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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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05-3.ガーナの覚悟は罪人を救う

「僕も詳しい方法は知らないけどね。なんでも、魔力の質が違うだって。――始祖が生まれた時代の魔法使いや魔女は、僕たちから想像できない程に強力な魔力を持っていたんだってさ。心当たりはない?」


 イザトの言葉を聞き、ガーナは頭の中でイクシードたちの姿を描いた。


 ……確かに、兄さんならできそう。


 イクシードは完璧だ。


 ガーナにとっては理想的な兄だった。


 魔力に恵まれ、それを持て余すことなく使いこなす先天的な才能がある。


 ……シャーロットも、きっと、そうよね。


 その当時の魔力を引き継いでいるとは思えない。


 しかし、ありえないことを可能としてしまうのが魔法である。


「兄さんやシャーロットが、よくわからない魔法を使うのを見たことがあるわ」


 始祖を生み出す為には、多大な魔力が必要となるのだろうか。


 それとも、始祖に選ばれる為には、多大な魔力が必要なのだろうか。


 どちらにしても、ガーナには縁の無い条件である。


「普通じゃない人間だから、始祖になるんじゃないのかな。うん、そう言う意味だと異常かもしれないね。でも、それは、それで良いんじゃないかな」


 イザトの育て親であるアンジュは、二百年以上、その存在が確認されている。


 桜華人の名を持つ女性でありながらも、ライドローズ帝国の始祖として存在をしている彼女の出生は謎に包まれている。


 一世紀前に勃発した隣国、ヴァイス魔導連邦国との戦争の際、その姿は確認されていた


 ……普通じゃない人間だから、始祖になる?


 イザトの言葉は、的を射ているだろう。


 ……むしろ、始祖になったから、普通を捨てたんじゃないの?


 始祖という存在は、各国の軍事力に影響を与える。


 一人一人が強力な力を持っているからこそ、より強い始祖を、一人でも多く獲得しようと勃発した戦争も数多くある。


「でもねぇ。その、引かない……? 普通じゃない化け物なのよ?」


 始祖という存在があるからこそ、戦争が起きる。


 それは、人々にとっては災厄を引き起こす悪魔でもある。


 その実力と歴史故に崇められる始祖は、普通では無い。


 普通であってはいけない。


 ……普通じゃないのは、怖いもの。


 始祖になってしまえば、手にしてきた生活は崩れ去るだろう。


 ガーナは、それが怖かった。


 何よりも恐ろしかった。


「引いていたら、シャーロットと友人なんてやってないよ」


「うっ……。それを言われたら、そうだけど」


「気にしすぎは良くないよ」


 家柄良好、魔力は人と比べようもないほどに所持し、武術も優れている。


 容姿にいたっては、文句のつけようもない。


 あえて、短所を言うのならば、学習力が皆無なところと、強引に物事を進めていく性格であろうか。


 誰もが慕ってしまう魅力を持つシャーロットは、普通ではない。


 普通の人間とは、遠く離れた場所で血に塗れた生活をしているのだ。


「でも、シャーロットは特別じゃない」


 それがシャーロットなのだ。


 それを許される人なのだ。


「私とは違いすぎるのよね」


 そんな人が身近にいるのにも関わらず、今にいなって、ガーナがその始祖の一人である可能性に気付いたところで、態度を変える理由にはならなかった。


 それに気づきつつ、ガーナは納得ができなかった。


 簡単に受け入れられるような話ではない。


 それなのに、イザトは当然のように受け入れてしまっている。


「それに僕が引かないのは、ヴァーケルさんたちと同じだよ」


 イザトはガーナの心を読んだのだろうか。


「へ?」


 ガーナは間の抜けた声をあげた。


 想像もしていなかった言葉だった。


「君たちも、僕が貧困街出身だって知っても、態度を変えなかったでしょ?」


 去年、イザトの出生の秘密が広がってしまった。


 差別の対象である貧困街の出身だと知られた途端、多くの人が態度を変えた。


「農民のヴァーケルさんだけなら、まだしも。リンやミュースティさんは、身分が高いんだよ? しかも、僕たちを見下す立場で生まれ育ってるんだ。ナカガワさんはわからないけど。――それなのに、彼らは、僕のことを知って引いた?」


「そんなの引くわけないじゃないっ!! バカな事を言わないでよね!! 殴り飛ばすわよ! イザトは、私の大事な友達よ!」


 イザトの言葉に、反射的に声を上げた。


 古の時代より続く身分制度による差別は、堂々と行われるべき行為では無い。


 しかし、誰もそれを指摘する事は出来ない。


 指摘した者は、皆、同じ末路を辿るのを知っているのだ。


 帝国の意に反する罪人として、処刑台に送られる。


 例え、弱き者を救う為に立ち上がった正義であったとしても、その主張に耳を傾ける者などいないだろう。


「それに、それは私だけじゃないわ。リンも、ライラも、同じことを言うわよ」


「そうだね。あの時のリンは怖いくらいだったから」


「それはそうよ! 大事な友人がバカにされて笑っているような奴じゃないのよ、あいつはね!」


 もしも、イザトの出生が広まってしまった時に、彼を庇ったのがガーナだけであったのならば、この場に二人は居なかっただろう。


「うん。そうだね。僕はね、ヴァーケルさんの時も、二人は同じ態度をすると思っているんだよ」


 ライラたちが行動を起こさなければ、イザトは学園を追い出され、ガーナは帝国の意に反する罪人として捕えられ、処刑台に送られていただろう。


 それを回避できたのは、ライラたちの存在のおかげだった。


 ライラたちは態度を変えなかった。


 それどころか、イザトを庇うような行動を示したのだ。


 ……私たちは、あの二人に救われたのよ。それは、事実だもの。


 イザトを庇う者は、ガーナだけでは無かった。


 ……そう考えれば、単純だったんだわ。


 その事実で救われていたのだ。


 きっと、普通では無いと知ったからといって離れて行かないだろう。



「……それも、そうね!」


 ガーナは笑って見せた。



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