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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第1話 日常が崩壊していくことさえも自覚ができない

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06-4.日常は人それぞれである

「なあに、リカったら、どうしてそんなに震えているのかしら? 私がなにかしたとでもいうの? ねえねえ、答えてちょうだいよ」


 ガーナはそのような事情は知らなかった。


 東洋と交流が浅い帝国では珍しい容姿の持ち主だという認識だったのだろう。


「リカの話が聞きたいのよ。桜華国には帰ったの? 家族や同じ国の人と会ったりしたの? なにも教えてくれないんだもの。私はリカの口からいろいろなことを聞きたいわ! ねえ、いいでしょ? 教えてよ」


 興味があっただけだった。


 遠く離れた桜華国から留学をしている理由だってガーナは知らない。


 これまで何度もリカに問うてはみたものの、一度だって教えてもらったことはなかった。


 ……どうして教えてくれないのかな?


 故郷には戻ったのだろうか。家族はいるのだろうか。


 友人としてそのくらいの話をしてもおかしくはないだろう。


 頑なに黙っていられるとなにかあったのかと気になって仕方がない。


「あーもう! 止めろよ、ヴァーケル!」


「なによ。私はリカに聞いているだけじゃないの。アンタは関係ないでしょ!」


「そうじゃなくて! 怯えてんじゃんか!! リカだって聞かれたくねえことくらいあるんじゃねえの!?」


 見ていられなかったのだろう。


 リカを庇うような言葉を並べるリンに対して、ガーナは冷めた視線を向けた。


「はぁ? なによ、それ。そんなのリンには関係ないでしょ。大体、私の質問のどこがいけないわけ? 休暇の過ごし方を聞くのも、家族がいるのかも、桜華国に戻ったのかも! 全部、普通のことじゃないの!」


 おもしろくないのだろう。


 聞いてはいけないようなことを触れたつもりはないのだ。


 ガーナはそれだけのことで怯えて震えてみせるリカのことを理解できない。


 ライラの後ろに隠れてこちらの様子を窺っているリカはなにを考えているのだろうか。


「お前の言いたいことはわかるけど、でも、それで怯えられてるじゃんかよ。友人ならそういうのも気を使ってやれよ。かわいそうに思わねえの?」


「思わないわね」


「は? いや、ヴァーケル、お前、速答するんじゃねえよ」


 ……なんなの。本当に。


 言葉にしてもらわなければ相手がなにを思っているのかわからない。


 ……こんなことを思うのがおかしいのはわかっているわ。でも、時々、リカが笑っているようにしか思えないのよね。


「私はリカの友達だもの」


 話を振れば怯えられる。


 その度にライラやリンは怯えているリカを庇う。


 話を振らなければ無視されていると涙を流す。その度にライラたちはそのようなつもりはなかったのだとリカを慰める。


 ……でも、わざとじゃないの? なんて言えないしねえ。


 実は計算をした上での演技ではないのだろうか。


 自分自身をよく見せる為だけにわざと怯えている真似をしているのではないのだろうか。


「どうして友達なのに気を使わなくちゃいけないの? どうして友だちをかわいそうなんて思わなきゃいけないの? この際だから言っておくわ。リンのそれは友達に対する扱いじゃないわよ。一々守ってやらなきゃいけないのが友達だっていうの?」


 育った環境の差による考えならば、ガーナの意見は押し付けにすぎない。


 ガーナにとっての友人とは好きなことを言い合うことができる仲のことである。


「そうだって思っているのならば時代錯誤も良いところよ。バカみたい」


 互いにとって大切な存在であるからこそ面と向かって言い合うことができ、なにかが起きれば互いに協力をして乗り越えることができる。


「言っておくけどね。私はリンにだって、イザトにだって遠慮はしないわよ」


 そういった仲であると信じている。


「アンタたちがなにを隠しているようだったら遠慮なく聞くし、困っているのならばお節介だって言われても手伝うわ」


 どちらかといえば世話をされることが多いのはガーナの方である。


 なにかと暴走をすることが多いガーナに振り回されながらも、対処してくれたのはライラだ。


 めんどうだと文句を言いながらも教師たちを説得してくれたのはリンだ。


 なにも言わずに手を差し出してくれるのはイザトだ。


「ライラはもう別格ね、だって親友だもの。そういうお節介をするまでもないのよ。ライラの悩みの種は私の悩みでもあるんだから」


 だからこそガーナは彼らの身になにかが起きれば、迷うことなく手を差し出すだろう。


 その手が余計なことだと振り払われても届く限りは伸ばすだろう。


 届かないところに行ってしまっても、諦めずに追いかけてその手を掴むだろう。


 ……被害者面をする余力があるのならば、私の名前がでていない! って、言ってみせればいいじゃないの。それなのになにも言わずに守ってもらおうなんておかしいわ。


 リカと一緒に過ごすようになって二年が経った。今年で三年目になる。


 同じ部活に所属をするようになったのが切っ掛けだっただろう。


 中等部二年の頃、桜華国からの留学生として注目を集めたリカとの接点は部活だけだった。


 それからいつのまにか一緒にいるようになったのだ。


 その間、会話が成立したことはほとんどなかった。


「あ、あの……」


「なあに? ようやく話す気になったの?」


「あ、え、えっとね……。わ、わたし、ガーナちゃんの言うこと、わかるよ?」


 ……だから、ぶりっ子って言われるのよ。


 そんなリカに対して、不満を抱くようになってもおかしくはないだろう。


 まともに会話が成立したことがなくても友人として振る舞うガーナに対して、リカは当然のように思っているのかもしれない。


 なぜだろうか。


 怯えてばかりのリカを庇護対象としているライラやリンがおかしいのではないかと思えて仕方がないのだ。


「当たり前なことを言わないでよ。私はライドローズ語を話しているんだから、それが伝わらなきゃどうやって授業を受けるわけ?」


 ……私はライラやリンのようにはなれないわ。だってそんなの友人じゃないもの。


 それでも、陰口を叩いていた同級生には、暴言と暴力でお返しをした。


 貴族出身である同級生たちに対するそのような言動は、問題行動として教師たちからは二時間もの説教をされたことだってある。


 酷い時は兄が学園に呼び出されたことだってある。


 本音を垣間見せないとはいえ、友人に変わりはない。


 滅多なことでは話に加わらなくても、リカはいつも一緒に居る。


 それはガーナにとっては当然の日常なのだ。それを脅かそうとするのならば、同級生であろうとも容赦はしない。


「桜華語に訳してくれるお優しい人がいるわけじゃないんだから、リカがライドローズ語を話せることくらいはね、分かっているわよ。私だってそこまでバカじゃないのよ」


「あ、あの、えっと、その……」


「はっきり言ったらどうなの!? 内容のない言葉を発せられても困るの! 言いたいことがあるのなら言ってよ! いくら頭の良い私でも意味のない言葉を発せられても理解ができないのよ!」


 少々、言い方が厳しかっただろうか。


 ライラの後ろに隠れたままのリカに対してガーナは厳しい視線を向けている。


 苛立っているわけではないものの、ここまで言われなくては返事が出来ないのかと不信感を抱いているのは隠しきれない。


 ……こんなの八つ当たりよね。わかっているわ。


 ガーナには心の余裕がないのだ。


 昨日のことも先ほどのことも頭の中を過っては消えてなくならない。


 忘れることは許さないと言われているようにも思える。


 それを誰かに相談することもできないのだ。


 その状況下にいながらも他人を気遣える余裕はガーナにはない。


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