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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第5話 帝国の基盤が崩れる時、革命が起きる

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03-1.帝国を守る英雄は揺らがない

 ……どうして。


 抱いた疑問を口にすることさえもできない。


 ランスロットのやり方は褒められたものではない。


 抵抗することさえもできない学生たちを人質にとれば、始祖は動かないと思ったのだろう。


 帝国の民を守るべき存在であるからこそ、民を傷つけないと思い込んでしまっていた。


 それがランスロットの死因だ。


 始祖たちの存在を否定しながらも、彼らが帝国を守護する存在だと信じる気持ちを捨てきることができなかった。


 ……こんなのは違うよ。


 ガーナは自身の手のひらを握りしめる。


「さあさあ、皆様。特別な授業をしてさしあげましょう」


 アンジュはランスロットの身体を蹴り飛ばし、問いかける。


「アタシたち、七人の始祖はアーロン・ライドローズ・テンガイユリを認めないことにいたしましたの」


 わざとらしく両腕を広げ、語りだす。


「あの男は帝国の皇帝には相応しくありませんもの」


 心の底から残念であると言いたげな表情を作り、アンジュは視線を学生たちに向ける。


 ……私?


 アンジュと目が合った。


 しかし、ガーナには心当たりがなかった。


 ……違う。


 すぐに自分自身の思い込みを否定する。


 ……狙いは――。


 アンジュの視線は僅かに逸れた。


 その視線を追いかけた先に座っているのは、イザトだ。


「それでは、皇帝に相応しいのはどなただと思いますか?」


 問いかけられた生徒たちに動揺が走る。


 アンジュの問いかけには答えが与えられない。


 わざわざ答えを言葉にしなくとも、この場にいる全員が知っている事実がある。


「アンジュ」


 待機をしていたジャネットがアンジュの隣に降りる。


 それに従うようにシャーロット、イクシード、クラウス、ロヴィーノの四人が降り立つ。


「ジャネット様」


「無駄な問いかけは不要だ」


「かしこまりましたわ」


 戦場でも揃い立つことがないとされている始祖たちの姿を目にしたランスロットの部下は次々に両膝を地面につけ、頭を抱えて震えている。


 ……圧巻よね。


 凄まじい存在感に立つことさえもできない。


 思考さえもかき消されてしまいそうな存在を目の前にしても、ガーナはなにもできなかった。


 ……逃げるべき?


 逃げたところでなにもならない。


 ……差し出すべき?


 始祖たちの支持が集まれば、呪われた血筋は高貴な血筋になるだろう。


 帝国の正当な主が戻ってきたのだともてはやされ、利用され、自由を奪われて傀儡のように扱われる。

 それが幸せであるとはガーナには思えなかった。


 ……イザト。


 しかし、イザトは何を考えているのだろうか。


 ガーナはイザトの背中に視線を向ける。


 恐怖に怯えているわけでもなければ、価値を認められる時が来たのだと喜びに満ちているわけでもない。ただ、そこにいるだけだ。


「新しき皇帝をつれていけ」


 ジャネットの言葉は冷たい。


 その言葉に従い、立ち上がる者はいない。


「なにをしている」


 それに気づいたのだろうか。


 ジャネットは呆れたような視線をリカに向けた。


「聖女。お前に言ったのだが」


 そういわれた途端、リカの身体は震えだした。


 ジャネットの言葉に従わなければならないという使命感もあるのだろうが、それ以上に恐怖が勝っていた。


 ……リカ。


 ジャネットはガーナを見ようともしない。


 帝国の聖女はリカであると認識しているようにも見える。


 ……もう一人の聖女は、リカ、だったんだね。


 リカは知っていたのだろうか。


 ガーナが悪夢に魘され続けていることを知りながらも、リカは関係がないと言わんばかりの顔をしていた。


 誰かに守られるのが当たり前であるかのように振る舞っていた。


 それを思い出しても、ガーナはリカに対して怒りの感情を抱けない。


 ……逃げたかったんだろうなぁ。


 リカの性格は知っている。


 友人であるガーナが誰よりも知っている。


 ……うん。きっと、そうだ。


 誰にも言わずに納得した。


 ガーナはゆっくりと立ち上がり、ジャネットたちを見つめる。


「私が本物の聖女よ」


 悪夢を見続けてきた。


 何度も聖女であると言われ、そのたびに、聖女にならないと否定し続けた。


「新しい聖女、ガーナ・ヴァーケル様はここにいるわ!」


 その声にリカが振り返った。


 視線は合わない。


 目を覆い隠すような前髪に隠された目からは涙が零れ落ちた。


「私の方針を教えてあげるわ。私はね。友達を守る為ならなんだってしてあげられるのよ!」


 誰もガーナを座らせようとしない。

 誰もガーナの言葉を否定しない。


「だから、お偉い始祖たちに問いかけるわ!」


 自慢の青色の髪を靡かせ、ガーナは笑顔を浮かべて見せた。


 もしかしたら、この発言が最後の言葉になるかもしれない。


 地面に転がされたままのランスロットの姿を思い返し、震えそうになる。


「貴方たち、私の友達に言いたいことがあるのならば、私を通して言いなさい! もし、嫌がっているのに強制しようとするなら、ガーナ様が許さないんだから!」


 始祖を敵に回すなど正気じゃない。

 先ほどまでガーナもそう思っていた。


「……ガーナちゃんの、バカ」


 風の音にかき消されそうな小さな声だった。


 ガーナの足元で聞こえたリカの声だ。


「バカ? ええ、そうよ! 私はバカなのよ!」


 それに気づいたガーナは豪快に笑って見せる。

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