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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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05-9.ガーナの覚悟は罪人を救う

 ……もしかしたら、マリー様が止めていたのかもしれないけど。


 一世紀前までは、その存在を確認されていた聖女を想う。


 帝国を良き方向へと導く為に神から遣わされた存在であると、崇められていた聖女は、何を考えていたのだろうか。


 ……兄さんだって傍にいたんだろうけど。


 兄は止めようとはしなかっただろう。


 それどころか、シャーロットの前に立ちふさがる障害物を喜々として取り除いていたことだろう。


 ……それでも、止まれなかったんだよね。


 今まで得て来た全てを捨て、何を得ようとしたのだろうか。


 何かを得ようとしたのだろう。


 それだけは、確信がある。


 ……きっと、シャーロットたちを止める為でもあったんだよね?


 間違えてしまった過去をやり直すことはできない。


 だけども、これから先の未来を変えることはできる。


 それを知っていたらからこそ、人間であることを捨ててしまったのではないだろうか。


 ガーナは、そう考えていた。


 それは、根拠のない確信だった。


「そうだね。バカみたいに強いから。周りは止められなかったんだろうね」


「ふふっ、かもしれないわねぇ。やっぱし、かわいそうよね」


 イザトの言葉に同意をする。


 人間の範囲を超えた実力を持つシャーロットは、他人からの助言を受ける機会は少なかったのだろう。


 帝国の存続に関わるような大きな事柄を、背負わされることもあっただろう。


 そして、それを平然とやってしまう。


 ……あの人は、ただのバカじゃないから。


 だからこそ、誰もが思うのだ。


 シャーロットを支えるのには、自分では役不足である。


 そう勝手に決めつけて、支える事を止めて崇め始める。


 その恩恵を受けようと考える。


 そのような人々に囲まれ、シャーロットは生きてきたのだろう。


 ……きっと、周りの思いを受け止めていたんだよね。


 根本にあるのは、己の欲望を満たすことであったとしても、他人の願いを意味もなく断るようなことはしないだろう。


「ねえ、ヴァーケルさん。シャーロットのことを、かわいそうだと思う理由を聞いても良いかな?」


 何もかも知っているかのように話すガーナに対して、イザトは、問いかけた。


 ……理由、ね。


 その言葉に少しだけ言葉を詰まらせた。


 直ぐに理由を話せない。


 ……あるわけないじゃない。だって、私は、何も知らない筈なのに。


 ここでようやく、気付いた。


「かわいそうな人だからよ」


 ガーナは、知るはずのないことを口にしていたこと、根拠のない確信を得ていたことにも気づいた。


 それは、本来ならば、あるはずのない記憶に基づいているのだと理解する。


 ……どうして。


 変わるつもりは無いだと、口にした。


 それは本心である。


「だって、仕方ないじゃない。シャーロットが泣きそうな顔をしてたんだもん」


 誰かに言い訳をしているつもりはなかった。


 ただ、偶然、視界に納めてしまった。


「本当はね。あんな奴、放っておけばいいってわかってるのよ」


 今にも、泣き出してしまいそうな顔をしたシャーロットの顔を見てしまった。


 その途端、身体が凍り付くのを感じた。


「だって、私にできることなんて限られているのだから! シャーロットに適うなんて思ってもいないしね」


 ……彼奴が、本当に強がってばかりだから。


 口から出て来る言葉は、棘のある言葉ばかりだった。


「でも、放っておけなかったのよ。あまりにも、かわいそうだったから」


 それは、素直になる方法を忘れてしまったからなのだということを、ガーナは知っている。


「それ以外では表現できないのよ」


 本音を口にする方法さえも忘れ、人間を捨てた自分自身を守る為の嘘しか話せなくなってしまったかのようにも見えた。


 ……レイン君も、気づいていないかもしれないから。


 それに気づくことが出来た人は、ガーナだけだったのかもしれない。


 ……本当は気づいてほしかったくせに。


「シャーロットは、本当に、バカだから」


 そう思うと心が痛む。


 身体中が凍り付く感覚を思い出す。


「きっと、誰よりもレイン君と一緒にいたいのは、シャーロットなのに」


 突き放す言動しか出来ないのだ。


 今までそうやって生きてきたから、その方法しか知らない。


 気付きながらも、見ていることしか出来なかった。


 何も関わりが無いのだと決め込んで、見て見ぬふりをしようとした。


「どうして、拒絶をするのか、私にはわからないのよ」


 ……でも、見て見ぬふりなんか、無理だよ。


 それすらも、出来なかった。


 心の奥底で泣いているだろうシャーロットの姿を想像すると、動かないままではいられなかった。


「でも、私になにかできるかもしれないでしょ?」


 なぜかは分からない。


 ただ、彼女が苦しんでいる姿を見ていたくはなかった。


 ……きっと、聖女様の記憶が私にあるってのも関係してるんだよね。


 マリーとシャーロットは、友人だったのかもしれない。


 ……そうだと思いたいだけかもしれないけど。


「強引に話し合いにさせるとか。シャーロットを頑張って説得するとか。私にしかできないことがあるかもしれないじゃない」


 このまま、目を反らし続ければ、後悔するだろう。


 偶然にも、ガーナには知る切欠があった。


「なにもせず、いられなかっただけなのよ」


 決定的な守る術は持たずとも、二人の仲を取り持つ事の出来る可能性を持っていた。それを知っているからこそ、ガーナは止まれない。


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