02-2.夢が覚めれば現実になる
心の中で、日常に引き戻してくれた二人に感謝しつつも、周りを見渡す。
珍しく早く人が集まっている。
上品な態度や偉そうな態度が鼻に着く生徒が多い、A組とは思えない騒がしさだった。
故郷の収穫祭を連想させる騒がしさに気付いたガーナは、首を傾げた。
……珍しいこともあるもんだねぇ。
そんな事を思いながら、ガーナは視線を二人に戻した。
「なにかあったの? この騒々しさは初めてだね! それに騒ぎの中心にリンのバカがいるなんて珍しい!」
「相変わらず、切り替えだけは早いね」
「ええ、そうですわね。ガーナちゃんの特技ですもの」
「二人が私をどう思っているかぁ、よーくわかったよぉ! でも、今はそんなことを言っている場合じゃないね! なんだい? この騒がしさは!」
人を振り払うようにして、近づいてくるリンに対して手を振る。
切り替えの早さは自負している特技だ。もっとも、それが誇れるような行為ではないとも思っているのだが。
「リンが人に囲まれるなんて珍しいねぇ。イザト、なにか知っているかい?」
「うん、知ってるよ」
「じゃあ、今すぐ教えてくれるかな?」
「そういうことは、リン君から、お聞きになられた方がよろしいのではないでしょうか? 当事者からの言葉を聞くのは大切なことだと思いますわ」
ライラの意見にガーナとイザトは、互いの顔を見る。
……うわぁ、嫌な笑顔。
恐らく、自分自身も同じような表情をしているのだろう。
……わかるわ。イザト。だって、リンの言いたいことを先に言った時の反応、とってもいいものね。
そんなことを思いながら、ガーナはライラに対して人差し指を振る。
「うふふっ、ライラは優しい子だからねぇ。でもね、よく、考えてごらん! そうすれば、直ぐに答えが見えてくるからね」
それが彼女たちの日常だった。
後先のことは考えない。ただ、毎日を笑って過ごしたいだけなのだ。
「――でも、時間がないから、ここで答えです! リンの役目を取っておいてあげるなんて! そんなことを私がするわけがないじゃないっ! ってことで、はぁーい、イザト君、リンが近づいてきたタイミングで暴露!」
大笑いをしながら計画を嬉々として語るガーナを見て、ライラは納得をしたかのように微笑み、静かに頷いた。
余計なことはしないつもりなのだろう。
それをされて怒るようなリンではない。
いつものことだと、笑いながら許してくれることだろう。
「はぁいっ、カウント入りまぁーす! 3、2、1。どうぞ!」
「委員長君の当主就任が明日なんだってね。だから、従弟のリンに詳しい話を聞こうと貴族たちが寄ってきているんだよね。それをわざわざ言いに来たのに先に言っちゃってごめんね?」
「俺の台詞をそのまま言う奴がいるかよぉっ――!!」
リンは勢いよく突っ込んできた。
駆け寄ってきた勢いのまま、イザトに衝突した。
「痛いっ! ちょっと、さすがにぶつかることはないんじゃない?」
「うるせえ。俺の気持ちも考えてみろよ!」
「いやだなぁ、僕が発案したかのように言わないでくれない?」
「はぁ? イザトが考えたんじゃねえのかよ?」
「提案したのはヴァーケルさんだよ。僕はその提案に乗じただけ」
それを見て、ガーナは満足だと言いたげに、イザトとハイタッチを交わしていた。
「レイン君の当主就任ねぇ? 普通、それって、未成年がすることじゃないと思うのだけど。実際はどうなの? 未成年が当主って普通なの?」
貴族にとっての常識は、ガーナにはわからない。
だからこそ、首を傾げた。
……同い年なのに。
両親はいないのだろうか。
いや、亡くなっているのならば新聞に記載されるはずだ。
公爵家の訃報ともなれば、帝国中に噂は広まるはずである。
「いや、普通じゃねえよ。だから騒ぎになってるじゃん」
リンは当然のように言い切った。
「えー? 媚びを売りまくる為の騒ぎじゃないの?」
「公爵家へ媚びを売るのは、今に始まったことじゃねえんだけど」
「へえ。私、リンが媚びを売られているところなんて見たことがないけどねぇ。あ! ごめんごめん、リンとレイン君だと条件があまりにも違ったね!」
当然の疑問だった。
レインは十六歳だ。
現当主が生存中なのにもかかわらず、未成年が当主になるのは前例がない。
「リン、邪魔。重いんだけど? それに僕は同性に抱き着かれて喜ぶような特殊な性癖はないから、ごめん? すぐにでも退いてくれないかな?」
「俺だってねぇし! 変なことを言うんじゃねえよ!」
「だって、僕に抱き着いたまま話をするから」
「事故だろ!」
「それなら慰謝料を請求してもいいよね?」
「それは俺の台詞じゃね!?」
イザトから離れたリンの顔色は悪い。
いつもと変わらないように騒いでいるものの、内心は穏やかではないのだろう。
「次期当主に内定をした途端、軍の介入があったらしいからな。それで、急遽、当主就任が決まったらしい」
ただでさえ、苦手意識のある貴族の子息たちに囲まれて、疲れているのかもしれない。
……なんだろうねえ。
夢見が悪かったからだろうか。
嫌な予感がした。
「そんなことで決めていいわけ? 大事なことなんじゃないの?」
「まあ……、本来は、そんなに急いでいい話じゃねえよ」
「詳しいねえ。で? なんで軍の介入なんてことになったの?」
「知らねえよ。ただ、レインの姉貴の葬儀が終わったからだって、噂は聞いたけどな。それも本当かどうかわからんねえし」
……は? 葬儀が終わったから?
理解ができなかった。
弔う気はあるのだろうか。