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第9話 犬塚さんのこと



 

 「ドラ君!あっは~よ!!」

 「ああ犬塚さん、おはようございます。」

 「ドラ君は相変わらず冷たいね~。あーしのこともうちょっと丁寧に扱ってよ。」

 「ええそうですね。善処します。」

 

 冷たい態度を取るにしてもその温度をどのくらいで維持するか判断するのは難しい。

 冷たくし過ぎるとかえって逆に興味を惹かれたり、もしもの時に不利な扱い。いや、それ以前にいじめられて自主退学しなければならない事態になったらそれは最悪だ。


 折角のこの素晴らしい光景が広がっている1等席からの眺めをどうしてみすみす自ら捨てられるのだろうか?

 女子の社会は綺麗で美しい見た目をしているけど、触るとトゲで血を流してしまう薔薇のように脆くて儚い危険性をはらんでいる。

 私見だが、女子たちは団結力が高い。そしていざと言うときには結束して行動する。それは敵が近づいてきた時だ。

 

 ストーカや盗撮魔、窃盗犯のような危険な男の犯罪者から空気を乱したり輪を破壊する者たちに対しては脅威を感じて集団無視や直接的な行動(ようはイジメだ。)によって排除しようする傾向にある。

 内側に居れば天国だが、外に追いやられると地獄だ。これが女の子の社会だ。

 だけど、いやだからこそ美しいのだ。カメレオンのように何重にもある顔は男のように代わり映えのない、停滞的でつまらない物ではなく何重にも変化する、取り留めのない今と言う瞬間を映し出しているのだ。

 

 そんな何重にも変わる顔を持つ女の子と女の子がお互いを愛し合い、触れ合ってすべてが分かり合える少女たちの存在はどれにも代えがたい美しさを醸し出し、燦々と輝き続けるのだ。

 

 とまあ、長々と移しい百合と女の子の素晴らしさを語っていたが、本筋とずれてしまった。

 いけない いけない。閑話休題

 

 つまりは女の子の敵に成ってはいけない。かと言って、味方になってしまうのもいけない。

 その中間くらいという非常に難しい立ち位置に3年間ずっと立ち続けないといけないのだ。

 

これは本当に難しい。

敵や味方は簡単だ。仲良くしたリ、手伝ってあげたりすればいい。一方で悪くなるなら、嫌がるようなことをひたすらに続けたり、清潔感のない見た目に変えてみたり性格が悪そうなことをしとけばいいのだ。


だが、そのどちらでもない中間、全員と事務的なことだけ会話するような関係となると本当に難しいのだ。


仲良くしすぎてもいけないし、意地悪し過ぎてもいけない。それらを上手―く配合することでちょうどいい立ち位置を見つけないといけないのだ。


それを成し遂げるためにどれだけ苦労したことか……


挨拶はちゃんと返しても、深くなりそうな話題は「はい」か「うん」の2拓だけ。

これを1か月も続けておけば自然と周りから人は減って行った。その時ボクは努力と言うものはちゃんと実るんだなってことを改めて実感した。そんな訳で、今は敵もいなければ味方もいない、孤立無援の永世中立国の状態だ。


だが、そんなボクを犬塚さんだけはなぜか知らないけど、毎日構ってくる。


はっきり言ってしまうとウザい。


もちろん好き好んで孤立を求めていない人間は大多数だろう。そんな大多数の人間にとっては心のオアシスのように思える存在だろう。

しかし、ボクは違う。

 ほどほどの孤立を求めているのだ。

 

 だから、犬塚さんのような存在は迷惑だ。たまたま犬塚さんは誰からも好かれるような子だからよかったが、これで周りと馴染めかったからとかの理由で近づかれたら本当に困ったものだ。

 もし、そいつと仲の悪いグループとかがあればボクまで仲間にされて築き上げてきたこの地位を一気に失ってしまうかもしれない。それだけは何とか避けないと……

 

 頭の中でそんなことを考えていると、犬塚さんはもうとっくに別の女のところに行ってる。

 

「あ、そうだ犬塚さん!」

「うん?どうしたのドラ君?ドラ君から聞いてくるなんて珍しいこともあるんだね!!」


思い出したかのように犬塚さんに話しかけたら思いっきり食いつかれた。釣り竿の先の餌に掛かった魚でさえ、こんなに食いつくことは無いはずだ。


「今日、放課後用事ってある?」

「いや、特にないけど。――もしかして……」

「実は生徒会に誘われたんだけど、犬塚さんも一緒に来ない?」

「いやそこはデートに誘うところやないか~い!」


お笑いのツッコミのように手をどついた犬塚さんはボクの右下辺りから上目遣いでこっちを見てきた。


「なんでや!なんでここでデートに誘わんのや!甘い言葉で誘ってくれよ!」

「未来永劫ないだろうね。まあ、これも生徒会への見学デートってことにもできるかもね?w」


皮肉たっぷりな感じで言葉にすると犬塚さんは悔しそうに地面を蹴っていた。

変な関西弁を犬塚さんはしていたが、それはとりあえず無視しておくことにする。


「それにしても生徒会か……そう言えばドラ君、赤城会長の義妹になったらしいね。」

「……どこでそれを??」

「いや別に校内歩いていたら否応なしに聞こえてくるでしょ。それにドラ君の制服見たらね……どう?お姉様のスカートの履き心地は?」


どうやらそれほどまでに噂になっているらしい。ボクのことを指さしながら噂する人は結構いたがここまで広まっていたとは思わなかった。女子の噂のスピードはやっぱり怖いわ。


「にしてもドラ君が赤城会長の義妹になって、あーしのことを生徒会に誘うとか、明日は雪でも降るでしょ、絶対!!」

「気象予報だと、36度で晴らしいよ。」

「あ、そ。それは別として、ドラ君どうしてあーしのこと生徒会に誘ったの?」

「え、あ~。赤城会長のこと気になっている感じだった……から?」

「どうして疑問系!」


あわよくば赤城会長と犬塚さんが結ばれて欲しいという本当の狙いはさすがに話せない。

だから、これで取りあえずは騙しておこう。


「まあ、それにしてもやっぱり犬塚さんもエスのこと知ってるの?」

「うんもちろん!いい制度だよね。あーしはまだお姉ちゃん決まっていないけど、いつか作りたいな~。」

「まあきっといつか作れるよ。」

「……へぇ?珍しく優しいじゃん。」


ああ、だってボクが作ってあげるからね。

犬塚さんのお姉ちゃんを。


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