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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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04-3.呪われた双子の答え合わせ

 それはレインも知っているシャーロットの姿だ。


「いいえ、忘れられるはずがないでしょう」


 シャーロットの手は温かい。


 生きている人間の体温だった。


「貴女が俺を誰かと重ねるように、俺も貴女を重ねてみればいいだけの話です。そうすれば、必要以上に悩むことは無くなります。利用されるのならば、俺も利用するだけですよ」


 振り切ることが出来ないのならば、別の手段を探す。


「俺に利用されていればいいのですよ。シャーロット」


 それが、レインの出した答えだった。


「……おやおや、可愛い容姿して言うことは残酷ではないか。それでは、女子供は逃げるぞ? それとも、皇帝陛下が望む世に反した独裁政治でも望むか? それならば、私も喜んで力を貸そう。下らぬ平和に飽きたところだ」


 シャーロットの言葉に対し、レインは静かに首を横に振った。


「本当は、そういうことは好きではないのでしょう?」


 手を放す。離れていく体温を感じる。


 レインは口角を上げて笑みを繕った。


「俺は、貴女を利用します。だから、貴女も俺を理由にして構わないのですよ」


 それは、綺麗な笑みとはいえなかった。


 作り笑いであることが伝わってしまう笑い方だった。


 それでも、シャーロットには充分だった。


「……相変わらずなのだな。」


 その笑みを見て、懐かしむようにシャーロットは言う。


「私の可愛い坊やは、優しい子だ」


 誰かと重ねていることを否定せずに語る。


「優しくて、すぐに泣いてしまう気弱な子だ」


 その姿は、現実逃避をしているかのようにも見える。


「逃げてしまえばいいのに、坊やは化け物にも情けをかけるのだな」


 ここが現実ではなく、夢なのだと語り始めそうだった。


 夢に生きているかのような現実味のない表情を浮かべる。


 それなのにも幸せそうに笑った。


「坊や。常に誰かに肯定して貰いたがる可愛い子」


 安心したかのように笑った。


 レインはその表情を見たことがなかった。


「きっと良い傀儡となるだろう。父母に望まれた通りの道を歩み、姉に託された罪を知らぬ顔して被る。それを坊やは否定さえもしてはくれないのだろうな」


 記憶の中にあるのは、いつだって活発な笑みを浮かべる子どもの姿だ。


「それでいて、愚かな道を歩み、繰り返す。何度も罪を繰り返すだけの傀儡よ」


 それなのに、安心するのはなぜだろうか。


「可愛い坊や」


 シャーロットの視界にはレインがいる。


 しかし、レインではない誰かを見ているのだろう。


 ……誰かと重ねている事を認めさせたのは、成功ですね。


 この問いかけは、成功していたのだろう。


 ……それに、きっと、重ねているのは……。


 答えを心の中で導き出す。


 十年もの間、追い続けた事がようやく実を成した。


 それは、望んでいたことだろうか。


 ……これで引き留めることができるのならば。


 シャーロットは危ういところがある。


 目的の為ならば、どのようなことも犠牲にしてしまうだろう。


 その犠牲の中には、当然のように自分自身含まれているだろうということにレインは気づいていた。


「なにも知らぬままでいれば幸せになれただろう」


 喉を鳴らすような不気味な笑い声を上げながらも、笑みを浮かべていた。


「それなのに、どうして、その道を選ばなかったんだい?」


 シャーロットのその顔を見るだけで、この選択が正しかったのだと感じる。


 不可能なことを望むよりも、別の願いならば叶えることができるのかもしれない。


 ……リンならば、真っ直ぐに待ち続ける事が出来たでしょうか。


 同じ過去を抱えながらも、別の方法を探すだろう従弟を思う。


 仲が良いとは、お世辞でも言えない間柄になってしまったリンであるが、レインは、心の底から彼を嫌っているわけでは無かった。


 ……俺とは、違う道を進んだことでしょう。


 施された得体のしれない呪詛によって、生かされているのだと知りながらも、気付かぬふりをする。


 それでも、リンは過去に縋りつかなかった。


 ……彼奴は、その方が正しいと言うことでしょう。


 指摘してしまえば、なにかが変わってしまいそうだと気付いていた。


「冗談を本気ととらないくらいには、“らしく”なっているか」


 シャーロットは、笑う。


「つまらないが、それもまた一興」


 愉快そうに、バカにするように笑う。


「ならば、それに応じねば。応じてやらねば示しがつかぬ」


 その笑みを見ていると安心感を抱くのは、なぜだろうか。


 優しく肩に置かれた手に、一瞬だけ目線を向ける。


 それから、レインは、もう一度笑みを繕った。


 ……大丈夫です。覚悟は決めましたから。


 不気味なほどに似ていると言われ続けた片割れを見る。


 男女の双子でありながらも、鏡のようだと言われた二人は見つめ合う。


 ……俺だけはこの人を信じるのです。


 静かに、だけども、確実に流れている時に身を任せる。


「理由を知りたいといったな?」


 最後の確認のようだった。


「すべてを捨てる覚悟はできているだろう?」


 それに対して、レインは静かに頷いた。


「いいだろう。その覚悟に応えよう」


 それから、シャーロットは手を肩から首元へと移した。


 色白く細い首を絞めるような動作をするが、力は籠められておらず、レインは目を細めた。


 振り払えば、答えを知る機会は二度と来ない。


 それをわかっているからこそ、寒気が走るその行動を止めなかった。


 ……これでいいのです。


 視線が重なったまま、反らされない。シャーロットの瞳に映し出されるレインは、何かを決意しているような眼をしていた。


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