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西からやってきた5人

その日、西の果ての故知れぬ大地から、五人の男女が海をわたりローゼンハイムの港へやってきた。


【トグマ】─「うわあ、すげえ数の船だぜ。アイル、見てみろよ」


一人の男が港を指さしてつぶやいた。彼の名は、トグマといった。彼は、逆立てた金髪に青い目をしており、その目元には縦に流れる二つの入れ墨があった。彼には、どことなく不良じみた雰囲気があった。


【アイル】─「ああ、すごいな。おれはこんな数の船が一箇所に集まってるのを見たことがないな」


アイルと呼ばれた青年が船の中から声をかけた。青年は、トグマとは対象的にサラサラとした艶やかな金髪を纏っていた。彼は、このわずか乗員五名の小さな船のリーダーであった。

二人の目線の先には、無数の船が停泊していた。大陸の東西南北、ありとあらゆる国々から集まった船団が、ため池を埋め尽くす水草のように、海の表面を覆い尽くしているようだった。


【アベル】─「いやいや。世界中の誰だって、こんな光景を見たことはないでしょ」


アイルの背中から、エルフの青年が声をかけた。彼の名は、アベルといった。長い白金色の髪が潮風に吹かれて、ゆらゆらとたなびいていた。


【トグマ】─「おーい、ミレーも上がってこい!港がすげーんだよ。船だらけだぜ!」


トグマはキャビンに続いている階段に向かって大声で叫んだ。しばらくすると、船の中から一人の少女が姿を見せた。彼女は、アイルの妹だった。彼女はまだ15歳になったばかりと若かった。

ミレーは港を眺めていたが、彼女の目線は居並ぶ船よりも、むしろその上に見える町並みに向いているようだった。


【ミレー】─「綺麗な街ね」

【アイル】─「ああそうだな。さすがは王都だけある」


彼らは船を港の桟橋につけると、船の縁から飛び移った。トグマは、唯一船に残った青年に声をかけた。


【トグマ】─「ガイ、俺達は勇者の凱旋を見に行ってくる」

【ガイ 】─「ああわかった。だがあまり時間を使うなよ。仕事の準備もあるからな」

【トグマ】─「わかってるって」


トグマがそう言うと、ガイと呼ばれた青年は船内に戻っていった。彼は五人の中ではもっとも年長であり、剃り上げた頭に、額から右目に走る深い傷を持った、強面の男だった。名目上のリーダーはアイルだったが、年長者である彼が実質的にはこの船を取り仕切っていた。


港には、数え切れないほどの船が停泊していた。どの船も、アイルたちの船より遥かに大きく、間近にみるほどに美しかった。そうして、感嘆しながら歩いていたところ、アイルは足を止めて、一つの大きな船に思わず見惚れてしまった。

その船は、漆を塗ったような黒い船殻に、金色の文字で、刺繍のように美しい紋様が描かれていた。マストは60メートルはあろうかというほど高く、畳まれた帆に描かれた魔法陣は見たこともないほど繊細で、そしてその船尾には、二つの大きな黒龍の羽が据え付けられていた


【アイル】─「すごい船だな……」


アイルは呟いた。


【漁師 】─「それはザクセンの船だよ」


アイルが感嘆していたところ、漁師らしいおっちゃんが声をかけた。彼は、桟橋の反対側で、係留ロープをたぐっていた。


【アイル】─「ザクセン?」

【漁師 】─「ああ、海の向こう側にある大国だよ。その国とはずっと小競り合いが続いていたんだが、王女の婚姻式だって言うんで、この日ばかりは大使が来ているのさ。知らないのかい?」

【アイル】─「ああ、俺達は遠くから来たんだ。それにしても、随分立派な船だな」

【漁師 】─「ま、俺達漁師にとっちゃいい迷惑だがね。なんせこいつらの場所を空けるために、浜に船を上げなきゃならんだから」

【アイル】─「祭りのときぐらい漁を休まないのか」

【漁師 】─「バーロウ、祭りのいまこそが掻き入れ時なのよ。それに、わざわざ来てくれた旅の人間に、腐った魚なんか出せねえしな」


漁師はウインクすると、街の方に去っていった。アイルたちも、街へ行くことにした。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



街は活気に満ち、あらゆる沿道が人々で埋め尽くされていた。街中には色とりどりの装飾が施され、祝祭の雰囲気が広がっている。空には花吹雪が舞い、どこか遠くから人々の歌声が聞こえ、吟遊詩人のリュートの音色が響いてくる。四人は、街の賑わいに圧倒されながら、好奇心いっぱいに辺りを見回していた。


【ミレー】─「わたし、こんなにたくさんの人を見たのは初めて」


ミレーの声には興奮が混じっていた。彼女の目は大きく見開かれ、その輝きは明るい陽の光に照らされて輝いていた。


【アイル】─「本当だな」


アイルもまた、この祭りに感嘆しつつ言った。


そんな二人に、突然声がかけられた。


【街の女】─「ちょっと、そこのかわいこちゃん!あなたよ!」


ミレーは驚いて声の方を振り返った。


【ミレー】─「(。゜ω゜)え?私?」


声の主は、小太りの街の女だった。彼女は笑いながら、ミレーに近づいてきた。


【街の女】─「(*´-`人)お嬢ちゃん、これをかぶりなさい。今日はお祝いだからね」


そう言って、女は花輪をミレーの頭にかぶせた。花輪は鮮やかな赤い色で、彼女の金色の髪の上でよく映えた。


【街の女】─「(゜▽゜)まあ!とってもよく似合ってるわ」


女の言葉に、アイルが軽く笑った。


【アイル】─「似合ってるって。よかったな」

【ミレー】─「(〃 ̄ω ̄〃)そう?トグマはどう思う?」

【トグマ】─「( ˙-˙ )なんでオレ……?(゜∀゜;)ああ、似合ってる、似合ってるよ」


ミレーがふくれっ面をして拳を振り上げたので、とぐまは慌てて訂正した。その様子を見て、アイルとアベルはにやにやしながら顔を見合わせた。ミレーは、トグマのことが好きなのだ。


四人は再び笑い合いながら、街の賑わいの中を歩き続けた。


やがて彼らの前方に、より一層の人だかりが集まっているのが見えた。彼らは道の真ん中を開け、その両脇に並んで立っていた。皆は一様に期待に満ちた表情を浮かべ、右手の道の奥の方に顔を向けて、何かが来るのを待っていた。

これはきっと、勇者の凱旋を待っている人たちに違いない


【アイル】─「あそこに登ろう」


アイルが、沿道とは反対側の、壁の方を指さした。そこには建物のバルコニーに続く階段があって、その上からは道路全体を見渡せそうだった。


【ミレー】─「うん、あそこからならよく見えるかも!」

【トグマ】─「早く行こうぜ!いまに勇者たちが来ちまうかもしれねえからな」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



やがて、道の奥に勇者たちが姿を現わした。遠くから太鼓の音が響いてくる。勇者たちはまだまだ道の先にいるが、それでも群衆の熱気をここからでも感じることができる。そして、勇者たちの行進が近づくにつれて、人々の歓声もまた大きさを増していった。


勇者たちは、白い馬に乗った騎士に先導されながら、ゆっくりと歩いてきた。彼らは、笑顔で沿道の人々に手を振り続けていた。彼らの足取りには揺るぎない自信が感じられ、一人一人が、いい知れぬ存在感を放っていた。彼らを歓迎する人々の歓声もまた、揺るぎない愛で溢れていた。それもそのはずだ。彼らはそれだけのことをやり遂げたのだ。


アイルは、勇者たちの姿に目を奪われた。もしオーラというものが存在しているのなら、きっと今目の前にしているもののことをそう呼ぶのだろう。


【アイル】─「……すげえ」


アイルは思わず感嘆の声を漏らした。なにがすごいのか自分でもわからなかったが、ただその言葉が口から漏れ出た。勇者たち一行の中でも最年少のクロードは、アイルと年が変わらない。しかし、彼はその年齢で、魔王を打ち倒したのだ。それが、果たしてどれほどの偉業だろうか。アイルの目には、少年に返ったときような、純粋な憧れと敬意が宿っていた。


仲間たちもまた、その勇者たちの威風堂々たる姿に感動していた。そして彼らはそれぞれの胸に、勇者たちの姿を刻みつけたのだった。


そうして、やがて勇者たちは、城の方へ向かって去っていった。


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