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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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05-7.ガーナの覚悟は罪人を救う

「僕は決まりに従うよ。でも、ヴァーケルさんは囚われないで」


 ……そんな顔で言われたら、これ以上、言えないじゃない。


 生きて欲しい。


 死ぬ運命を受け入れないで欲しい。


 抵抗して欲しい。


 ……どうして、そんなことを言うのよ。


 言いたいことは、たくさんあった。


 ……生きたいって、言ってよ。


 だけども、イザトはそれを望まないのだろう。


 ガーナは、これ以上は何も言えなかった。


「これから先も、僕はヴァーケルさんが始祖だろうと、裏切った聖女だろうとしても引かないよ」


 満足げに微笑むイザトの顔は、いつも浮かべている仮面のような笑顔とは違って見えた。


「避けないし、態度も変えない。君が記憶を取り戻して変わってしまってもね」


 十五歳にしては幼い笑顔だ。


「僕は君の友達だ」


 本当に幸せそうだった。


「だって、君がそう言ってくれたんだから」


 イザトは幸せな人生だったと胸を張って、死んでいけることだろう。


 友人に恵まれたと自信を持って言えるだろう。


 それだけで幸せだと感じてしまうほどに、過酷な人生だったのだろう。


「そうじゃないの。そうじゃないんだよ」


「どうして? 君は僕の友達なんだろう?」


「友達よ。大切な友達よ。でも、それは変わっていくのを簡単に受け入れるだけの友達じゃないわ」


 イザトには、何が見えているのだろうか。


 未来のことを知っているかのように話すのにもかかわらず、なにもかも、諦めてしまっているように見えてしまう。


「それじゃあ、だめなのよ」


 それをガーナは、首を振って否定した。


「友達がいけない道を進みそうになったら、止めるのが、本当の友達よ。受け入れるだけでは、だめなことだってあるの」


 【物語の台本】には、記憶を取り戻し、“聖女”の名を持つ始祖になることが決められている可能性を思う。


「私はね、変わらないわ」


 それは、帝国にとって、最善の道なのかもしれない。


 ……帝国の最善と、私の最善は違うもの。


 この国を思うのならば、始祖は必要なのかもしれない。


「あのね、イザト。始祖ってのはね、人間じゃないのよ」


 国として形を保っていく為には、過度とも言える防衛は必要であることを理解している。


「人間じゃない人たちが、人間の国を作ることなんて出来ないわ」


 ……だって、このまま行ったら、人間の国じゃなくなってしまうから。


 始祖たちは、人間を捨てている。


 それぞれの欲を満たす為だけに、始祖になる道を選んだ人間は、いずれ人間の国を亡ぼすだろう。


「兄さんもシャーロットも、イザトの育て親さんもね。どうして、始祖になる事を決めたのか知らないわよ」


 それが愛した国であったとしても変わらない。


 いずれ、帝国は滅びの道を歩むことになるだろう。


「人間を捨てる覚悟をしてまで、国だけを思って生きるようには思えないの」


 帝国の為だけに生きているのならば、人間を捨てる必要は無かっただろう。


 歴史に名を刻む多くの人々は、生まれ育った国々を思いながらも、人間として生を全うした。


 心から帝国を思うのならば、そうするだろう。


「だから、私は、記憶を取り戻すわ。でもねぇ、勘違いしないで。私は私のまま、記憶だけを取り戻すのよ」


 ……不老不死なんて、人間には成し得ないことだもの。


 永久の命を求めるはずがない。


 永久の命を帝国に捧げる覚悟は出来ない。


「人間を捨てるつもりなんか無いわ」


 それは、人間の国として成り立っていく為には大切なことなのかもしれない。


「どうして? 仕方がないことだよって、受け入れてあげられるよ?」


 イザトの言葉に対し、ガーナは首を左右に振った。


「私は変わるつもりなんかないのよ。だって、私は私だしね」


 ガーナは、宣言をした。


「人間として生まれて、人間として死ぬつもりよ」


 それは難しいことなのかもしれない。


 ガーナだけでは、どうしようもできないことかもしれない。


「私は聖女にはならないわ。絶対にね!」


 記憶は取り戻さなければ、いけないだろう。


 大切な人を守ろうと思うのならば、力を手に入れなければならない。


 その為には、記憶は必要となってくる。


「だからイザトも諦めないで。他の方法を探そうよ。私たちと一緒になって生きていく道を探すのよ!」


 ……記憶を取り戻したって、私は私よ。


 全てを失う覚悟はない。


 あるのは、思いを貫く覚悟だけだ。


「それにしても、記憶のことも知っていたのね」


「うん、まあね。シャーロットから君を支えてやって欲しいって言われてね」


「シャーロットが?」


 ガーナは、信じられないと言いたげな表情を作って見せた。


 ……他人を心配する感情があったの?


 何故だろう。


 他人を見下して嘲笑う顔しか想像することができない。


 心の底から笑っている顔を見た覚えがない。


 ……ううん。違うわね。


 まるで、シャーロットの本当の笑顔を見たことがあるようだった。


 その笑顔を知っているからこそ、偽物の仮面を被り、嘘を吐くシャーロットを救いたいと思ってしまうのだろうか。


 ……彼奴は、本当は笑いたいのよ。昔みたいに。


 夢で見た日々は、穏やかな記憶では無かった。


 それなのにも関わらず、ガーナは思う。


 穏やかな日々もあったはずだと信じて疑わない。


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