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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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04-2.呪われた双子の答え合わせ

「ありがとうございます。シャーロット。リンを助けてくれたことを感謝します」


 レインの言葉に、シャーロットは驚いたように目を見開いた。


 そして、それから楽しそうに笑う。


 まるで夢を見ているような虚ろな瞳には、確かにレインが映っていた。


 ……泣きそうな顔は似合わないですね。


 罪悪感からではない。


 この顔は失う恐怖に怯え、泣いていた幼い頃の自分自身と同じ顔だった。


 ……あぁ、ようやくわかりました。怖かっただけなのですね。


 本音を嘘で隠し続けていることに、本当は怯えていたのだろう。


 大切な人を失い続けた絶望の経験がシャーロットを強くした。


 しかし、シャーロットの心は傷だらけだった。


 それでも止まることは許されず、ただ、帝国の為だけに尽くしてきた。


 それに気づくと、途端に身近に感じられた。


「俺は貴女を認めます。貴女は、この世界に存在していても良いのだと肯定しましょう。泣くことを許しましょう」


 語り掛ける。


 それは、両親から習ってきたフリークス家の人間としては相応しくない姿勢だった。


 それでも、シャーロットに対してはこの態度が正しいのだろう。


「シャーロットが泣けないのならば、俺が代わりに泣きます。貴女が間違えれば俺がそれを指摘します。貴女が俺を守ってきてくれたように、俺だって守りたい。それが家族というものでしょう?」


 何故かは分からない。


 レインは、もう迷わなかった。


「だから、もう偽るのは終わりにしませんか?」


 そう告げると、シャーロットは笑い声を零した。


「は、ははっ」


 小さな、だけども穏やかな笑い声だった。


 意図せずに零れたその声は、シャーロット本来の笑い声なのだろうか。


 気品が溢れる。


 何故か、その笑い声を聞くと懐かしく感じる。


「ふふっ、そうか。“許し”を求めていたか」


 シャーロットは初めて聞いたと言わんばかりの声をあげる。


「私が、罪を受け入れずに苦しんでいるように、貴様の目に映るのか?」


 始祖は罪を受け入れる。


 帝国を守る為ならば、始祖は手段を択ばない。


 帝国の為に生き、帝国の為に命を捧げる。


 それが否定されているように感じたのだろうか。


「私は罪を受け入れている。このような状況に陥ったのは、私の不手際によるものだ」


 シャーロットの言葉に対し、レインは視線を逸らさない。


「貴女の罪が何を意味することなのか、俺にはわかりません」


 レインは素直に思ったことを口にする。


「俺には家族と離れるのを惜しんでいるように見えますよ」


「そうか。では、お前は私と一緒にいてくれるとでも?」


 シャーロットは、レインに手を伸ばす。


 寒気すら走る。


 この場から逃げなければ、殺されると錯覚する。


 ……逃げてたまるものですか。


 振り払って拒絶しなければ、二度と逃げる事は出来ない。


 ……二度と手放すものですか。


 本能が逃げろと囁く。


「ええ。もちろん」


 それでも、レインはシャーロットの手を取った。


「貴女が何を苦しんでいるのは、知りません」


 泣いて逃げるのは簡単だ。


「きっと、それは、俺にはどうしようもないほどに大きなことなのでしょう」


 それをしてしまえば、レインは、二度とシャーロットの隣に並ぶことはできなくなってしまう。


「仮にそうだとして、坊やは何を望む」


 シャーロットの問いかけに対し、レインは眉を顰めた。


 ……また、です。


 レインの名を忘れてしまったわけではないのだろう。


 しかし、誰かと重ね合わせている時には、必ず、レインの名を口にしない。


 ……きっと、求めているのは俺の答えではないのでしょう。


 それがレインにとって寂しくもあり、なぜか、懐かしくもある。


「なにも望みません」


 レインの言葉で答えを出す。


「ただ、貴女を一人にするべきではないと思ってしまったのです」


 その答えが、シャーロットが求めているものではなくとも、レインは構わなかった。


「だから、理由が知りたかっただけです。貴女をそこまで動かすものを知りたいと思ってしまったのです」


 家族だから傍にいられるとは思ってはいない。


 レインは家族仲に恵まれていない。良好な家族関係を築いたことはない。


「それに、俺が出来ることは、貴女が泣ける場所を作ることくらいでしょうから」


 それなのにもかかわらず、なぜか、仲の良い家族の姿を知っていた。


 その答えがシャーロットにある。


 それを信じて疑わなかった。


「坊やの妹を見殺しにしたのは、私であると忘れたか」


 その問いには、首を左右に振った。


 ……忘れるなんて、冗談でもありえません。


 ただ、恨むのには疲れてしまった。


 憎しみは何も生まないことは、知っていた。


 ……それに、妹はどこにもいなかったのかもしれません。


 十年前のあの日、レインは助けを求めた。


 その日の出来事を忘れることはないだろう。


 たった一人の親友を助けてほしいと泣いて縋った。


 その代償が妹だと知っていたとしても、レインは同じことをしただろう。


 ……だって、シャーロットはなにも変わっていなかったのだから。


 現実逃避だった。


 自己嫌悪だらけの十年間だった。


 その間に見つけてしまった歴代当主の日記。シャーロットの息子を名乗る当主の日記には彼女が甘いものには目がなく、子供のような悪戯を好む女性だったと書かれていた。


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