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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第5話 帝国の基盤が崩れる時、革命が起きる

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05-3.ガーナ・ヴァーケルは逃げられない

 それでも、ガーナは逃げるわけにはいかなかった。


 一人だけ助かる道を選べない。


「私は革命を望んでいるわ」


 帝国に革命が起きれば、今までの生活はひっくり返るだろう。


 日常は壊される。二度と戻ることができない日々を恋しがり、それでも、帝国の為になるのならば、革命を望まなければならない。


「本気でおっしゃっていますの?」


 ガーナのはっきりとした物言いに対し、ライラは違和感を抱いていた。


「当たり前じゃない」


 ガーナは断言する。


 ……私は、革命を望むのよ。


 心の中で自分自身に言い聞かせる。


 ……だって、そうしないと。


 本能が告げている。


 革命を否定してしまえば、生きる術はなくなると確信を得ていた。


「嘘ですわね」


 ライラはガーナから目を逸らさない。


「ガーナちゃんは革命を望んでいませんわ」


「違う。これは私の意思よ」


「いいえ。望んではいません。ガーナちゃんは現実を見ることができる人ですもの。革命が起これば、帝国が火の海に包まれることがわからない人ではありませんわ」


 ライラの言葉に対し、ガーナは言い返せなかった。


 ……わかってるのよ。


 革命は帝国を火の海に包むだろう。


 アーロンが皇帝の座を素直に手放すとは思えない。


 テンガイユリ家の栄光を守り、帝国を実質的に支配し続けてきた始祖たちを退ける機会を逃すわけがない。


 ……でも。


 心の中で言い訳をする。


 ……私は、兄さんたちを支持しなければいけないの。


 夢の中で告げられたイクシードの予言がガーナの心を縛る。


 ガーナは革命を望む。


 イクシードによって予言された言葉は、ガーナの運命を歪め、予言に縛り付ける。一度告げられた予言は覆すことはできない。


「はい。そこまで」


 ロヴィーノはわざとらしく両手を叩きながら、間に入る。


「おお! 怖い! そう睨んでくれるなよォ、お客人。俺様は優しいからさ。お客人とヴァーケル嬢の友情に感激して、わざわざ止めてやったんだぜ?」


 ロヴィーノは手を叩くのを止め、視線をライラに向ける。


 何を企んでいるのか、わからない。不気味な笑顔を携えて、ロヴィーノはネタ晴らしを披露する手品師のように大げさな動きをした。


「ヴァーケル嬢を帝国の外に連れて行くのはお客人の自由だ。俺様は止めない。シャーロットもギルティアも、誰も止めやしない。引き留めもしないさ」


 ロヴィーノの言葉に対し、見守っていただけのイザトの眉間にしわが寄った。


 ライラの意思を尊重するかのような振る舞いをするロヴィーノは奇妙だった。


 帝国の為ならば手段を選ばないロヴィーノが、他国の人間であるライラに対して親切にすることはない。


「ヴァーケル嬢が死んでもいいなら、お客人の好きにすればいいさ」


「どういうことですの? 私のすることに関与はしないとお約束してくださったではありませんか」


「関与はしねえさ。俺様たちにはどうでもいいことだからな!」


 ロヴィーノはお道化ながら離れていく。


 ……この人、嫌いだわ。


 ガーナはロヴィーノを睨みつける。


 勝てる相手ではないのはわかっている。


 しかし、調子のいい言葉を口にしながら、ライラをからかうだけのロヴィーノに対し、好感を抱けない。


「ヴァーケル嬢は革命を望んだのさ」


 ロヴィーノは意味もなくその場で一回転する。


 優雅にダンスを披露するかのような仕草には、なにも意味がない。


「ギルティアの予言通りにな!」


 その言葉を聞き、ライラの表情が固まった。


 ロヴィーノが止めた意味を察したのだろう。


 ……兄さんの予言?


 ガーナは夢の中でのやり取りを思い出す。


 ところどころ、忘れてしまっている夢で告げられたことだけは覚えている。


 ……でも、あれは夢じゃないの?


 予言に心を縛られている自覚はない。


 ガーナは自分の意思で革命を望んでいる。


 その認識が崩れることはない。


「……嘘でしょう……?」


 ライラは困惑を隠せない。


 イクシードの予言を回避する術がないことを、ライラは知っている。


「兄さんの予言だとなにがいけないの?」


 ガーナは知らない。


 イクシードの予言を回避する方法がないことも、予言から逃れようと足搔いた者が辿る運命も知る機会に恵まれなかった。


「これは傑作だ! ヴァーケル嬢はギルティアの力を知らないのかい?」


「知ってるわよ! 兄さんの予言は百発百中! 絶対に当たる預言者なんだから!」


 ガーナの返答に対し、ロヴィーノは腹を抱えて大笑いをした。


「なにがおかしいのよ!」


 ガーナは本気だった。

 現代では珍しい預言者の才能に恵まれているのだと信じて疑わない。それこそがイクシードの才能なのだと思い込んでいる。


「はははっ! 傑作だ! ヴァーケル嬢!」


 ロヴィーノは笑いを堪えない。


「わかっているじゃないか! ギルティアの予言は外れない。なぜなら、予言から逃げようとしたやつらは死から逃れられないからさ!」


 これ以上におもしろいことはないかのように、ロヴィーノは笑いながら告げた。


 ……死から逃げられない?


 ガーナは首を傾げる。


 ……誰だって寿命はあるわ。


 生きている限り、死は付きまとう。


 しかし、ロヴィーノが告げた言葉はそういう意味ではない。


「革命から逃げれば、死ぬってこと?」


 ガーナが出した結論は正しい。


 それを肯定するかのようにライラは沈黙した。


「私が革命を望んでいるのは、全部、兄さんの予言のせいなの?」


「そうだとも! ヴァーケル嬢。お前が聖女だと名乗り上げたのも、そこの黒髪を庇ったのも、革命を望んだのも! すべてはギルティアの予言通りになっているだけなのさ!」


 夢の中で告げられた予言に従い、ガーナは革命を望んだ。


 自分の意思だと思い込んでいた。


 それはイクシードの手で操られていたようなものだ。

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