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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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04-1.呪われた双子の答え合わせ

* * *



 放課後。


 レインの次期当主就任の話は、学園だけではなく国中に広まっていた。


 それを当然のように耳にした張本人は、困ったような笑みを浮かべていた。


 就任を祝われる事は有難い。


 だが、それは、まだ生きている父の死を望んでいる声にも聞こえてしまう。。


「話をしましょうか、シャーロット」


 呼び出しに答えたシャーロットが何を考えているのかは、わからなかった。


 だが、それでもレインはかき集めて作り上げた資料を机に置く。


 ……覚悟は決めたのです。


 追及するのには、充分すぎるほどに調べ上げた。


 ただの自己満足だとしても、それで構わなかった。


 これ以上、無駄な意地を張り合うよりは、明らかに有益な時間の使い方をした筈だ。


「貴女は俺と誰かを重ねていますよね。その誰かは、貴女にとって大切な人だったのでしょう」


 肝心の誰なのかはわからなかった。


 それでも、根拠としては十分だと言いたげに話を進める。


「貴女がリンと重ね合わせているのは、初代当主の夫であったリン・セシリア・ジューリアですよね」


 僅かにシャーロットの表情が曇った。


 ……どうやら、正解のようですね。手ごたえがありました。


 傍から見れば、何も変化の無い彼女の表情を見分けられるのは、双子だからであろうか。


「だから、貴女は俺たちを殺さなかったのでしょう?」


 それとも、辛うじてわかる範囲の変化を見せてくれたのか。


「始祖が取り決めた掟を破った俺たちを処分しなかったのは、彼が、貴女にとって大切な存在だったから、なのでしょう?」


 前者である事を願いながらも、レインは言葉を続ける。


「だからこそ、恨まれるかもしれないのに、生かしてしまったのでしょう?」


 答え合わせが外れていればいいと願わなかった日はなかった。


 それでも、前に進むためには避けては通れない。


「あの日、貴女が、リンに施した魔法は、彼を助ける為だけに行ったのでしょう」


「何故、そう思う」


「簡単な事ですよ。あの日以降、彼は健康そのものなのです。それがなによりの証拠になるでしょう」


 似たような歴史を持つ貴族の子が、健康体なんてありえない。


 レインの体が弱いのと同様に、リンも長くは生きられない体だった。


「しかし、魔力欠乏症候群だと診断されていたであろう」


「魔力欠乏症候群は意図的に引き起こしたのでしょう。あの病は完治はしませんが、命に係わるような重病でもありませんから。……そうでなければ、彼は十年前のあの日に死んでいたことでしょう」


 生まれつき、魔力を抑えきる事が出来ない原因不明の難病を抱え、魔力の必要以上の流出に伴い、大人になることは不可能だと言われていた。


 それが覆ったのだ。


 覆った途端、シャーロットはフリークス公爵邸から立ち去ってしまった。


 ……俺があの子に縋ってしまったのがいけないのです。


 大雨の日だった。


 リンが命の危機に陥ったと耳にしたのは偶然だった。


 ……俺がリンを助けてと言ってしまったから。


 十年前、シャーロットはレインの願いを叶えた。


 リンの命を蝕んでいた難病は形を変えた。


 他者の魔力を吸収し、自身の魔力を補う体質――、魔力欠乏症候群へと変貌した。


「答えてください。どうして、お前は俺たちを助けようとするのですか」


 奇跡が起きたとされている真相をレインだけが知っていた。


 それだけは、リンにも話したことはなかった。


 知っていたからこそ、恨めなかった。


 もしも、それが行われなければ、リンはもう生きていなかっただろう。


「なぜ、私がお前たちを助けねばならん。お前が指摘をした通り、私が病を治したとしてもネイディアは大きな代償を払うことになった。それは助けたことにはならないのではないか?」


 シャーロットの言葉は正しい。


 魔力欠乏症候群を抱えることとなったリンは、魔法使いとして生きていくことは難しい。


 致命的な弱点は完治することはなく、まともに魔法を使うことができない貴族として、恥を晒して生きていくことになる。


「そうです。だから、わからなかったのです」


 何が目的なのかは、わからなかった。


 誰かと重ねられているとはいえ、心の中では別人だと理解しているはずだ。


「だって、貴女は俺のことが嫌いなのでしょう?」


 わからないからこそ、戸惑っているのだ。


「そうでなければいけないのでしょう? 俺が貴女を許してしまわないようにするためには、貴女は俺に疎まれるような振る舞いをし続けるつもりだったのでしょう?」


 それを自覚しているからこそ、問いかける。


 レインにはシャーロットの真意がわからない。


 しかし、シャーロットがレインのことを心の底から嫌っているとは思えなかった。


「なのに、貴女は、泣きそうな顔で、許しを求めるような顔をしていたでしょう」


 その答えが、絶望ではないことを願うのはいけないことだろうか。


「ならば、俺は許します」


 たった一人の双子の片割れだ。


 その姿は十年前と違う。


 悪戯好きの片割れと、目の前にいるシャーロットの姿は上手く重ならない。


「貴女が満足する形ではなかったとしても、それが、それで良かったのだと肯定します」


 レインの選んだ道は正しいのか、それさえも、わかっていないだろう。


 しかし、シャーロットが言葉を遮ろうともせず、大人しく言葉を聞いている姿を見る限り、レインの憶測は間違ってはいないのだ。


「貴女は間違っていなかったのだと何度でも言います」


 許しがほしかったわけではないだろう。


 認めてほしかったわけではないだろう。


「シャーロットはリンを助けてくれた。それは、変えようもない事実でしょう?」


 それをわかっていても、レインは言葉を続けた。


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