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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第1話 日常が崩壊していくことさえも自覚ができない

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07-2.呪われた双子はなにを思う

「しかし、別の目的があると疑ってかかるのが無難でしょう。……あぁ、リンが敬愛してやまない始祖が姿を見せるのです。気にいられないように大人しくしているのがいいでしょう」


  ……どうして?


 レインの表情には変化はない。


 それなのにもかかわらず、ガーナにはレインが無理をしているように思えて仕方がない。


 意地を張らなくては生きていけないかのようにも見える。


 淡々と公爵の代理人としての言葉を述べている姿と先ほどまでのリンと子どものような会話を繰り広げていた姿が重ならない。


 違和感ばかりが残ってしまう。


 ……レイン君の顔がシャーロットと重なって見えるのよ。どうしてなのかわからないけど。


 その姿はシャーロットを追いかけた時と同じだ。


 昨日の光景と重なって見える。


 レインとシャーロットは容姿こそ似ているものの、まったく同じというわけではない。


 ……強がらなくたって大丈夫なのに。どうして一人だけで闘っているかのような顔をするのよ。私だって、リンだって助けを求められたら協力をするのに。


「一回しか言いません。これはなによりも重要なことです」


 それから、リンに問いかける。


 人を見下した態度ですら絵になる。凛とした、張りつめた声が響く。


 ……私、やっぱし、この光景を見たことがある。


 言葉も状況も違うだろう。


 はっきりとは思い出せないものの、既視感を抱く。


「シャーロット・シャルラハロート・フリークスは接触を試みることでしょう。彼女は目的を達成する為には手段を選びません。それを果たすことのないように阻止するのは俺たちの役割だということを忘れてはいないでしょう?」


 思い出そうとしていたことすら忘れ、ガーナは彼に見入ってしまった。


 レインの言葉に誰もが声を失う。


 だからこそ、レインは忌々しいと言いたげな顔をして告げるのだろう。


「リン。彼女がなにを企んでいるのか、俺にはわかりません。ですが、二度と関わりを持たないようにしてください」


 周りの様子などに目もくれず、レインは用件だけを吐き捨てた。


「これは自衛の術を持たないお前の為にもなることです。なにより交友関係を乱されることを望まないのでしょう?」


 その言葉は罵倒していた相手に向けられているものとは思えない。


 ……そっか。レイン君はリンを守ろうとしてくれているんだね。


 貴族ではないガーナに対しても、イザトやリカに対してもリンの態度は変わらない。


 友人として素のままで接している。


 それを乱されることはリンも望まないだろう。


 その関係性が乱されることを望まないと知っているからこそ、レインは冷たい態度をとるのだろう。


 相容れない態度を貫いていれば、リンが巻き込まれることはないと知っているのだろう。


 そして、それに気づいたのはガーナだけだろう。


 ……でも、それはリンには伝わっていない。


 だからこそ二人は衝突を繰り返すのだろう。


「始祖に対して妹の愛称で呼ばないようにしてください」


 まるで姿を真似した別人のような扱いだ。


 ……いやいや、そんなわけがないわよ。


 七人の始祖は転生を繰り返す。


 その都度、知識や記憶はもちろんのこと人格も継承するようになっている。


 それは帝国に住む者ならば誰もが知っていることだった。


 それを疑う者などいない。


 ライドローズ帝国の唯一無二の宗教であり、始祖信仰を掲げる教会が伝える聖書を疑う者がいないのと同じだ。


 ……だって、始祖は始祖として生まれてくるのよ?


 それが常識である。


 それを疑うことは許されない。


 ……だから、シャーロットが言った言葉が噓だって思っていたんだもん。十六年間も聖女様の記憶を持たないまま過ごしていたなんてありえないから。


 昨日、シャーロットの告げた言葉には矛盾があった。


 それに気づくことができたのはガーナが熱心な始祖信仰の親に育てられたからだろう。


 ……それなのにレイン君の言葉は、まるで幼い頃はシャーロットが別人のようだったみたいじゃないの。


 しかし、レインは釘を刺すようにそう言ったのだ。その様子は苦しそうだった。


 それは、なにも言わずに聞いていることしかできないガーナですらも心配になってしまうほどだ。


「え、ちょ、ちょっと、待てよ!!」


「なんですか?」


 一方的に話しを終わらせようとしたレインは、少しだけ不満げに口元を歪めた。


 同時に魔力が僅かに漏れ出した。


 それを感じたのか。


 席についていたり盛り上がっていたりと各自の行動していた同級生の一部が振り返る。


 ……うわ、これはきついわ。


 始祖を兄に持つガーナでもその魔力には圧倒される。


 あまりにも強すぎる魔力は制御することが難しい。


 その為、僅かな感情の変化であったとしても、その魔力が外に漏れることも少なくはない。


 ……だから、彼は【物語の台本(シナリオ)】を狂わせる。本来は、存在してはいけない存在だから。


 当然のように思い浮かんだその言葉に疑問を抱く。


 ……ん? 【物語の台本(シナリオ)】を狂わせる? 存在してはいけない?


 なぜ、そう思ったのだろうか。


 事実として強すぎる魔力を支配下に置くのは難しい。


 現代に至ってはそのような巨大な魔力を持つ人間は減ってしまっている。


 時代外れの魔力に恵まれたレインは苦労をしたことだろう。


 だからこそ、魔力を持つ人間はどのような身分であったとしても魔法学園に通うことが義務付けられているのだ。


 全てを自身の支配下に留めておく為の訓練だ。


 それを怠ることは許されない。


 ……いやいや、おかしいわよ。だって、魔力を制御することが学園に通う目的じゃないの。それなのになにかが狂うなんてありえないわ。そんなことで狂ってしまうような簡単な作りではないもの。


 昨日、耳にしたばかりの呪詛の正体を知っているはずがないのにもかかわらず、ガーナはその正体を知っているかのようだった。


 イクシードのようには視ることが出来ない未来を知っているかのようだった。


 ……それにレイン君は普通の人間よ。そりゃあシャーロットの関係者かもしれないけど。でも、それでも始祖じゃなければ普通の人間なのよ。


 始祖は選ばれた英雄だ。


 帝国を護る為だけに選ばれたのだ。


 それは誰でも知っていることである。


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