表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/195

05-2.ガーナの覚悟は罪人を救う

 胸が机に乗ったが、気にしない。


 ……私はどうして生きているの?


 今は、心の中に浮かんだ言葉を忘れたかった。


 ……違う。私は私よ。生きているのは当たり前のことじゃない。


 自分の存在理由を疑うような言葉は、恐ろしく感じた。


「イザトはさ、始祖が何をしてるか、知ってる?」


「もちろん、知ってるよ」


 イザトは迷うことなく答えた。


 なにも隠す必要ないのだと言わんばかりの返事に対し、ガーナは視線を机に落とす。


「怖くないの?」


「怖くないよ。だって、ヴァーケルさんは、僕の育て親が始祖だって言ったら、怖いと思う?」


「私の最愛の兄も始祖だもの。だから、怖くはないよ。敵にしたくはないけど」


「僕もそうだよ。だから、別にヴァーケルさんが気にする必要もないんじゃないかな」


 その言葉に、ガーナは肩を揺らした。


 ……嫌だねぇ。まるで、全部、知っているみたい。


 それから、どこまで気付いているんだと言いたげな目を向けた。


 相変わらず、穏やかな口調で話すイザトは笑みを浮かべている。


 今のガーナには、その笑顔を向けられることが、恐ろしく感じた。


 ……おおまかにしか知らないって言われてもね。


 身体が震える。


 得体の知らない恐怖を感じる。


 ……まるで、私が記憶を取り戻すのも知っていたみたいじゃないの。


 兄のように、なにも言わずに“その時”が来るまで見守っていたのだろうか。


 そうだとするのならば、何故、今になって【物語の台本】に触れる行為を犯したのか。ガーナがどのような反応をするのか、試すつもりだったのだろうか。


 見守っていたのならば、知っているはずだ。


 知っていたのに、黙っていたのだろうか。


 ……記憶なんて意味もないのに。


 育て親から【物語の台本】の存在を教えられていたのならば、【物語の台本】を覆す可能性を生み出す事の危険性を知っているはずだ。


「……気にするわよ。でもねぇ、それって、当たり前だとも思うのよね」


 小さな声で呟いた。


 身体の震えには気付かないふりをする。


「私は、三日前までどこにでもいる少女だったのよ?」


 僅かに震える声にも、気づかないふりをして、自身の髪に触れた。


「それなのに、急に、聖女様かもしれないなんて」


 その言葉は、他でもない自分自身に言い聞かせているのだろう。


「兄さんと同じだなんて言われても信じられるはずがないじゃない」


 落ち着きの無かった口調は、少しずつ、冷静さを取り戻す。


 それでも、身体の震えは収まらなかった。


「だって、それって、まともな生き方は、望めないなんて言われたのも同然なのに」


 記憶を保ったまま、転生を繰り返す。


 その命は全て帝国の為に捧げる。


「それなのに、気にしないでいられるわけないじゃないの」


 死による解放もなければ、永久の生が約束されたわけではない。


 必ず訪れる死の恐怖を受け入れ、再び、この世界に生を受ける。


 それは、終わりの無い地獄。永久に続く罰のようにも思える。


「イザトも分かるでしょ?」


 それは、身近で見て来たからこそ思うのだろう。


 ガーナには、始祖を崇める心を理解する事は出来ない。


「始祖は、本当は、いてはいけない存在なのよ」


 始祖となった彼らの生き方を知っているからこそ、異常なのだと、この世界には存在するべきでは無いのだと非難することが出来る。


「まともな生き方では無いのかもしれないね。でも、こればかりは、仕方ないんじゃないかな」


 イザトはガーナの言葉を否定した。


「彼らには彼らの言い分があるんだよ」


 まるで諦めているかのように見えた。


「僕の育て親は、始祖であることを誇りに思っているらしいしね。元々、何をしていたのかは聞いたことはないけど、始祖になることで全てが変わったんだって自慢していたよ」


 言い聞かされていた言葉を思い出しているのだろうか。


「そういう人だっているんだ。だから、不幸だなんて決めつけるのはいけないと思うよ?」


 イザトには始祖の生き方は理解できない。


 しかし、それを否定する資格はイザトにはなかった。


「でも、それは、人間であることを捨てたってことじゃないの? だとしたら、……例え、物凄く良い変化を迎えても、やっぱし、私は納得できないわ」


「ヴァーケルさんは、喜んで、聖女になるわけではないんだよね?」


「当たり前よ。だいたい聖女になる方法なんて、誰も分からないじゃない。始祖だってどうやって生まれたのかわからないのよ? そんなよくわからない存在にはなりたくないわ」


 ガーナの言葉に、イザトは頷いた。


 始祖が存在するのは、帝国だけでは無い。


 呼び方は異なるものの、似たような存在は世界中に存在するのだ。


 しかし、始祖について詳しい情報は誰も知らない。


 それは、国家機密として扱われているからだろうか。


 それとも、誰も知らないのだろうか。


「残念だけど、それは、違うよ」


 イザトは、その答えを知っていた。


 穏やかそうに微笑んだまま、たいしたことではないのだと言うかのように口にする。



「……知ってるの?」


「知ってるよ。でも、僕には出来ないね。いや、僕だけじゃない。現代の魔法使いや魔女にも出来やしないよ」


 育て親から聞かされた始祖に関する情報は、どれくらい正確なのかわからない。


 しかし、ガーナの不安を取り除くのならば提示するべきだろう。


「それ、どういうこと?」


 ガーナは理解できなかったのか。首を傾げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ