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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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04-4.呪われた双子の答え合わせ

 強い意思を宿したその眼は、輝いて見えた。


「知りたければ生きよ。生きて呪いを断ち切ってみせよ」


 その言葉こそが呪いのようだった。


「……呪い?」


 レインは思わず、聞き返す。


 それに対し、シャーロットは優しく微笑んだ。


「生まれながらの罪を背負った可愛い坊や。お前が生きていくために必要な呪いをかけてあげよう」


 シャーロットの言葉を聞くとともに、身体が重くなるのを感じた。


「きっと優しい坊やの為になるだろう」


 そして、そのまま、力が抜けていく。


「なにを、したのですか」


 首元から手を放し、そのまま、レインを支えるように抱きしめる。


 ……俺は、確かに、知っています。


 愛しい我が子を抱きしめる母のような温もりを感じ、抵抗が出来なくなる。


 ……昔、こうやって、母様から抱きしめられて……。


 レインは両親に抱きしめられたことはなかった。


 それなのにもかかわらず、シャーロットに抱きしめられたこの感覚を知っている。


 ……優しく、撫ぜられて……。


 それは、両親に愛されることを羨望し続けた原因のような気がした。


 レインの身体中に纏わりつくのは、複雑な文字で構成された黒い魔方陣だった。蛇のように身体を這っていく。


 それは、生きているように、動き回る。


 身体を蝕むように浸食していく。


 不思議なことに痛みはなかった。


「……“何れ、知るであろう”」


 シャーロットは魔術を口にする。


 現代の魔法とは異なり、言葉に魔力を乗せるだけの簡易的なものだった。


 それを自在に操り、シャーロットは強力な呪いを生み出す。


 目を閉じていくレインが見たのは、優しい笑みだった。


 ……俺を、見ているのですか……?


 なぜだろうか。


 その笑みを見ると安心してしまう。


「“お前が望むのならば、『母』は全てを肯定しよう”」


 その笑みを見ていた覚えがある。


 一度も見たことのないはずの笑みを見て、ようやく、この時が来たのだと実感する。


 なぜだろうか。


 魔方陣が身体を蝕んでいると理解しているのにもかかわらず、それを昔から望んでいたのだと感じてしまう。


 ……俺は貴女のその顔が見たかったのです。


 レインはこの時が来るのを待ち望んでいた。


 ……貴女に、もう一度、抱きしめてほしかったのです。


 その為だけに、必死にあがいてきたような気がする。


「“お前が望まぬのならば、『母』は全てを否定しよう”」


 それは神聖ライドローズ帝国時代の言葉だ。


 今では、限られた地方でしか使われていない言語なのにもかかわらず、レインには聞き覚えのある優しい言葉にしか聞こえなかった。


「“絶望か、希望か”」


 静かに流れる時に身を任せて、シャーロットに全てを預ける。


「“自由に捉えよ”」


 心音が聞こえる。


 今、この時を生きているのだと訴えるその音は心地よい。


「“自由に生きよ”」


 声を聞くと心が休まる。


 疲れが取れていく気がした。


 ……ああ、そうでした。


 薄れていく意識の中、思い出す。


 ……俺は、約束をしていたのです。


 思い出してしまう。


 ……貴女は、ただ、それを覚えていただけなのですね。


 深い水の中に溺れていくかのように、体が重くなっていく。


 それすら心地よく感じる。


 厳重に封印されていた扉が開かれる時を待っていたというかのように、不思議な安心感を得る。この感覚を知っている。


 ……そうです。ずっと、待っていたのです。


 このまま、眠ってしまいたい。


 穏やかな母の腕に包まれ、惰眠を貪り続けることが許されるのならば、世界は平和になるだろう。


 ……この時を待っていたのです。


 くだらないとわかっていながらも、そのような絵空事を考えてしまう。


 ……比べられているなんて、考える必要もなかったのですね。


 安心してしまう理由も、休まる理由も探す必要はなかった。


 なぜ、一人にしてはいけないと、思っていたのかも探す必要はなかった。


 全ての理由が納得のいく形に収まっていくのを感じた。


 答えは、最初からレインの中にあったのだ。


 ……やっぱり、俺は正しかったのですね。


 まるでこの時を待っていたのかのように、扉が開いたような気がした。


 真実を受け入れることを望むのを知っていたかのように、レインを包み込む。


 この日が訪れることを知っていたかのようだった。


 レインは何も抵抗をすることもなく、それを全て受け入れる。



 ――遠い昔、手放してしまった家族の絆を取り戻すかのように抱きしめる。



「かあ、さま……」


 自分自身を通して、他人を見ているなどと不快に思う必要はなかった。


「か、あ、さま」


 シャーロットが見ていたのは、数世紀前を生きていたレインの前世だった。


「やっと、会え、ましたね……」


 その前世を含め、シャーロットは今を生きるレインのことも見ていた。


 大切に思っているからこそ、レインを突き放していたこともわかってしまう。



「……可愛い坊や。なぜ、今の関係で満足をしなかった」


 シャーロットはレインを抱きしめる。


 それは、レインに前世の記憶を取り戻してほしくなかったからなのか。


 それとも、再び、母と呼んでもらえたことに安堵しているのか。


 どちらともつかない声で、シャーロットはレインの言葉を否定しなかった。


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