屋根裏部屋のオチョチョ
「意外に広いんだな」
うちの屋根裏部屋を初めて見たパパは、感動したようにそう言った。
怖がってないようだ。さすがは男だ。
あたしはビクビクしながらワープトンネルを潜り、眼前に現れたログハウスの中みたいなその空間を見渡した。明るい。窓がないのになんでこんなに明るいんだろう。
パパが言った。
「ここに……オチョチョがいるのか」
オチョチョの姿はもちろん何度も見たことがあった。
初めて見たのはたぶん8年前、あたしが九歳の時だ。ボール遊びをしていて、自分の家をふと見上げたら、屋根のすぐ下に三角の小さなガラス窓があって、中からオチョチョが笑顔で手を振ってた。
あんなへんなひょうたんみたいな動物、うちにいなかったよね? 首をひねりながら見ていると、オチョチョが手招きをした。ここにおいでということだ。
あたしは家に上がり、二階に上がったけど、三角の窓なんてなかった。天井裏に登れそうなところもない。
オチョチョが町の評判になったのはそれからだった。評判というよりは都市伝説かもしれない。
誰にでも見ることのできる都市伝説だった。目には見えるけど、誰もあそこへは行けない。
オチョチョが一体何なのかというのも話題となった。そのうち町レベルを飛び越えて、ネットで拡散され、テレビで取り上げられ、やがては地球中の多くの人が知るキャラとなった。
パパは語った。
「うちに屋根裏部屋はありません。私が設計した家なのです。あの三角窓はただの飾りで、壁につけられているものです。中に部屋はありません。あのひょうたんみたいなゆるキャラっぽい動物は、あるはずのない空間に現れて、そこから手を振っているんです。きっと何かの超常現象だ!」
あれから約8年、テレビの話題としては忘れ去られたけど、オチョチョは今でも窓から手を振っている。
テレビ局が予算をつぎ込んで調査をしたけど辿り着けなかった屋根裏部屋に、ナギタ博士のワープ航法理論を応用して、今、あたしとパパは遂に入り込むことができた!
「オチョチョ……?」
震える声であたしが名前を呼ぶと、オチョチョは気さくに手を振った。
左を振り向くとそこにダイヤの形の窓があって、そのむこうにある星空をバックに、とても遠いところから笑顔で手を振っていた。