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はじまり


”―――――目覚めよ”


闇の中で、言葉が聞こえた。その言葉は、暗いまどろみの中で、何度も何度も響き渡った。そして青年は、ゆっくりと目を見開いた。

目を開けると、そこには満点の星空が広がっていた。夜空にきらめく色とりどりの星の煌めきは、まるで手を伸ばせば届くかのよう。天穹を二分する白い天の川の流れは、輝く月の光にも負けないほど明るかった。


【 青年  】――「……ここは、一体どこなんだ……?」


青年はひとりつぶやいた。

彼は体を起こした。彼は、かたい羽目板の床の上に寝ていたようだ。ここは、どこかのバルコニーなのだろうか。彼が周囲を見回すと、二人の男と二人の女が、彼と同じようにすぐそばの床に寝かされていた。四人は、まるで死んでいるかのように、仰向けに寝たまま身じろぎ一つしなかった。

青年は、なにか床がゆっくりと揺れ動くのを感じた。耳を澄ますと、手すりの向こう側からなにやら波の音が聞こえた。


青年が立ち上がり、手すりのそばに立った。そこには、暗い海が広がっていた。ここは小舟の上なのだ。満点の星の空とは打って変わって、その海の暗さは、底しれない。彼はまわりを見回したが、陸地らしきものは見えなかった。海は穏やかだったが、青年は、ここがどこか陸地から遥かに離れた海洋のさなかだと直感した。


背後で物音がした。青年が振り返ると、四人の男女はそれぞれ目を覚ましていた。彼らはまだ寝起きにぼんやりとしており、一番小さな女の子などは、まぶたをこすりながらは大あくびをしていた。


【 青年  】―「なあ、君たち」


青年が口を開くと、皆は彼を見た。


【 青年  】―「君たちは、自分が誰だか分かるか?俺は、自分が誰なのか、なぜここにいるのかもわからない。」


【黒髪の青年】―「……俺もおなじだな」


黒髪の青年が応えた。彼は、突き出た鼻梁と鋭い眼光を持った、いかつい顔をした青年だった。


【金髪の青年】―「僕も……」


黄色い髪の青年が応えた。彼は、長いサラサラした金色の髪に、尖った耳を持っていた。その肌は白く、唇は赤く、どこか女性的な美しさを漂わせていた。


【茶髪の少女】―「私も、自分が誰なのか思い出せない」


あくびをした小さな少女が応えた。彼女は、茶色い量の多いくせ毛に、赤い瞳を持っていた。彼女は、頭の側面から、羊のような白い大きな巻き角が生やしていた。


【青髪の少女】―「わたしも同じみたい。何も思い出せないわね……」


青い長い髪の後ろに片目を隠した少女は、そう言って首を振った。そして、彼女は逆に訊ねた。


【青髪の少女】―「……ここはどこなの?」


【 青年  】―「……ここはどこかの海の真ん中らしい。立って見てみな」


青年は、縁の向こうを指さした。四人の男女は、青年と同じように立ち上がり、海を眺めた。彼らは、呆然として立ち尽くしていた。青髪の少女は、星を見上げていった。


【青髪の少女】―「なんだか、とっても星が綺麗ね」


五人はしばらく無言だった。ひとときののち、青年は提案した。


【 青年  】―「なあ、この船をちょっと探検してみないか」


【黒髪の青年】―「……探検つっても、ほかに船室がひとつあるだけみてえだが」


【 青年  】―「じゃあ、そこに言ってみよう」


彼の提案に従い、みな船尾の船室に向かった。


船室には明かりがついており、窓から光が漏れていた。青年はドアノブに手を伸ばし、扉を開いた。


船室の中には、テーブルに5人分の食事が用意してあった。それはパンとスープであり、まだ湯気が立ち、温かいようだった。

彼は部屋を見回したが、そこにはだれもいなかった。

おかしい。誰かこれを用意した人間がいるはずなのに、誰も見当たらない。誰かがさっきまでここにいて、料理を作り、みなが起きる直前に海に飛び込んだとでも言うのだろうか。


【茶髪の少女】―「これ、食べてもいいのかしら」


【 青年  】―「ちょっと待って。手紙があるみたいだ」


青年は、テーブルの中央に置かれた手紙を手に取り、声に出して読みはじめた。


【 青年  】―「『諸君は、神の代理として選ばれた五人の使徒である。君たちは過去、この世界において偉業を成し遂げ、世界を救った。今一度、その力を神に託せ。


今から40日の後、ここから東にあるロードランという国において、王女と英雄との婚姻式が執り行われる。王女は神の使いであり、英雄もまた神に選ばれし者である。


そこである出来事が起き、王女は東へ巡礼の旅に出る。その目的は、東の地に眠る救い主を救うことである。


君たちは王女を助け、共に東の地へ向かへ。


君たちは記憶をなくし、清いからだとして生まれ変わった。その身を王女に捧げよ。


ここに君たちに名を与える。


赤い髪の者の名は”ロキ”である。


黄色い髪の者の名は”カイン”である。


黒い髪の者の名は”バッツ”である。


茶色い髪の者の名は”アル”である。


青い髪の者の名は”メーベル”である。』」


青年は手紙を折りたたむと、言った。


【 青年  】―「赤い髪?」


【黒髪の青年】―「お前のことだよ」


【 青年  】―「俺?」


青年はそう言い、前髪を手繰り寄せた。たしかにその前髪は、赤かった。


【 青年  】―「ふうん、俺の髪って赤いのか……ま、とりあえず食事にしよう」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


こうして、彼らは食事の席についた。ロキがパンを食べようと手を伸ばしたが、ふと気づくと、アルとメーベルの二人は、目を閉じて祈りを捧げていた。


【 ロキ 】―「君たちは信心深いんだね」


【メーベル】―「当然でしょ。神様が用意してくれた食事だもの」


【バッツ 】―「ほーん。女子共は敬虔だねえ」


バッツがそう言うと、メーベルは片目を開けて睨み返した。カインは、二人の祈る姿を見ると、手に持っていたパンを置いて、同じように手を組んで祈った。


【バッツ 】―「おいおいカイン、裏切るのかよ!」


【メーベル】―「いいのよ。食前の祈りを捧げるのは、当然のことなんだから」


【 ロキ 】―「そうだな、その通りだ」


ロキもそう言うと、歯型の付いたパンを置き、港一緒に両手を合わせて祈った。それを見て、バッツはすねて言った。


【バッツ 】―「ロキもかよ。あほらし!俺は神なんて信じてねえからな」


【メーベル】―「神様がいないなら、なんであんたはこの船に乗ってるの?一体誰がこの食事を用意したの?」


【バッツ 】―「別に神がいねえとは言ってねえだろ。信じてねえってだけだ」


【メーベル】―「何が違うのよ」


【バッツ 】―「俺は神はいるとは思ってるが、そいつはアホだと思ってる」


【メーベル】―「はあ?不敬罪よ!」


【バッツ 】―「不敬で結構コケコッコー!神様とかばっかじゃねぇの!死んじまえってーの!ぎゃはははは!」


メーベルは椅子に体を沈めると、机の下でバッツを蹴り飛ばした。


【バッツ 】―「いっってぇえええ!」


バッツがとびあがってスネを抑えている間に、メーベルはバッツの皿に手を伸ばした。そして皿ごと料理を取り上げて、こういった。


【メーベル】―「不信心者は食べんでよろしい」


【バッツ 】―「なんで前がそんなことお勝手に決めるんだよぉおお」


バッツはそう言って皿を掴み返すと、今度は二人の間で料理皿の引っ張り合いになった。


【 ロキ 】―「ははは。なんだか、にぎやかになりそうだな」


ロキはそう言って笑った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



そうして食事は終わり、テーブルには食べ終えた皿が残された。


【 ロキ 】―「さて、皿はどう片付けよう」


【メーベル】―「海水で洗いましょう。でも今日は暗くて危ないから、明日にしましょう」


【 ロキ 】―「そうだな」


そうして、五人は目が覚めた野ざらしの甲板に戻っていった。


【メーベル】―「こっちから半分は女子のエリアだから。絶対に入らないでね」


メーベルはそう言って床を指さし、バッツにを睨みつけた。


【バッツ 】―「へいへい。ま、どうせ性欲もねーしな」


バッツはそう言うと、硬い床に寝転がった。ロキもそれに習い、床に横になった。そうして、いつしか眠りに落ちていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



目を覚ますと、いつの間にか朝が来ていた。海には濃い霧が出ており、その濃さは、すぐそばにあるマストの頂点が白く霞むほどだった。


ロキが体を起こすと、メーベルがなにやら船尾を睨みつけていた。ロキは何かあるのかと思い目線の先を追ったが、船室の影に隠れて変なのものは何も見えなかった。

しかし、そうしてしばらく待っていると、なにかが水を叩く音が聞こえてきた。それは細い液体が、勢いよく水に流れ込むような音だった。

誰かが船尾で小便をしているのだ。ロキは、なんとなくそれがバッツだろうと思った。彼が周りを見回すと、すぐそばでカインが寝ているのを見つけたので、音の主はやはりバッツなのだろう。


長い小便の音がやむと、メーベルは深いため息をついた。それを見てロキは言った。


【 ロキ 】―「別に小便ぐらいしょうがなくないか?」


彼女はむっとした表情で答えた。


【メーベル】―「いま、私は顔洗おうとしてたところなのよ」


そう言って、彼女は両手で水を掬おうと船べりから身をかがめた。しかし、次の瞬間、今度は小便よりも遥かに不快な音が船尾から聞こえてきて、メーベルは顔を引きつらせた。


【メーベル】―「ちょっと……まさか……(゜ロ゜;)」


彼女の声が聞こえたのか、船尾から大きな叫び声が聞こえてきた。

 

【バッツ】―「⊂( ゜∀゜ )⊃フハハハハハハハハハハ!


肛門よりも臭きもの!(#°Д°)o 血便よりも熱きもの!(#`Д´)o


大腸の中に埋もれし( `皿´)つ 偉大なるうんちの名においてヽ(`Д´)ノ


我ここに腹に誓わん ( ̄^ ̄)ゞ 我等が肛門に立ち塞がりし( ゜Д゜)و すべての愚かなるクソに( `ロ´)ノ⋅∴


我とうんちが力もて、等しく脱糞を与えんことを⊂(`Д´)⊃


ヾ(ಠ益ಠ)ノ゛ヾ(ಠ益ಠ)ノ゛ヾ(ಠ益ಠ)ノ゛下痢便スレイブ!!!!!!!!」


(ブリブリブリブリュリュリュリュリュリュ!!!!!!ブツチチブブブチチチチブリリイリブブブブゥゥゥゥッッッ!!!!!!!)


【メーベル】―「ヽヽ(iДi)ノノちょっとおおおおおおおおおお!!!!!(((*ノଳoଳ)ノ)ちょっとおおおおおおおおおお!!!!!」


メーベルは絶叫した。バッツがズボンを上げながら船尾から戻ってくると、メーベルはバッツに叫んだ。


【メーベル】―「(T0)あんた!最っ低の最っ低の最っ低よ!」


【バッツ 】―「はあ?別にうんこぐらいだれでもすっだろ。逆に訊くけど、お前はこれから四十日の船旅で一回もうんこしないつもりか?」


【メーベル】―「 (´д`。)そうはいわないけどさ~。ていうかあなた、ちゃんとおしり拭いたの?」


【バッツ 】―「拭きましたけど?」


【メーベル】―「どうやって?」


【バッツ 】―「普通に濡らした手でこすりおとしたけど?」


【メーベル】―「ヾ(≧д≦ヾ)まじで汚い!絶対その手で私に触らないでね」


【バッツ 】―「別に汚くねえよ。うんこなんか水で簡単にきれいサッパリ落ちるぜ。( ͡° ౪ ͡°)ぺろぺろぺろぺろ」


バッツが手のひらを舐めだすと、メーベルは嗚咽をあげながら絶叫した。


【メーベル】―「(꒪ཫ꒪; )うぉええええええええええ!!!!!(っ´༎ຶД༎ຶ)っきたなぁああああああ!!!!! 」


【 アル 】―「ねえ、うるさいよ(´Д`)」


アルが不機嫌な声を出しながら起き上がった。メーベルはそれを聞いて、あわてて猫なで声になった。


【メーベル】―「あら、アルちゃん起こしちゃった?ごめんなさいね」


【 アル 】―「もおお」


アルは、まるで寝起きの子どものように不機嫌に、顰め面で目をこすっていた。すると、同様にいつの間にか起きていたカインが、提案した。


【カイン 】―「なんかいい匂いがするね。朝にしようか」


彼に言われて、船室から香ばしい香りが漂っているのに気付いた。彼らは、早速食事に向かった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



船室に入ると、彼らの目に飛び込んできたのは、テーブルの上に並べられた豪華な肉料理だった。肉汁が溢れる子羊の骨付き肉が、赤いソースの下で、熱々の湯気を立てていた。


【バッツ 】―「おお肉!肉だ!」


バッツは目を輝かせると、さっそく椅子にガタンと座った。


【 ロキ 】―「子羊の肉みたいだな」


バッツはアルにニヤけた視線を送り、言った。


【バッツ 】―「( ̄ー ̄)おいアル、お前共食いになっちゃうぜ」


【メーベル】―「( `ロ´)やめなさい、馬鹿なこというのは」


メーベルがバッツを睨みながら言った。バッツは肩をすくめて、面倒くさそうに言った。


【バッツ 】―「別にちょっとふざけていっただけだろ」


【 アル 】―「メーベル、わたし、別に気にしてないよ」


アルにそう言われても、メーベルのいらだちは収まらなかった。


【メーベル】―「( ◜◡◝ )んもー、アルったら優しい子なんだから……(`・ω・´)バッツ、あんた浮つきすぎじゃないの。わたしたちは、神に選ばれた人間なのよ。もっと自覚を……」


【 ロキ 】―「なあ、また手紙があるみたいだ」


ロキが遮ると、みな会話を止めてロキを見た。彼は机の手紙を取り、読み始めた。


【 ロキ 】―「『諸君に告ぐ。


この航海のすべては神により予定されている。


消して進路を変えてはいけない。


誰も乗せてはいけない。


誰も降りてはいけない。


君たちが使徒であると、誰にも告げてはならない』」


ロキが紙を折りたたむと、バッツは言った。


【バッツ 】―「それだけ?」


【 ロキ 】―「ああ」


【バッツ 】―「……予定ねえ。なんか昔よく聞いた言葉な気がするなあ。どうもその、神官だのが言う『予定』ってのが気に入らないんだよなあ。おれがいま頭の中で考えることすら、あらかじめ決まってるつうんだから。どうにも信じらんねえ」


バッツはそう言いながら、肉のそげた羊の骨を指でくるくると回すと、皿に放り投げた。メーベルは反論した。


【メーベル】―「あなたが神を疑うことすら、全ては決まっていることよ」


バッツは顎を引いてメーベルに問いかけた。


【バッツ 】―「なんでもかんでも決まってるっつうんなら、なんでわざわざこんな手紙出して注意する必要があるんだ?」


【メーベル】―「神の意図は量るべきではないし、人間に量ることもできない」


その返答に、バッツは口角を上げて、皮肉な調子で訊ねた。


【バッツ 】―「けっ。いかにも神官様のいいそうなこったな。おれは自分が自分の意志で物事を考えてるってことぐらい分かるんだよ。どっかの神様の奴隷さんとはちがってね


【メーベル】―「そんなにもの考えてるなら、もっと分別をわきまえた言動をなさい」


【バッツ 】―「あ~あ。この手の人間ってああ言えばこう言うんだよなー。ま、神様が食事も用意して船の操縦もしてくれるってんなら、楽でいいけどね」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



彼らが食事を終えて甲板に出ると、すっかり朝もやの霧は晴れていた。彼らは各々甲板に腰を下ろし、のんびりとくつろいだ。青い空と広い海が無限に広がるなか、やさしいそよ風に吹かれて、船はゆっくりと進んでいった。


バッツはそのうちに退屈しだし、大きなため息をついた。


【バッツ 】―「ああ、暇だな……釣りでもすっかね」


バッツがそう言うと、ロキは訊ねた。


【 ロキ 】―「釣り?道具はどうするんだよ」


バッツはにやりと笑うと、ポケットから一本の骨とスプーンを取り出した。それは、先程食べた羊肉の骨だった。彼はそれを、スプーンで削り始めた。


【メーベル】―「釣りって、釣った魚は食べるつもり?食事は神様が用意してくれてるわ」


【バッツ 】―「別に嫌なら、お前は食べなくてもいいんだぜ?」


【メーベル】―「無駄な殺生はやめるべきよ」


【バッツ 】―「別にいいだろ魚ぐらい。魚の命は人命より軽い!」


【メーベル】―「あんたって本当に軽薄な人間ね」


メーベルが心底軽蔑した声音で言ったが、バツはかまわず手元に集中した。そして、ついに釣り針を完成させた


【バッツ 】―「完成~!どうよアルちゃん、お友達の骨でできた釣り針は」


【メーベル】―「バッツ、いい加減になさい」


メーベルが怒ったが、アルは微笑んでこう言った。


【 アル 】―「メーベル、いいよ別に。だって私、自分が羊だっていわれても、よくわかんないし」


【カイン 】―「じゃあ、海面を覗いてみたら?僕もさっき顔洗ったときに、自分の顔がどんな風なのか見たよ」


【 アル 】―「ふうん……」


アルは船べりから海面を覗き込んだ。青く透き通る海には、くしゃくしゃな茶色の髪と、突き出た白い巻き角が映っていた。彼女は指先でその角を触っていたが、別に思うところもないのか、すぐに海の水をすくって顔を洗い出した。


メーベルも、アルに習って顔を洗おうとして、ふと手を止めた。


【メーベル】―「さっきのウンチ微粒子とか、ここまで流れてないよね……」


【 ロキ 】―「そんなこと、気にしてもしょうがないだろ」


ロキは笑った。メーベルは諦めて顔を洗い始めた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




そうしてメーベルが顔を洗い終わった時、船のマストの方から、なにやら嫌な音が聞こえてきた。


(ビリビリビリビリビリビリ……)


メーベルが振り向くと、バッツがマストの下にかがみ込み、帆の横糸を引っ張って、糸を一本ほどいていた。


【メーベル】―「(゜ロ゜;)ちょっと!あなたなにやってるの!」


【バッツ 】―「え?だめか」


【メーベル】―「(´д`;)だめにきまってるでしょ、頭おかしいんじゃないの……それは、神様が用意してくれた帆なのよ」


【バッツ 】―「でも、他に糸の材料見当たんねーし」


【 ロキ 】―「いやいや、ほしけりゃ自分の服の糸解いて作れって」


【バッツ 】―「カンバスじゃないと強度たんねーんだよ。いいじゃねーかもう切っちゃったし」


そういって、彼は糸をぷつんと帆から引きちぎると、釣り針にひもを結わえ付けた。


【バッツ 】―「文句ばっか言ってっと食わせてあげねーよ」


そういって、バッツは奥歯の歯くそをほじって針につけると、海に放り込んだ


【メーベル】―「=͟͟͞͞(꒪ᗜ꒪ ‧̣̥̇)汚なっ!……そもそもこんな沖合に、魚なんているのかしら」


【バッツ 】―「さっき俺が撒き餌まいたろ」


【メーベル】―「撒き餌……?っまさか、さっきのウンチのこと?」


【バッツ 】―「そーだけど?」


【メーベル】―「(・∀・; )うわ……ドン引き……じゃあその魚って、あんたのうんち食べてるってことじゃん」


【バッツ 】―「大丈夫ダイジョブ。栄養たっぷりの野菜みたいなもんだ」


【メーベル】―「魚は野菜じゃないし。あたし、絶対にあなたの釣った魚たべないから」


【バッツ 】―「だからお前は食わなくていいっての……おお!きたきたきた」


クンクンとした生きのいい魚の小気味いい引きが、釣り糸を引いた。バッツは立ち上がると、腕を上下させたて糸を手繰り寄せた。そうして腰をかがめてタメをつくると、海面から一気に魚をごぼう抜きにした。

魚は宙を飛び、甲板に叩きつけられ、ピチピチと跳ね回った。


【バッツ 】―「おおお、カマスの仲間かな?随分と凶暴な口してらぁ」


バッツはそういうと、魚の尾を握り、船べりに頭から叩きつけた。


【メーベル】―「ちょっと!かわいそうじゃない」


【バッツ 】―「いいんだよ、無駄に苦しませるより即死させた方が本人も楽なんだ。さて、切るもの切るものっと……」


バッツはそう言うと、船室に戻っていった。メーベルたちが船室を見ていると、しばらくして、パリーン、というなにかがが割れる音が聞こえた。


バッツは、その手に割れた皿を持って帰ってきた。


【メーベル】―「( º言º)ちょっとおおおおお!何やってるのよおおおおおお」


【バッツ 】―「いいだろ別に。臨機応変ってやつだ」


【メーベル】―「 (ꐦ°᷄д°᷅)あんたバカなのぉぉおおおおおお!!!???」


バッツは、気にせず魚をさばき始めた。メーベルは、隣に立ってガミガミと叱りつけていた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



それからの日々は、いろいろな出来事があった。


あるときは、船を飲み込むほどの大きなサメに追いかけられた。二列に並んだ鏃のような歯で船尾を噛み砕かれた時は、もう自分たちは終わりだと思った。今でも、その巨大な歯型は船尾の横木にがっつりと残っている。


【メーベル】―「あんたがウンチなんか垂れ流すから、サメがよってくんでしょーが!」


サメが去って後、メーベルがこう叫ぶと、バッツは言い換えした。


【バッツ 】―「っせえな。じゃあメーベルさんは、うんこどーしてるんですかー」


【メーベル】―「わたし……?はあ?わたし?なんでわたしがあんたにそんなこと話さなきゃならないの?……」


メーベルは目をパチクリさせ、段々と小声になりながら言った。それ以来、彼女がこの話題を持ち出すことはなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あるときは島の近くを通り、カジキ追い漁師たちと会話した。彼らは巡礼に行くのだと言うと、その日一番の大物のカジキマグロを与えてくれた。


バッツは船べりを海水で濡らし、塩を作った。そうして、彼はカジキをさばくと、塩をふりかけて刺し身をたらふく堪能した。骨と内臓はそのまま海にぽいと捨てた。


すると、カジキの残り物を追って、再び船尾からサメの尾が現れた。彼らは慌てて船室に逃げ込み、震えながらサメが去るのを待った。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あるときは夜の暗い海を、ウミガメの集団といっしょに渡った。オーロラに照らされた虹色の海は、まるで幻想の海のようだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



あるときは大きな大きな鯨と一緒に進んだ。島かと見紛うほどのおおきな鯨は、ロキたちが手を振ると、まるで赤道祭の花火のように、彼らのために何度も何度も高く噴水を打ち上げた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



船が進むにつれて、水平線に島が見えることが多くなった。ここは、もう大陸に近いのだろう。ある日などは、島の岸辺から100メートルも離れていない場所を通り過ぎた。船からは、そのどかに昼寝する牛たちの声すら聞こえた。

こうして、三十三日の航海日がすぎていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


そうして、航海から三十四日目の昼となった。風はなく、海は凪いでおり、あたかも鏡の上を滑るように船は進む。そうして走る船の行先に、やがて巨大な船の残骸が姿を現した。


【メーベル】―「……なんだか怪しげな船ね」


【バッツ】―「おお……」


バッツは、甲板に寝そべりながら、生返事をした。


メーベルは、陽に焼けてすっかり黒くなっていた。袖と襟首とはだけた腰に、日焼け跡の境界線が見える。無防備に肌をさらす美女を、バッツはハナクソをほじりながら堪能した。


バッツは、三日目の朝には性欲が戻っていた。その朝メーベルに体を揺すられて目を覚ますと、寝起きの股間はそそり立つマストのように天に向かって屹立していたのだ。バッツはもぞもぞと動きながらこっそりと股間を隠したのだが、どうやらメーベルは何も気づいていないようだった。

あとでこっそりロキとカインに聞いたが、二人ともいまだに性欲はないらしい。となると女子のふたりもそうなのだろうか。自分だけ神様を信じていないからこうなるのだろうか?もしかして、俺だけ神に見放された?

だがまあ、ぶっちゃけて神なんぞどうでもいい。重要なのは、いまこの瞬間に俺は美女の体を視姦し放題ということだ。ふとそよ風が吹くと、潮に混じって女の香りが漂ってきた。

それは、メーベルの白い肌から匂い立つ、ミルキーな香り。そのきめ細やかな肌は、舐めればほんのり甘いクリームの味がするに違いない。俺は彼女の赤い乳首を、舌の中で転がす。すると彼女の赤い唇から吐息が漏れ、肌がじんわりと熱くなり、そしてしっとりと汗に濡れる。俺は舌を胸から首に這わせ、唇を塞ぐ。すると彼女は唇を押し返してくる。固くなった乳首が俺の胸にこすれると、彼女は吐息を漏らし、口の端から唾液が溢れる。俺は興奮して、更に強く唇を押し付ける。歯と歯がぶつかり、かちんと音を立てる。

メーベルの全身は汗に濡れ、北方女特有の饐えたにおいが全身から匂い立つ。俺は顔を離し、彼女の顔を覗き込む。すると、その瞳は涙に潤んでいる。俺は、いいかと聞く。彼女は返事をしない。ただ顔をそむけ目をそらすだけだ。

彼女の両脚は、乙女らしくピタリと閉じられていた。俺は、腕を使ってその両足を強引に開く。割れ目から溢れた蜜が、開かれた両脚の間で糸を引いた。

俺はすかさず脚と脚の間に体を滑り込ませる。そして怒張した陰茎の鬼頭を、まずへそに押し当て、そして陰部にむかって這わせる。鬼頭が割れ目に触れた時、彼女は歯と歯の間から息を漏らした。やがて俺が入口を探し当て、鬼頭の半分を中に埋めた時、彼女は吐息を漏らし、顔を強くそむけ、その頬に一筋の涙が流れ落ちた。

俺は、強引に彼女に分け入る。痛みと、そして突き上げる快楽に、彼女は叫び声を上げる。彼女は突然恐怖を感じ、体を離そうと、俺を腕で叩き、もがいた。俺は彼女の細い腕を床に押さえつけ、上半身で彼女を押し潰す。メーベルはやめてと叫ぶ。俺は構わず、体を動かす。そして何度も何度も、彼女を突き上げる。やがて彼女の声音が淡い色に変わり初めた時、俺は上半身を離し、腰を強くつかむと、何度も、何度も、何度も、とめどなく腰を振った。

しとど濡れた愛液が卑猥な音を立てる。やがて彼女は背中を反らし、叫び声を上げた。

神様なんてどこにもいない。あるのは、穢れた血と溢れ出た快楽だけ。きっと俺達はそうなる。

ああ神様、俺はこの女を犯したい。メーベルに刺し込みたい。メーベルを俺のものにしたい。メーベルの中に入りたい……メーベルを快楽の虜にしたい。頬を流れるメーベルの涙を舌の先で舐め取りたい。メーベルと愛し合いたい。メーベルの中で爆発したい。俺は、この女を孕ませたい……


【メーベル】―「ねえ、あそこに宝箱がある」


とめどなく流れる妄想は、突如打ち切られた。バッツは前かがみになりながら立ち上がった。


【バッツ】―「おお、何があるって?」


【メーベル】―「宝箱よ。ほら、あそこ」


いつの間にか、小舟は漂流船の残骸の正面にいた。船は、木材が腐っているのか、やたらと黒い色をしていた。真っ二つに裂けた船体は、舳先が艫がそれぞれ明後日の方を向いていた。この船が、いまだ沈没していないことが不思議だった。

船の舷側は、一面白いフジツボに覆われていた。それは、この船が破壊されてから、相当な時間が立っていることを物語っている。にもかかわらず、この船は陸地も見えない大洋のど真ん中を漂っている……これは異様だった。

そして、その異様な船の傾いた甲板の上に、堂々と一つの宝箱がすえられていた。


【バッツ 】―「ほんとだ。宝箱だ。」


【カイン 】―「あんな露骨なのありえる?絶対になにかの罠でしょ」


【メーベル】―「これは、神様の試練に違いないわ。手紙にもあったでしょう、絶対に船を降りるなと。誘惑に負けて船を降りちゃだめよ」


【バッツ 】―「……なあ、一つ考えてたことがあるんだけどよ、俺等はロードランとかいう国についた後、どうやって飯食ってけばいいわけ?俺等って一文無しじゃん」


【 ロキ 】―「まあ、当面はこの船に寝泊まりすればいいんじゃないの」


【バッツ 】―「だけど俺達、靴も持ってねーだろ。この真夏の中、裸足で街を歩き回るのか?」


【メーベル】―「あーそれはきついかもね。わたしも、昨日床のささくれが刺さって痛かった」


【バッツ 】―「……よし、ちょっくら泳いで取ってくるわ」


【メーベル】―「やめなさいって。誰も降りてはいけないって手紙に……ちょっとバッツ!」


メーベルが言い終わる前に、バッツは海に飛び込んだ。

彼はあっというまに向こうの船まで泳ぐと、甲板に上がった。そして、ぺたぺたと床を水で濡らしながら宝箱まで歩いた。そして、宝箱を開けた。


【バッツ 】―「なんじゃこりゃあ?」


バッツは声を上げた。

宝箱の中に入っていたのは、ミイラ化したなにかの羽だった……。その一対の羽は、赤いビロードが敷かれた宝箱の底に、二枚広げて並べられていた。

バッツは最初、それがコウモリの骨だと思った。光に透かしたコウモリの羽の、細い腕に似ていたからだ。バッツはそれを二枚とも拾い上げた。

バッツが宝箱に背を向けると、仲間たちがみな、船の甲板に立ってバッツを見ていた。バッツは、宝箱の中身を小舟に向かってかざした。陽の光のもとで観察しても、やはりそれはコウモリの羽に見える。しかし、そんなものをわざわざ宝箱の中に入れるはずはない。

バッツはパンツの中に羽をしまうと、再び海の中に飛び込んだ。


再び元の船に向かって泳ぎだそうした時、彼はなにかの声を聞いた気がして、水面に顔を上げた。小舟を見ると、仲間が全員甲板に集まり、バッツに向かって大声で叫んでいた。

彼らの声は緊張感に満ちていた。バッツは、彼らが自分の後ろを指さしていることに気づき、後ろを振り返った。


そこには、黒い化け物が立っていた。

その黒い化け物は、大きな黄色の血走った目を持っていた。その身体は毛むくじゃらの黒い毛に覆われ、輪郭がよくわからない。ただ表情なくバッツを見つめる目だけが、化け物の狂気を物語っていた。

その化け物は、黒い棍棒を持っていた。化け物はその棍棒を振り上げた。そして、それをバッツの頭に振り下ろした。


【メーベル】―「バッツ!!!!」


メーベルが金切り声を上げて叫んだ。棍棒はバッツの脳天に直撃し、金槌に打たれた釘のように、バッツの体は海の中に沈み込んだ。


小舟は、静まり返った。みな、バッツは即死したと思った。化け物ですらもそう思った。


【バッツ 】―「いってーな」


バッツは顔をしかめながら、水中から浮かび上がった。棍棒は、頭蓋を粉々に砕くほどの勢いで振り下ろされたのに、バッツは、なにかげんこつでも打たれたかのように、頭頂部を掻いているだけだった。


【バッツ 】―「なにすんだテメエ」


バッツは、鉄の棍棒を握っている化け物を前に、堂々と船べりに上がった。そして、化け物の巨大な黄色い眼球から1インチの距離でメンチを切った。


化け物は無感情なのか、それとも驚愕に固まっているのか、傍目にはわからない。ただ悪魔はまるで無傷のバッツを前にして呆然と立ち尽くしていた。


次の瞬間、バッツは拳をふるった。


化け物は、デコピンで弾かれたカメムシのように空中を吹き飛び、壁に激突した。


【バッツ 】―「けっ。弱え」


バッツは頭をボリボリかきながら、悪魔に背を向け、再び小舟に向かって歩き出した。

ふと顔を上げると、仲間たちが、なにやら再びバッツに向かって叫んでいた。


バッツは後ろを振り返った。


そこには、百匹を超える黄色い目玉の化け物たちがいた。どこから湧き出したのかわからないそいつらは、まるでトンボの複眼のような無感情な黄色い双眸で、バッツを見ていた。

百匹の化け物は、いっせいに動き出した。


【バッツ 】―「やべっ!」


バッツは叫び、急いで水に飛び込んだ。悪魔たちはバッツを追って、次々と水に飛び込んだ。


バッツは水しぶきを上げ、凄まじい速度で泳いだ。息が上がり、筋繊維が疲労の声を上げる。それでもバッツは泳ぎ続けた。


バッツは船べりを掴み、素早く甲板に上がった。悪魔もすぐに追いすがり、同様に船べりに手をかける。


【メーベル】―「この化け物おおお!」


メーベルは棹を掴むと、化け物の頭に叩きつけた。しかし、女の力では、化け物はびくともしない。悪魔は、頭を叩かれるのも構わず船べりに足をかける。


【バッツ 】―「貸せ!」


バッツはメーベルから棹をひったくると、長さ3メートルはある棹を、まるで小枝であるかのように軽々と頭上に振りかぶり、そして勢いよく振り下ろした。


棹は化け物の脳天に直撃した。スイカが割れるような音が響き、化け物の脳髄が飛び散った。化け物は船べりから手を離し、ま海に沈んでいった。


バッツは何度も何度も棹を振り下ろし、次々と化け物を殺していった。そして、いつしか小舟は漂流船から離れ、化け物たちの姿は見えなくなった。


バッツはようやく棹を下ろした。バッツの凄まじい握力に潰されて、太い樫の棹の持ち手にその指が食い込んでいた。


【メーベル】―「あなた、すごく力強いのね……」


【バッツ 】―「ふっ、見直したか?」


【メーベル】―「まあ、ね……でも、あんたがそもそも不用意に飛び込まなきゃ、こんな危険なことになってないわ」


【バッツ 】―「(o´д`o)あ~わかったわかった」


【 ロキ 】―「それで、宝箱の中身は?」


バッツはパンツの中から羽を取り出した。宝箱の中で干からびていたそれは、今は水を吸ってぷっくりと膨れている。

バッツはロキにその羽根を差し出した。すると突然、バッツの手の中で、その羽が小魚のようにピチピチと跳ね出した。


【カイン 】―「うわあ、生きてる!」


【メーベル】―「ちょっとキモイキモイキモイ」


羽はどこかに飛び去ろうとその身を浮かせた。バッツはそれを、強引に掴んで離さない。


【メーベル】―「ちょっと!早く捨ててよ、そのキモイの!」


【バッツ 】―「いや待て待て、俺にいい考えがあるんだ」


バッツはそう言うと、奇怪な羽を握ったまま、船室に入っていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


バッツの言ういい考えとは、釣りだった。


コウモリの羽は、釣り針に串刺しにされて、海の中に放り込まれた。確かに、活餌にはちょうど良さそうだが、はたしてそんな奇怪なものを食べる魚がいるのだろうか


ロキがそう思っていると、早速魚がかかったようだった。


【バッツ 】―「お、きたぞきたぞ」


バッツはそういって、釣り糸を手繰り寄せる。ところが、針が外れたのか、急に抵抗がなくなった糸を、バッツは首を傾げながら回収する。


バッツは何かいるのかと海を覗き込む。すると、深海の仄暗い海の底から、なにか巨大なものが海面に浮かび上がってきた。


突如、そのものの全容が現れた。それは、全長三十メートルはあろうかという、大きな大きな深海魚だった。それは大口を開けて、船ごとロキたちを丸呑みにしようとした。


「ぎゃああああ」


五人は叫び声を上げ、逃げ惑った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌日も、船は凪の海を進んだ。


ロキがふと顔を上げると、進路の先の空を、黒い大きな積乱雲が埋め尽くしていた。


【 ロキ 】―「やばいな、嵐が来る」


ロキは水平線を見ながらそう言った。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



そうして、彼らは嵐に巻き込まれた。

黒雲が空を覆い、稲妻の雷鳴がとどろく。横薙ぎの雨が


【 ロキ 】―「この船、風で揺れないのはいいんだけど……うおえ」


【メーベル】―「そうね。きっと帆の魔法の力ね。右から風が吹けば左に押して、左から風が吹けば右に押して。まるで地球ゴマみたい……うおえ」


【バッツ 】―「ああ……さすが神様だぜ。だけど……うおえええ」


船は、確かに帆の力で横倒しになることはなかった。むしろ、船はどんな風を受けても、進路を東に向けたまままっすぐ直立していた。しかし……


【バッツ 】―「波の揺れはなんとかなんねえのおおおおおおおおおおおお!」


帆は、船を上下させる波の力までは減衰できない。嵐の大波に乗り上げてはしずみ、激しく揺れる。しかしそれは、自然な動きではなかった。体験したこともないその動きに、を無視した異様な上下運動の連続だ。そのせいか、ロキたちの船酔いはなおさらひどくなった。


そんなとき、メーベルが何かを叫んだ。


聞こえなかった。




こうして、夜が明け、ようやく海は凪いだ。使徒一行は、朝からゲロを吐いていた。


【 ロキ 】―「大丈夫?」


【メーベル】―「ええ」


ロキは彼女の背中を擦った。メーベルは五人の中でも特に船酔いがひどい。口の周りは吐瀉物で汚れ、体は脂汗でまみれ、正直臭かった。しかし、女子にそんなことは言えるはずもない。それに、匂いに関してはロキも人のことを言えた義理ではなかった。



「あれ!」


彼女の指の先を見た。すると、大きな波の合間に小舟を見つけた。


なっ……!赤ん坊が!」


「よっでゃ、ちょっくらいってくら!」


バッツはためらうことなく海に飛び込んだ。


「どんだけ英雄だよ……」ロキは言った。


彼は小舟にたどり着いた。そうして、舟を漕ごうとした。


船を振り向いた。彼らは、右の方角を指していた。


そちらを振り返った。すると、大きな波が来た


船は転覆した。


彼は子供を掴むと、水面にだし、立ち泳ぎしながら進んだ。

そうして、船に戻った。



「冷たい……」


メーベルは赤ん坊の体を触った。冷たさに驚いた。

彼女たちは船室に行くと、メーベルとあるは、ためらうことなくは上着を脱いだ。


彼女たちの白い裸身があらわになった。

上向きの乳首が


二人は、服で赤ん坊をくるむと、抱き寄せた



「俺達は出てるわ」


「いいよ別に」


しかし、男たちはかまうことなく甲板に出た。


彼らを濡らす嵐が、拭き続けていた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌朝。


子供は、死んでしまった


女たちは、子供をくるんだまま、死体を海に流した。


メーベルが手を合わせ低海苔をっ下げると、みあnそれに習った。


彼らは、しばらくそのまま海を眺めていた。


「神様、一体何をさせたかったんだろう」


メーベルがひとりごちた。


「おまえが言ってたことじゃんそんなことは考えてもしょうがないって」


俺の服着たら


そう言って、あバッツは服を差し出した


「ありがとう」


「じゃあ、僕も」


カインがは、あるのために服を貸した。それは、大きかった。腰をおおおうほど大きかった。



その日の航海は静かだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




ふと、メーベルが、沖合に何かを見た。


【メーベル】―「あれ、何かしら」


ロキが目線を沖に向けると、遠くに小さく船が浮かんでいた。


【 ロキ 】―「船だ」


小舟に人影はなかった。帆は畳まれ、左右のオールは投げ出されたまま海面に突き刺さっていた。船は抵抗なくただただ波間にゆっくりと揺られていた。


船は、潮の流れに乗せられ、だんだんと近づいてきた。ロキは立ち上がり、目を凝らした。そうして、ようやく船の内側が見えた。



小舟の中には、血にまみれた二人の兵士が倒れていた。


兵士のうち一人は死んでいた。彼は頸部を切断され、その傷口から赤い肉が覗いていた。彼は船べりに、身動きせずに横たわっていた。


もう一人の兵士は、生きていた。彼は僅かだが方を動かしていた。そして、虚脱した目で、ロキたちの船を見ていた。



【バッツ 】―「おっちゃん、大丈夫か」


バッツは船に飛び移ると、兵士のもとにかがみ込んだ。


兵士の甲冑の胸甲には穴が空き、その穴から流れたであろうおびただしい量の血が船底に血溜まりを作っていた。鎖帷子は固まった血で赤黒く染まり、その細かい目は血で塞がっていた。


彼の右足は切断され、膝から下がなかった。血にまみれた膝には、皮のベルトがきつく巻き付けられていた。


ロキは上着を脱ぎ、殻の傷口にを覆った。



兵士は何かを喋ろうとし口を動かした。ロキは兵のそばにかがみ、男の口元に耳を寄せた。冷たい潮風の中に、ロキは男の温い息を感じた。兵士は口を開いた。


【 兵士 】―「悪魔の襲撃だ……。船が悪魔どもに襲われた」


兵士はそこまで言うと苦痛に顔を歪ませ、肩で息をあえいだ。


【バッツ 】―「船?おっちゃんはどこの国の兵士だ?」


【 兵士 】―「俺達はローゼンハイムの西海艦隊だ。警らについていた。裏切りに遭い全滅した。いいか、人間の裏切りの者がいる


【 兵士 】―「わたしを、いますぐ王のところまで連れて行ってくれ。私の名は、ハンス・ユーベルトだ。王城の中に、裏切り者がいるのだ」


【バッツ 】―「誰だ、その裏切り者ってのは」


【 兵士 】―「それは言えない……王にしか話せない事情がある」


【バッツ 】―「俺達は、絶対に他に漏らしたりしない。言ってくれ」


【 兵士 】―「だめだ。君たちでは殺される」


【バッツ 】―「構わねよ。言えって」


【 兵士 】―「できない……遺書を頼む」


【 ロキ 】―「わかった。誰に渡せばいい?」


しかし、ハンスは返事をせず、目を閉じ苦しく呼吸するだけだった。


【 ロキ 】―「読むぞ。『我、若年より皇軍の栄光に仕え一片の悔いなし。しかし壮年にて故郷に残せし母を思う。我の僅かな蓄え是非母に贈り給え』」


遺書を折りたたむと、バッツは遺書を胸にしまった。


ハンスの呼吸は荒くなった。もう長くはないだろう。そのとき、アルがあることに気づいた。


【 アル 】―「ねえ、右脚に蛆が湧いてる」


【メーベル】―「触らないで!蛆は傷口をきれいにしてくれるわ」


【 ロキ 】―「蛆が湧いてるってことは、ハエがそもそも船にいたか、それとも陸が近くにあるかだな」


【バッツ 】―「よっしゃ。マストに登ってみら」


バッツは、あっという間にマストの頂上に立つと、水平線を指さして叫んだ。


【バッツ 】―「あったぞ!島だ!」


ロキは立ち上がった。バッツの指差す方をみると、確かに霧の向こうに、島が見えた。

それは、けっして小さな島ではなかった。島は山なりに高く、丘を埋める一面の緑が見えた。霧ががかった山の頂上は、かなり高くにあり今は見えない。

丘の麓に、橙色の屋根をした町並みが見えた。それは、ざっと見た感じでは、人口二百人はいる村だろう。おそらくあそこならば、神官もいるはずだ。


【バッツ 】―「あの島に行こう」


【メーベル】―「だめよ、進路を変えちゃ。手紙にそう書いてあったでしょう」


【バッツ 】―「でも、このおっさんを助けねえと」


【メーベル】―「だめよ。全ては神様がお定めになったことよ」


【バッツ 】―「はあ?じゃあこのままこのおっちゃんを死なせろってことかよ」



バッツは舌打ちし、棹を手に取ろうとするが、メーベルに遮られる。


【メーベル】―「やめて。神様の言葉に背かないで」


【バッツ 】―「何いってんだオメェ!じゃあなんでここに棹があるんだよ」


【メーベル】―「それは、神様を試すなということだと思う」


【バッツ 】―「わけがわからねえこといいやがって。もういい、黙ってみてろ」


バッツは助走をつけて、船べりを飛び越え、海に飛び込んだ。


そして、あっという間に海を泳ぎきり、向こうの船に乗り込んだ。



バッツはそう言うと、皆を見回して言った。


【バッツ 】―「多数決を取ろうぜ」


【メーベル】―「そんな世俗的な方法じゃだめよ。神様の言葉に従いなさい」


【バッツ 】―「神様神様うっせえなあ。神様はこのおっさん助けてくれんのか?死んでもいいのかよ!」


【 ロキ 】―「カインはどう思う?」


【カイン 】―「僕は助けたい。人を助けるのは当然じゃないかな。それに、このままこの人を死なせたら、王城の裏切り者っていうのがだれか永遠にわからなくなる」


【メーベル】―「私は反対よ。神を試すことはできない」


【 アル 】―「わたしも、メーベルとおなじ意見。そのまま船を走らせたほうがいいと思う」


【バッツ 】―「はあ?お前ら、女なのに冷たくないか?」


【カイン 】―「……ロキはどう思うの?」


【 ロキ 】―「俺は助けるべきだと思う」


【メーベル】―「なぜ?」


【 ロキ 】―「人としてそうすべきだから」


【バッツ 】―「三対二だぜ。どうするよ」


【メーベル】―「……わかったわ。助けましょう」


【バッツ 】―「アルもそれでいいな?」


バッツの言葉に、アルはコクリと頷いた。


【 ロキ 】―「よし、じゃあ、あの島に向かおう」


こうして、彼らは帆をたたみ、島に向かって船を漕ぎ出した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


こうして、彼らは島の教会にハンスを運んだ。


ハンスは、神官の手当を受けた後、眠りについた。今は、ベッドの上で安らかな呼吸をたてている。


【 ロキ 】―「この人は、いつ頃目覚めますか?」


【 神官 】―「当面は目を覚ますことはないでしょう」


【バッツ 】―「でも、命は助かったんだよな」


【 神官 】―「それは、私が保証しましょう」


【バッツ 】―「そうか……」


こうして彼らは夜中のうちに船に乗り、また旅立っていった。



神官様、先程の魔法と杖をください


いいでしょう




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


翌日の朝、目を覚ますと、眼の前に軍艦の舷があった。


軍人が、上から見下ろしていた。


彼らが、小舟に乗って近づいてきたので、ロキは言った。


【 ロキ 】―「俺が話しをする」


【 軍人 】―「わたしたちは、ローゼンハイムを警らしている。警らのためだ。中を見せてもおう」


【 ロキ 】―「どうぞ」


【 軍人 】―「お前たちは、何しに来た」


【 ロキ 】―「巡礼のたびに同行するため、やってきました」


【 軍人 】―「


【 ロキ 】―「


【 軍人 】―「


【 ロキ 】―「


【 軍人 】―「



【 軍人 】―「なにもありません」


【 軍人 】―「何もか」


【 軍人 】―「ええ、武器ひとつ」


【 軍人 】―「そうか。強力ご苦労。仲間が行方不明になった。心当たりはないか


【 ロキ 】―「遭難者をみました。ハンスユーゲルト」


【 軍人 】―「なんだと!ハンスはいまどこに!」


【 ロキ 】―「は。サラトガという島にて、治療を受けています」


【 軍人 】―「サラトガ……すぐ近くではないか。ありがとう。恩に着るよ」


【 ロキ 】―「ハンスさんいわく、王城のなかに裏切り者がいると、


【 軍人 】―「なんだと!誰だ」


【 ロキ 】―「それが、名前を挙げることを拒否されました。知ったら危険に巻き込まれるとのことでした……」



【 軍医jん 】―「……そうか……わかった。協力感謝する」



【 ロキ 】―「



【メーベル】―「あの、ひとつよろしいでしょうか。この軍艦に神官様はおられますか」


【 軍人 】―「ああ。当然だ。どんな軍艦にも神官は乗っている。それがどうした」


【メーベル】―「……いえ」


言い終わったのをみると、彼は軍艦に乗り込み、去っていった。その背中を見ながら、メーベルは言った。



【メーベル】―「やっぱり、

助けるべきじゃなかった」


【 ロキ 】―「そんなこと、いまさら言ってもしょうがないだろ」


【メーベル】―「なにか方法があったと思う。例えば、神官様にもこの船に乗ってもらって、ハンスさんを一緒に連れて行くとか」


【 ロキ 】―「そんなこと考えたってしょうがないよ」



【メーベル】―「ううん私は考えることをやめないわ。なにかそういうことを託されてるんだと思おう。」


【メーベル】―「わたしたちって、記憶がないのに全然性格違うじゃないそのことに意味があると思うの」


【 ロキ 】―「ああ、たしかに」






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「なあ、ロキ、ちょっとっときてくれるか」

「ああ」


部屋にやってくる

みんな立ち尽くしている


食事がない



「。…えええ!?・・・」」







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それから、食事のない日が3日続いた


彼らは甲板に倒れこみ、ひたすら時間が過ぎるのを待った。


みな、頬がコケていた


3日間なにも食べてない


もうだめぽ


そんなとき、



ふねが、勝手に港の中に入っていく。

港は祭りだった。


もう陸に上がって飯くおうぜ」

「でも、お金ないじゃない

「覚悟決めろ。食い逃げしかねえ」


「そんな」




「おにいちゃんだち、、今日は食べ放題よ」



みな顔を見合わせた。そして、我先にと船から飛び降りた。


「いやああ」



こうして、彼らは自棄食いした


まずは水


そしてエール


そして、酒をたらふく飲んだ


アルはぐでんぐでんに酔っ払った、





ふぁっきゅーごッド


バッツが天に向かって叫んだ。


「いぇえええ

ふぁっきゅうううううゴーーッド」


メーベルもまたバッツに習って天に中指をたてた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――





そうして、船は、翌日に、。そして、ロキたちが目覚めてから四十日目、ついにロードランの都、ローゼンハイムへとたどり着いた。




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