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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第5話 帝国の基盤が崩れる時、革命が起きる

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03-3.帝国を守る英雄は揺らがない

 ……イザト?


 ガーナは確信を抱けなかった。


 声が発せられている場所に座っているのはイザトだ。


 間違いなく、ロヴィーノに対して命令を下しているのはイザトである。


 しかし、声色も口調もなにもかも別人のようだった。


 ……イザトじゃない。


 だからこそ、ガーナは違う人物であると結論付けたのだろう。


 恐る恐る目を開ける。


 既にロヴィーノの関心はガーナではなく、イザトに向けられている。


「それで? 貴方様はどうされたい?」


 ロヴィーノは淡々とした口調で問いかける。


「俺様は貴方様の命令で首をはねるのを止めた。それが現実だ。始祖に命令を下したのならば、その責任を取るべきだ」


 どのような反応を示すのか、試すかのような言葉を続ける。


「当たり前のことだろう?」


 それをわかっていながら、発言をしたのだろうと責めるかのようだった。


「俺様たち、始祖は帝国の為にしか動かないんだから」


 始祖は帝国の為に生きている。


 始祖は帝国の為だけに動いている。


 彼らに指示をできるのは、彼らが認めた帝国の頂点に立つべき皇帝だけだ。


 この場にいる誰もが知っている事実をわざとらしく言葉にしたロヴィーノは、再び、剣をガーナに向ける。


「責任が取れねえなら、黙って泣いてろよ。坊ちゃん。俺様たちは泣き虫坊ちゃんの世話係じゃねえんだからな」


 ロヴィーノの言葉に対し、イザトはゆっくりと立ち上がった。


「立たないで!!」


 ガーナは悲鳴のような声をあげる。


「私は大丈夫だから!」


 それから強引に笑顔を作って見せた。


「私はこんな脅しなんて怖くないんだから!」


 声が震えている。

 今度こそ、斬られてしまうのではないかという恐怖感は強い。


 それでも、ガーナは友人の為ならば強がれる。


「大丈夫だよ、イザト。だって、私は無敵のガーナ様だから!」


 強がりの言葉を真に受けるような相手ではないことは、ガーナもわかっていた。


「僕は」


 イザトが声をあげた。


 ゆっくりと、背後にいるのがガーナであることを確かめるように振り返る。


 その顔は何度も見てきた仮面のような笑顔ではなかった。


 すべてを諦めてしまったかのような顔ではない。


 なにかに抗っているかのような苦痛そうな顔だった。


「僕は、ヴァーケルさんが聖女ではないことを知っているよ」


 ガーナが口にしていた言葉を覚えているからこその発言だったのだろう。


「聖女じゃないから、殺していいなんて、そんなことはないと思うけど」


 困ったように笑って見せた。


 ガーナたちと同い年とは思えない幼い笑顔。それなのに苦痛を堪えているのか、眉間に刻まれた皺がなくならない。


 仮面が壊れてしまったかのようだった。


 壊れた仮面を必死に取り繕うとしているかのような痛々しい姿だった。


「僕は皇帝になりたいわけじゃない」


 イザトは一度も皇帝になることを夢見たことはなかった。


 その身に流れている血を疎んでいた。

 レイチェル家の血が流れているからこそ、殺された両親のことを思わなかった日はない。


「でも、責任はとれるよ」


 覚悟を決めた顔になる。


「僕はレイチェル家の末裔だからね」


 現実を受け入れた顔だった。


 ……イザト。


 ガーナは何も言えなかった。


 ……私の何も言わなければよかったのかな。


 ロヴィーノを挑発するような言葉を口にしなければ、イザトはイザトのままでいられたのではないだろうか。


 ……違う。


 頭を過った考えを否定する。


 ……何も言わないなんて、私らしくもない。


 ガーナは口を閉ざすことはできなかった。


 ……そんなことができるわけがないもの。


 聖女として生きる道を選ぶしかないほどに追い詰められていると知っていながらも、リカを見捨てることなどできない。


 友人を助ける為ならば、なりたくもない聖女の真似をする。


 ガーナはそういう人だった。


 自己犠牲を当然だと思っているような性格だと知っているからこそ、始祖たちはガーナを利用したのだろう。


「レイチェル家の末裔か」


 ジャネットはわざとらしく声をあげた。


「始祖を率いるのには役不足だ」


 求めている答えではなかったのだろう。


「撤回する。聖女は二人いてもかまわない」


 ジャネットの言葉を聞き、ロヴィーノは剣を下ろす。


 そして、ガーナから興味を失ったかのようにイザトの元に歩みを進める。


「坊ちゃん」


「その言い方はやめてくれない? 気分が悪いんだけど」


「それは悪かったなぁ、坊ちゃん。泣き虫坊ちゃん。不正解だらけのかわいそうな坊ちゃん」


 ロヴィーノはからかうような言葉を並べる。


 それに対し、イザトは何も言わない。


「おい、なにしてんだ。仕事しろよ。お飾り聖女殿。坊ちゃんがお飾りたちの為だけに腹をくくったんだ。それなりの誠意を見せてみろよ」


 ロヴィーノの視線はリカに向けられた。


 その視線に気づいたのだろう。


 リカは震えながら、ゆっくりと頷いた。


「イッ、イザト、君」


 リカは震える声をあげる。


「わ、わたし、と、一緒に、きて、くれる?」


 覚束ない足取りだ。


 逃げ出しそうになる身体を必死に抑え込もうとしているのだろうか。

 泣き出しそうな声をしていた。


 それでも涙は零さない。


 泣く資格さえも失ってしまったかのように、リカはイザトに向かっていく。


「リカ」


 ガーナの隣を通った時、ガーナは思わず、リカの名を口にした。


「私も一緒にいくよ」


 思わず、口にしていた言葉だった。


 ガーナの言葉はリカの耳に届いているのだろう。


 リカは足を止めた。相変わらず、視線だけは交わらない。

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