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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第2話 聖女は平穏を願い、少女は日常を願った

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02-4.夢が覚めれば現実になる

「……諦めたとか、そういうのじゃねえから」


 リンは強くは否定しない。


 ただ、迷っていると言いたげな顔を隠すように顔を背けた。


「へえ? 僕には諦めているように見えるけど。シャーロットに縋るような真似をしたくせに、結局は諦めているんじゃないの?」


 イザトはリンの迷いに気づいているのだろう。


 それに追い打ちをかけるような言葉を口にする。


「僕は良いと思うよ。そうすれば楽になれるんだもん。別に悪いことじゃないと思うよ」


「諦めているわけじゃねえ。それに、それは関係ねえだろ」


「どうだろうね? 関係あるかもしれないよ」


 イザトのその言葉を聞いて、ガーナは思わず、眼を見開いた。


 ……知ってる。イザトは、知っているんだ。


 なぜ、そう直感したのかはわからなかった。


 けれども、不思議と確信があった。


 シャーロットを見つけた時と同じだ。


 ……どうして。


 身体中を寒気が襲う。


 それ以上は、踏み込んではいけないと警告されている気さえしてくる。


 止めなくてはいけないと何かが告げている。


 このまま、放っておけば、【物語の台本(シナリオ)】は覆されてしまう。


 その切っ掛けを与えてしまえば、【物語の台本】は意味を成さなくなる。


 そうなれば、帝国の基盤を支えているものは崩れ去ってしまうだろう。


「イザト!! それ以上は――!!」


 反射的に声を上げる。


 声を上げてから気付いた。


 イザトの先ほどの視線は、ガーナの様子を確かめるものだったのだろう。


「本人がいるんだから聞きなよ。君は、本当に始祖の記憶を持っているの? ってね。怖いからって、始祖信仰に走るようなヘタレじゃないでしょ、僕の親友は。すぐに諦めないでよ。そんなのさ、つまらないと思わない?」


 笑顔でイザトは告げた。


 途端に身震いしたガーナは、眼を反らした。


「なんだよ、それ。本当に変なことを言うよなぁ」


「ヘタレなリンなんて気色悪いだけだからね。あまり腑抜けでだらしのない姿を見ていたくないだけだよ。ほら、君からツッコミを取ったら、なにも残らないのと同じだよ」


「例えが最悪過ぎるじゃん!! 俺の価値ってツッコミ!? 別に好きでやっているわけじゃないんだけど!」


 ……わざと、やったんだ。


 反射的に止めようとするのも、計算の内だったんだろう。


 ……こんな展開は、無いのに。


 未来を知っているわけではない。


 【物語の台本】を知っているわけではない。


 それなのにもかかわらず、ガーナはあってはならないことを止めようとしてしまっていた。


「あー、はいはい。男のツンデレは需要がないよ。ミュースティさんみたいな同性愛好き以外にはね!」


「ツンデレじゃねぇーし!! つか、ライラ様の趣味に触れるんじゃねぇよ。身分を考えて発言しねぇと、いつか、自分の首を絞める事になるぞ」


「痛い! すぐに暴力に走るのはいけないと思うんだけど?」


 目の前で繰り広げられているのは、普段通りのじゃれあいだ。


 いつもの光景だ。


 それなのにもかかわらず、ガーナは異常な光景であるかのように感じてしまう。


 ……なにもできなかった。


 何かが壊れていく音を聞いた気がした。


 目の前で引き起こされているのにもかかわらず、止めることもできない。


 ただ、壊れていくであろう現実を見つめていることしかできなかった。


「お前の為にしてんだよ! バカ! 早く謝れって!」


「いやだよ。僕はなにも悪いことをしていないからね!」


「そんなことを言ってる場合じゃねえから!」


 リンはそう言って、慌ててイザトの頭を叩いた。


 必死になっているのは、いつもリンだった。


 ……ライラ様ねぇ。


 身分からすれば、一番近い存在なのはリンであるのだが、態度は誰よりも遠く決して自ら関わりを持とうとはしない。


 染みついた哀しい貴族の性という奴なのだろうか。


 友人たちの中では、ライラのことを隣国の第二王女として正しく扱うのは彼だけだった。


 ……まさか、ライラに好意を寄せられているなんて、思いもしないんだろうね。


 知っていてこの態度だったとしたら、全力で殴り掛かるところだ。


 友人を守るため、必死な形相で謝らそうとしているリンは、ライラの視線に気づいていないのだろう。


「嫌ですわ。私は、身分を気にませんわよ。元々、こんなにも酷い身分制度には、好感を持てませんわ」


 ガーナは寂しそうな表情をしているライラに気付いたものの、なにもできず、ただ、見守ることしかできなかった。


「御国の方針ではそうであったとしても、帝国ではそうはいきません。アクアライン王国の第二王女であられるライラ様の為にも、そのように接するのは当たり前のことです」


「うわぁ、リンの敬語ってキモイよぉ」


「表現できない気色悪さだね」


「テメェら、失礼過ぎるって言ってるじゃんか!!」


 一瞬で態度を変えるリンに対して、ライラは切なそうに微笑んだ。


 一緒に過ごしていても、露骨なまでに態度に出されてしまえば、距離を感じてしまう。


 それも、リンは良かれと思ってしているのだ。


 温度差を感じてしまう。


 ガーナはそれが耐えられなかった。


「ライラぁ! こんなバカの為にそんなに悲しそうな顔をしないでよぉ!」


 それに対して、声を掛けないわけには、いかなかった。


 ……いっそ、命令してしまえばいいのに。


 隣国の王族として尊敬の意を示すリンのことだ。


 ライラからの強い言葉には逆らう事は出来ないだろう。


 だけども、それを実行してしまえば、もう友人になる事は出来ない。


 ……それも出来ないなんて。バカなんだから。


 ライラの想いが実を結ぶ事はないだろう。


 それをわかっているから、ガーナは言えなかった。


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