる。プレイヤーは手札から好きなカードを1枚選び、両者同時に出す。より大きい数の札を出した方が、場に出た2枚のカードを獲得する。同じ数字の札が場に出た場合、そのターンは引き分け。次のターンの勝者が、そのターンと引き分けとなったターンの札をまとめて獲得できる。これを手札が無くなるまで繰り返し、それを1ラウンドとする。最終的により多くの札を持っていた方がそのラウンドの勝者。3ラウンドを行い、ラウンドの合計勝利数が少ない方を殺す。引き分けるようなつまらんゲームを見せた場合は、両方殺す。これでルール説明は以上だ。テーブルの上に、カードがある。席に座り、ゲームを始めろ』
「ちょ、ちょっと待って!!相手は…対戦相手は誰!?」
月は悲痛な声で叫ぶ。聡い月は、対戦相手が誰であるかを、既に確信していた。確信していながら質問を投げたのは、その答えが月にとって受け入れられるものではなかったからだ。
月は手を合わせて祈るも、返ってきた答えに慈悲はなかった。
『椅子の数を見て分からないか?椅子は2脚。部屋には貴様と貴様の恋人の2人。対戦相手は、貴様の恋人。生き残るには、恋人を殺すしかない』
1話:【win=kill】