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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第5話 帝国の基盤が崩れる時、革命が起きる

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04-2.二人の聖女は衝突する

「リカ?」


 ガーナはリカに手を伸ばす。

 その手はリカの頬に触れる前に払いのけられた。


「さわら、ない、で」


 震える声でリカは拒絶した。


「わたしは、ガーナちゃんと、仲良くできないから」


「どうしてそういうことを言うのよ。私たち、友達でしょ!?」


 理解ができないと言わんばかりのガーナの言葉に対し、リカは首を左右に振った。


 学園内では共に行動をしていたとはいえ、二人は特別仲が良いわけではない。


 友人の友人として、一緒に行動をしていただけだと言われてしまえば、それまでの関係であり、ガーナも否定することができないのは自覚していた。


 ……友達だと思っていたのは私だけ?


 思わず、口に出しかけた言葉を飲み込む。


「わ、わたし、には」


 リカは震える声で言葉を続ける。


「友達、なんて、言ってもらえない」


 それは自分自身に言い聞かせているかのようだった。


「わたし、ガーナちゃんを、利用したの」


 今までのように振る舞うわけにはいかなくなったのだろうか。


 リカは零れ落ちそうな涙を堪えながら、縋りついて助けを求めてしまいそうな自分自身を諫めるように拳を固く握りしめる。


「利用?」


 ガーナは自覚がなかった。


「私はリカの為だけに動いてあげたことなんてないわよ」


 心当たりがない。


 ガーナは、いつだって、自分自身の想いを貫くために行動をしている。


「私はね。私の意思で動いているのよ。確かに、今日はリカを庇ったわ。でもね、それは、私の友人に嫌なことを強要しようとする兄さんたちに腹が立って仕方がなかったからでもあるわ」


 胸に手を当てて、宣言する。


 その堂々とした言葉を聞き、リカはなにも言い返さない。


 イザトは呆れたような顔をしながら、ガーナの言葉に耳を傾けていた。


「利用だってしなさいよ。私は友達の為なら、なんだってやってみせるから」


 自信に溢れた笑顔を浮かべる。


「リカ。私はね。ライラみたいに周りをよく見ていることができないわ。考えるよりも動く方が早いもの」


 ガーナはいつも余裕がない。


 周りにいるのは、ガーナの常識では理解ができないような力を持っている人々ばかりだ。


 その中で普通に振る舞うことさえも、ガーナにはできない。


「……どう、して」


 リカは、ガーナの言葉を受け入れることができない。


 それは、ガーナを巻き込んでしまった自覚があるからこそである。


 本来ならば、革命を眺めていることしかできない村娘だった。


 魔力に恵まれず、特別な才能もなく、ただ帝国で起きる悲劇を現実として見つめることしか許されない未成年の少女であるはずだった。


 その運命を覆したのは、百年前の聖女だ。


 リカは聖女である。


 その事実を受け入れつつ、ガーナにすべてを託そうとしていた。


 それが、ガーナの運命を捻じ曲げていることは理解をしていた。


 それでも、リカは、何もせずに耳を塞ぐことに専念しようとしていた。


「ガーナちゃんは、怒って、いいんだよ」


 リカの頬を涙が伝う。


「巻き込まれたって、怒って、いいんだよ」


 それはリカが望むことだった。


 友人ではないと突き放してほしいと言わんばかりの声で訴える。


「ガーナちゃんは、逃げて、いいんだよ」


 逃げてほしい。


 できる限り、始祖の手が届かないところまで逃げてほしい。


 リカの本音が零れ落ちる。


 ……逃げる?


 ガーナは心の中で想像する。


 数か月前までのガーナならば、逃げることを選んだだろう。


 貴族の揉め事に巻き込まれるのはごめんだと、さっさと故郷に引き返したはずだ。


 ……逃げて、それから、どうするの?


 ガーナが逃げれば、リカは聖女に戻る。


 イザトは革命に振り回され、生死すらも始祖の思い通りに利用される。


 それがわかっているのにもかかわらず、ガーナだけが逃げるわけにはいかなかった。


「私は逃げないわ」


 だからこそ、ガーナは笑って見せた。


「大丈夫よ。リカ。心配しないで」


 なにも問題は起きていない。


 自分自身に言い聞かせるかのように、ガーナは震える声でいつも通りに振る舞おうとしていた。


「それに! いざとなったら、兄さんに助けてもらうからね! なにも怖いことはないわ!」


 イクシードは味方ではない。


 ガーナが盲目的に兄として慕っている彼は、目的の為ならば手段を択ばない。


 ガーナに価値がないと判断をすれば、危機に陥ったガーナに視線を向けることもせずに見捨ててしまうだろう。


 それがわからないガーナではなかった。


「どう、して?」


 リカは再び問いかける。


「ガーナちゃんは、どうして、お兄様を信じられるの?」


「兄さんが私の兄さんだからよ! それ以上の理由なんて必要ないわね!」


 リカの問いかけに対し、ガーナは自信満々に答えた。


 それ以上の答えなど存在しないかのような自信を見たリカは、何度も瞬きをした。


「あり、えない」


 リカはすぐに首を左右に振った。


「あの人は、ガーナちゃんの、お兄さんじゃないよ」


 リカは知っている。


 イクシードは、一度たりとも命を落としたことがないことを知っているからこそ、ガーナが兄としてイクシードを慕っている事実そのものを否定した。


 それをガーナが知らないと思っているのだろう。


「騙されて、いるよ」


 なぜ、イクシードがガーナの兄を名乗っているのか。


 リカは知らない。


 しかし、知らないことを恐れているわけではない。


 始祖である彼らがリカに対して物事を多く語らないのも、情報を中途半端にしか与えないのも、今に始まったことではなかった。


 聖女ではあるが、始祖ではない。


 聖女ではあるが、仲間ではない。


 そのような扱いを受けることに慣れてしまっていた。

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