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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第1話 日常が崩壊していくことさえも自覚ができない

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12-4.狂った歯車は止まらない

「椅子に座れ。そうすれば魔術は解ける」


 それは事実だった。


 彼女なりの終わらせ方だと知っていた。


 一方的に繰り広げられた言い争いは、その一言で終わる。


 ……結局、なにをしたかったの。


 ガーナはシャーロットの言葉通り、椅子に座った。


 ……わざわざ変な力を見せたかっただけ?


 それから五秒ほどでうつぶせになっていた同級生たちの姿勢が戻っていく。


 操り人形の劇を見ているかのような光景を目にしたガーナは思わず変な顔をしてしまったものの、声には出さずに見ていた。


 全員が元の姿勢に戻った時、リーリアの眼が開いた。


「二人とも、止めなさい!!」


 リーリアは声をあげた。


 しかし、制止させられるはずの二人は椅子に座っている。


 その違和感からだろうか、リーリアは何度も瞬きをしていた。


 ……そうなるわよね。


 リーリアだけではない。


 ガーナとシャーロット以外ではなにが起きたのかを把握していない。


 そしてそれを知る術はない。


 違和感を指摘する者もなく、なにもなかったかのように流れていくのだろう。


 きょとんとしていたリーリアもすぐに正気を取り戻したかのように黒板に副委員長の候補者の名前を書いていく。


 そこにはシャーロットの名はなかった。


 ……好きなように弄ったんでしょうねえ。


 違和感を無くす為の処置だったのだろう。


 それを指摘すれば混乱が起きるだろうということは予想できる。


 ……なんだろう。すごく嫌な感じがするのよね。


 だからこそ、ガーナはなにもなかったかのように黙っていた。



* * *



 異常としか言いようがないやり取りを繰り広げたというのにもかかわらず、なにもできないガーナの様子を観察する。


 なにもなかったかのように黙り、大人しくリーリアの話を聞いているガーナの姿に誰も違和感を抱くことがないように片手間で作った魔術を放つ。


 ……これほどに劣っているとは。


 魔術が放たれたことにも気づかない。


 現代の魔法使いたちの実力低下を目の当たりにしたような気分だった。


 ……懸念事項が増えたな。


 内戦や戦争が引き起こされた時の戦力であるべき存在だからこそ、専門の教育機関を援助してきた。


 帝国を守る為には欠かせないことだったのだが、魔術の劣化版である魔法に馴染み、人類の進化と共に過去の遺物となりつつある技術の損失を嘆く。


 ……早々に革命を引き起こさなくてはならない。


 新たな文明である科学が広まるのと共に魔力を持つ者にしか扱うことができない魔術や魔法は廃れていくだろう。


 ……だからこそ、マリーの命だけで歯車が狂ったのだろうが。


 文化が廃れてしまえば、帝国全土に広がった【物語の台本(シナリオ)】の威力は低下するのは目に見えていた。


 ……アクアライン王国の第二王女が適任か。


 シャーロットはライラに視線を向ける。


 ライラの周囲には精霊たちがいる。


 居心地が良いのだろうか。


 ライラの髪を弄ったり、ライラの動きを真似してみたりと好きなように過ごしている小さな精霊たちは楽しそうだった。


 ……あれは利用できる。


 精霊は自我を持つ魔力の結晶である。


 だからこそ、大規模な魔術を行使する時には精霊の力が欠かせなかった。


 ……魔術を身体の中に留めておくのには都合が良い。


 この状況に違和感を抱くことすらも出来ていないライラに向け、魔術を放つ。


 ……何も対策をしていないとは。


 ライラに対して好意的な意思を抱いている精霊を弾き、ライラの魂の奥底に眠っている記憶を呼び覚ます魔術を彼女の体の中に組み込んでいく。


 好き勝手に魂を弄られていることへの違和感や嫌悪感を抱かないように感覚を麻痺させ、得体のしれない魔術を仕込む。


 ……都合が良い駒になっておくれ。


 それは時が来れば爆発をするだろう。


 ライラの思考を書き換え、シャーロットたちにとって都合の良い動きをするようになるだろう。


 時限爆弾のような仕組みの魔術が植え付けられていることを教えようとする精霊たちを目には視えない魔力を帯びた鎖が捕縛し、魔術を保つ為の魔力へと分解してしまう。


 人間の耳では聞き取れないような甲高い悲鳴が響く。


 助けを求める声が聞こえる。


 ライラはそれにすらも気づいていなかった。


 ……やはり、精霊の愛しい子とは名ばかりか。


 貴重な情報を入手することができた。


 ……精霊の動きを読み取れていない。


 シャーロットの目にも空中を漂っている精霊の姿が視える。


 現代では精霊の姿が視える人が減ってしまった為、清らかな心の持ち主にしか見えないと言われているが、それは後世の人間の作り話だ。


 本来、魔力を持つ者ならば誰もがその姿を見ることができる。


 魔術を基礎とし、より強力な力を宿す呪詛は精霊の力を借りたものだ。


 懇意としている精霊の力を借りることにより、人々は願いを叶えてきた。


 その為、シャーロットの肩にはいつも精霊が座っている。


 寿命という概念を持たない精霊にとって、儚く散ることのないシャーロットは失うことを心配しなくてもいい存在なのだろう。


 ……力が弱い魔女を好いた自分自身を恨め、精霊たちよ。


 ライラの周囲にいた精霊たちは魔術に取り込まれてしまった。


 いずれ、精霊の声が聞こえないことに違和感を抱くだろう。


 ……私に力を貸してくれ。愛おしい友人よ。


 シャーロットの手の上に座っていた精霊の頭を撫ぜる。


 それを合図として精霊たちは立ち上がり、銀色に輝く羽を動かしてライラの元に向かっていく。


 それから、最初からライラと共に居たかのような顔をしていた。


 ライラは気づいていないのだろう。


 傍にいるのはシャーロットの味方をする精霊たちだ。


 今後、ライラの助言をする内容はすべてシャーロットにとって都合の良いことばかりになる。


 ……踊り狂え。アクアラインの王女よ。


 アクアライン王国は同盟国である。


 しかし、シャーロットにとっては七百年前の革命を引き起こさせた元凶の国だった。


 なによりも失いたくなかったものを奪った国の民に対し、温情をかけることはない。


 ……革命を引き起こす種火となれ。


 これは帝国を愛するからこそ引き起こす革命だ。


 七人の始祖が愛する帝国の為ならば、どれほどの犠牲が生まれたとしても彼女たちは当然のように振る舞うことだろう。




* * *


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