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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第1話 日常が崩壊していくことさえも自覚ができない

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07-1.呪われた双子はなにを思う

「関係ねえって酷いことを言うよな」


 リンはそう言いながらも笑っていた。


 ……リンも酷いけどねえ。


 それではまるで他人事ではないか。


 友人だというのならば庇ってみせればいい。それをしないのはなぜだろうか。


 ……まあ、私がリンの立場でも庇うようなことはもうしないんだろうけど。


 イザトの隣に立っているリカの頰には涙が伝っていない。


 簡単に言ってみせたイザトの一言で疑われたと大泣きをするようなことはあっても、泣き止むことはないだろう。


 ……イザトが流れを変えたんだよね。


 本当に泣いていたのならば今も泣いているはずだ。


 それなのにリカは泣き止んでいた。


 イザトの言葉を待っていたというかのように泣くのを止めた。


 ……どうしてそんなことができたのかわからないけど、でも、私にはできなかった。


 大笑いをするリンの様子を眺めていたガーナは、ふと、彼の後ろに立つ少年、レイン・ネオ・フリークスに気付いた。


 恐らくは同じようにリンを見ているライラも気付いただろう。



「退いてくれませんか。そこは俺の席なのですが」


 レインは、リンが腰を掛けている机に容赦なく、学園指定の鞄を置く。


 わざとらしく大きな音が立てられたそれに驚いたのだろうか。


 今、気付いたと言いたげな表情を浮かべたリンはゆっくりと机から降りた。


 それから背後に立っているレインを睨みつけるように振り返る。


 ……なんか、どっかで見たことがあるような……?


 気のせいだろうか。


 リンの影に隠れてしまったレインの顔を覗き込んでみる。


 ……あ、こっち見た。


 黒淵の眼鏡越しに血のような紅色をした眼と眼が合った。


 癖の強い紅色の髪は所々跳ねている。


 全体的に血のような紅で染まった彼の肌は青白い。


 今にも倒れてしまいそうなほどに血の気のない肌をしている。


「リン・ネイディア・ジューリア、貴族としての品格というものを捨てたのですか? 友好国の第二王女殿下にそのような恰好を見られ、帝国の恥になっていることを自覚すべきです。恥晒しの劣等生はさっさと土に還ればいいのに」


 癖っ毛で跳ねている髪を気にする素振りすら見せず、レインは、リンに悪態を吐く。


 ライラは、心当たりでもあったのだろう。


 少しだけ首を傾げていたのだが、直ぐに納得したように笑みを浮かべた。


 ……ライラが笑っているってことは、やっぱし貴族関係かぁ。


 レインの顔を覗くのを止め、ライラの隣に立つ。


 中立だと言いたげな表情を浮かべてみせたもののレインの視界には映っていないのだろう。


「お前はそういうことしか言えねえのかよ。チビ」


「身長だけが伸びたバカには言わなくてはわからないでしょう」


 レインがリンに対して嫌味を口にしていても、不思議なことに子どもが強がっているようにしか見えない。


「は? あー、お前は昔から変わんねえもんなぁ? 俺の背がまだ伸びてることが羨ましいんだろ。羨ましがっても伸びねえよ」


「言っておきますが、お前が平均よりも背が大きいだけです。俺は年相応の身長です。その見下すような仕草は止めなさい。不愉快です。これだからジューリアのバカは嫌いなんですよ」


 ……子どもの喧嘩?


 明らかにからかうような言葉を選択しているのだろう。


 リンの言葉に対し、レインは動じないと言いたげな表情を浮かべてはいるものの、たいして変わらない。


「俺だってお前のことが大嫌いだけどな。なにが不愉快だよ。レインだって俺とそんなに変わんねえじゃん」


「一緒にしないでほしいですね」


「一緒じゃん」


「同じではありません」


「同じじゃん」


「だから同じにするなと何度言わせるつもりですか!!」


「あはははっ! ほら、怒った! お前の大事な貴族としての基本はどうしたんだよ! 貴族は常に冷静でなくてはならない、貴族は常に人の上で立つ者でなくてはならない、じゃなかったのかよ?」


 ……うわ。


 リンの方が上手なのだろう。


 普段の様子からでは想像がつかない。


 ……嫌いだって言っていたのに仲が良いじゃないの。


 レインは露骨に不愉快そうな表情を浮かべた。


 ……フリークス公爵家はろくでもない連中だって言っていたような気がするわ。


 休暇中に再会を果たしたイクシードから言われた言葉を思い出す。


 僅か半日の短い時間ではあったのだが、ガーナの為を思い、多くの助言をしてくれたのだろうか。


 ……それは兄さんなりの優しさだったのかな。


 シャーロットを通じて予言を告げることになると知っていたのだろうか。


 その予言を回避する術を教えてはくれなかったものの、必要以上に厄介事に巻き込まれないようにと配慮してくれたのだろうか。


 ……兄さんの忠告は基本的にいいことないから、好きじゃないけどねぇ。


 それを感謝しつつも、それ通りの行動をしないのがガーナである。


 誰かに指示された通りに生きるのなど御免だと言わんばかりに自由気ままに生きるガーナのことを知っているからだろう。


 兄も一方的な助言という名の忠告だけをして、後は好きにしろと笑っていたのだ。


「これだから嫌いなのですよ。……ライラ第二王女殿下の御前でこのような言葉を吐きたくはなかったのですが。お耳汚しをお許しください。これは帝国の民を思うが故に伝えなくてはならないフリークス公爵家の義務なのです」


「ええ。私のことは気にされなくてもかまいませんわ。帝国には帝国の事情があるのでしょうから」


「そのお言葉に感謝いたします。……いいですか。リン。これはフリークス公爵の代理人として告げるものです」


 血のような紅色の眼が僅かに細められた。


 その眼には感情が宿っていないかのようだった。


 冷めた色をしているそれを見たリンは少しだけ後退する。


 厄介事は嫌だと言いたげな動作を見てもレインの眼は変わらない。


 ……シャーロットと同じだ。


 リンと言い争いをしているレインの眼の色は明るいものだった。


 生気が宿っている眼をしていた。しかし、今の眼は違う。


 ……生きる気力のない眼をしてる。こんなに変わるなんて知らなかったけど。


 眼の色が変わった。


 それをリンは本能的に分かったのだろう。


 もしかしたら彼らの間では伝わる合図なのかもしれない。


「帝国が誇る七人の始祖の一人、“強欲の災厄”シャーロット・シャルラハロート・フリークスが学園に通うことになりました。期間は長くても一年以内との話ではありますが、その目的は不明です。表向きには、この学園が帝国に相応しいものであるのかを判断する為となってはいます」


 レインの姿と始祖であることを堂々と発したシャーロットの姿が重なる。


 始祖に対して恐れを抱いていないのだろうか。


 淡々としたレインの声からはなにも感じられない。


 彼の言葉通り、義務を果たしているだけだというかのようにも見える。


 ……フリークス公爵家の呪われた双子。


 不意に故郷に伝わる言葉が頭を過った。


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