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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第0話 少女は聖女に仕立て上げられる
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02-1.ガーナ・ヴァーケルは変わり者の魔女である

 雲一つない、晴天。


 眩い太陽の光を一身に浴びながらも、笑い合う少女たちがいた。


 そこは、人の声が溢れる商店街。


 フリアグネット魔法学園都市と呼ばれる独立地区に住む人々の多くは、学生たちだった。


 学園に通う学生たちが自由に行き来することができる商店街はいつでも盛り上がっている。


 すれ違う人たちの多くは制服を着こみ、楽しげに会話を交わしていく。


「ねぇ、ライラ! 今度はあの店にいってみようよ!」


 ガーナは、豪快な笑みを浮かべながらも両腕で大きな紙袋を抱えて歩く。


「私の予感が正しければ可愛い動物系のぬいぐるみがある予感がするのだよ!」


 見ている方も楽しいと錯覚させられる心地の良い笑い声を上げる。


 笑顔で話を続けるガーナの隣にいるのは居心地がいいのだろう。


「まあ、それは楽しみですわ。ガーナちゃんの予感は当たりますものね」


 並んで歩いている少女、ライラ・アクアライン・ミュースティはガーナの話を楽しそうに聞いていた。


「うふふっ、そうでしょ? ライラとお揃いのぬいぐるみを買いたいね! 本当にライラと遊ぶのは最高だよ! 休日が終わらなければいいのになぁ! なんなら休日も私服で遊びに行ければいいのに、制服じゃなきゃいけないなんて頭の悪い校則、最悪だよね! そう思わない!?」


 それが叶わないことだと分かっていながらも、ライラはガーナの提案に頷いた。


 国によって定められた決まりは絶対的なものだ。


 特にライドローズ帝国ではそれに逆らう者は国への反逆心があると疑われる。


 窮屈な規則ばかりの魔法学園は帝国の意思を反映しているといっても過言ではないだろう。


「ええ、そうですね。制服以外で遊びに行きたいものです」


 ライラは、隣国、平和な水の都や農業大国の異名を持つアクアライン王国第二王女だ。


 同盟国である帝国には留学生として滞在している。


 立場のある人間ならばそれ相応の付き合いをしなければならない。


 それを言い聞かせられて留学をしているのだろう。


「やっぱし、ライラは私の親友ね!」


 並んで歩く二人には身分の差がある。


 隣国の王女であるライラと平民のガーナ。


 本来ならば並んで歩くどころか会話をすることすらも許されない。


「私の言いたいことをわかってくれるのはライラだけだもの。本当に最高だわ」


 それなのにもかかわらず、二人の交友関係は黙認されている。


 なぜ、黙認されているのか。それは二人も知らないことだった。


 それでも、唯一無二の親友であると自負しているガーナとライラにはそのようなことは関係なかったのだろう。


「うふふ。ねえ、ライラ。みーんな、私たちを見ているわ!」


 ガーナは、肩から滑り落ちる荷物を持ち直す。


 その表情は、友人との買い物を楽しむ年相応の笑顔だった。


「私のこの美しい容姿を見てしまえば思わず振り返ってしまうだろうけどね」


 自意識過剰な言葉を否定できないのは整った容姿をしているからだろう。


 平民の生まれとは思えないほどに艶のある髪を靡かせる。


「でもね。彼奴らの狙いはこの美しい私じゃないの。ライラ、あなたのことを見ているのよ?」


 大きく響くガーナの声を聞き、すれ違った学生が振り返る。


「失礼な奴らばかりだと思わない? 身分制度なんかくだらないものを気にしているくせに、なにもしない奴らなんて私の敵じゃないわ!」


 しかし、ガーナの隣で微笑んでいるライラの姿を視界に収めた途端に、眼を反らした。


 ……失礼な奴らよねぇ。全く。


 隣を歩くガーナも、その視線に気づいていた。


 気付いてからこそ大声で文句を言ったのだ。


 言いたいことがあるのならば出て来い。自分が相手になると言いたげな表情を浮かべるガーナに対してライラは静かに首を横に振った。


「ガーナちゃん。それはいけませんわ。ガーナちゃんの敵は私の敵ですもの。大事になってしまうでしょう?」


「え? うーん、そうだねぇ……。ふふふっ、国を巻き込んだ戦争なんて私の趣味じゃないわ!」


「そうでしょう。それでしたら不特定多数の人間を挑発する真似はしてはいけませんよ」


 ライラは当然のことのように言い聞かせる。


 それに対し、ガーナは少しだけ不満そうな顔をした。


「えー。ライラの言いたいことはわかるけど」


 ガーナは両手を大きく広げる。


 両肩にかけてある大量の紙袋に入った荷物の重さを感じていないかのように自由に振る舞う。


 その姿を見つめるライラは少しだけ羨ましそうだった。


「それじゃあつまらないわ」


 当然のように言葉を放つ。


「私に見られているだけで我慢しろとでもいうの?」


 ガーナは純粋ではない。


 周囲から向けられている視線のほとんどがライラに向けられているものだと理解をしているからこそ、心の底からそれを否定してみせるのだ。


「なにも言わないのにわかってほしいだなんて、お貴族様は偉そうね!」


 ライラは純粋な憧れや恋心、不純な動機など様々な理由から注目を集めている。


 それは隣国の王女と関わりを欲する者たちによるものだろう。


「このガーナ様よ? 私、そんな失礼なことをされて黙っているなんて嫌よ」


 そのような視線に気付かないほどに鈍感ではない。


 それは、ライラも同じである。


 ……見るなら、なにも考えずに話せばいいのに。


 実際に声を掛ける人は、ほとんどどいない。


 それは、その横で敬語や謙譲語という常識を知らないのではないかと思わせるくらいに友好的で立場を弁えないガーナがいるからなのだろうか。


 それとも、ライラの立場を考慮して距離を取っているのだろうか。


「ふふふっ。良いのよ。ライラ。私のように自由に振る舞っても帝国では罪に問われないわ!」


 ……ライラだって、見られて良い気はしないわよ。


 ガーナは、そう考えていたが、実際は少しだけ違う。


「なんてね。冗談よ」


「珍しく面白くない冗談ですわね」


「たまには笑えない冗談も言うのよ」


 ガーナは踊っているかのように軽やかに一回転をする。


 荷物を振り回すガーナを避けるように人々が離れていくのには目も向けることもなく、自由は素晴らしいのだと笑ってみせた。



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