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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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03-3.日常が崩れる音に誰も気づかなかった

「平和を愛するアクアラインからすれば、私たちは悪魔のように見えることだろう。貴様らの敬愛する初代女王を死の淵まで追い詰めたことも、アクアライン王国から疎まれている理由の一つだろう。これもまた、宿命の一つだ」


 口も利きたくはないと言いたげな表情をして睨むライラに、追い打ちをかけるように次から次へと言葉を紡ぐ。


「おい、いいかげ――」


 さすがに危険だと判断したのか、その間に入り、止めようとしたリンは、素早く鳩尾に蹴りを入れられて丸まっていた。


 ……なんというか、ねえ。


 ここまで堂々としているのは、どうなのだろうか。


 帝国に対する悪感情を抱かせるだけだということを、シャーロットが理解をしていないとは思えない。


 ……ライラの帝国嫌いを悪化させようとしているようにしか思えないのよね。


 なんらかの意図を抱き、ライラを煽っているのだろうか。


 それが帝国の為になることなのか。


 それとも、シャーロットの個人的な振る舞いなのか。


 ガーナには判断がつかなかった。


「面白くて仕方がないな」


 ガーナの気持ちは伝わらない。


「問わせて貰おうか。ライラ第二王女殿下」


 シャーロットは、自分の思いのままに動く。


「自称親友の農民のことが大切か?」


 耐えることも空気を読むこともしない。


「それとも、間抜け面をしているネイディアに想いを寄せているからか?」


 全て、自分自身を中心にして動く。


「それとも、イザトに同情をしているからか?」


 それが許されるのだと自負しているように表現をし、そのまま、周りに受け入れられていく。


「それとも、この場には居ない桜華人を思う偽善からか?」


 そこまで、言って、ライラに顔を近づける。


 思わず、ライラは数歩だけ後ろに下がってしまった。


「理由はどれでも構わない。帝国の民を友としたアクアライン王国の王女よ。貴様が私を恐れるのは、帝国の友を奪われる恐怖によるものだろう?」


 怒りの籠っていた眼は、次第に恐怖に包まれていく。


 得体の知れない、決して敵に回してはいけない存在を目の前にしている事を拒絶するように息を飲んだ。


「私は知っている」


 ライラの頬に触れようとした手を弾かれた。


 シャーロットは気にすることはなく、ライラの前に立ちふさがる。


「貴様は、怖いのだろう? 怖くて、怖くて、仕方ないのだろう?」


 表情を変える事無く、ゆっくりと口を動かした。


「貴様の全てを、この国で手に入れた全てを奪い去り、壊していくだろう現実が恐ろしくて仕方がないのだろう」


 それはライラの心を揺さぶる為なのか。


 それとも大した意味などないのか。


「それを突きつけるのが、始祖であると知ってしまった」


 シャーロットは言葉を続ける。


 その言葉がライラの心に大きな傷跡を残すことを知っているからこそ、楽しくして仕方がないと言いたげな笑みを携えて言葉を紡いでいく。


「気付かねば良かった事実を知ってしまった。だからこそ、恐ろしくて仕方ないのであろう?」


 ライラの全てを否定するかのようだった。


「かわいそうに。貴様にできることなど、なにもない」


 当然のように言い切る。


 それは予言ではない。


「貴様の心情など微塵の興味もない」


 シャーロットが個人的に思っていることを口にしただけである。


 それなのにもかかわらず、ライラは顔色を悪くし、体を震えさせていた。


「貴様の判断では誰も救われない」


 これから先、ライラが選択をしなければならないことを知っているかのようにシャーロットは告げた。


「友情に狂った王女が国を亡ぼすのも一興だろうな」


 要件はそれだけだったのか、直ぐに背を向ける。


 そして、頭を抱えているリンの肩を叩く。


 そのまま、耳元に顔を近づける。


「なにをなさっているのですか!?」


 何気ない動作であったのが、ライラは悲鳴に近い声を上げる。


 甲高い声は教室中に響き渡り、慌てて口元を押えた。


 ……うわ。


 何事かと教室中から視線が、ライラに向けられている。


 それに気づき、ガーナは気まずそうに目を反らした。


 ……これ、止めるタイミングをミスったわぁ。ごめん、ライラ。


「おや? 私が何をしようと貴様には関係ないであろう?」


 シャーロットの暴走は止まらない。


 そもそも、暴走自体していないのかもしれない。


 シャーロットにとっては、人をからかう事は日常の一部でしかなく、それを大した意味もなくしていることが多い。


「ちょっと」


 だからこそ、ガーナは、愉快そうに笑うシャーロットの腕を掴む。


「何用だ」


「いい加減にしときなさいよ」


「私が何をしようが、貴様には関係ないであろう?」


「大有りよ、大馬鹿女!! アンタが馬鹿にしてるのは、私の大親友よ! 親友の痛みは私の痛み! つまりは、アンタは私を馬鹿にしたってことよ!


 高らかに宣言したガーナに対して、シャーロットは笑う。


 変わらない日々を過ごしてきたシャーロットにとっては、刺激的な会話だったのだろうか。


「“大親友”――、そう思っているのは、果たして両者ともであろうか」


「……何が言いたいわけ」


「さて、私の知ったことではない。自力で解くのも大切なことだ」


 ガーナの手を振り解く。


 簡単に振りほどかれた手を、ガーナが再び伸ばすことはなかった。


「これは忠告だ。交わる事のなかった罪同士、ぶつかり合えば、互いの悲劇を増長させるであろう。――愚かな悲劇を望むのであれば、その友情とやらに現を抜かすが良い」


 それから、背を向ける。


 そして、そのまま姿を眩ました。



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