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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第5話 帝国の基盤が崩れる時、革命が起きる

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02-3.ガーナは聖女の役目を知らない

「これより貴君らは、私、ランスロット・エイプリル大佐の元で皇帝陛下に尽くしてもらう」


 ……皇帝陛下の独断?


 帝国の頂点に君臨する皇帝による行動はすべて許される。

 世間一般的にはそのように捉えられているだろうが、ライドローズ帝国では例外が存在する。


 ……ありえないわ。


 七人の始祖の意思が皇帝と共にないのならば、それは皇帝が反乱を引き起こそうとしていると同じだ。


 ……だって、それは死を選んだだけなのに!


 ガーナは人知れず恐怖に怯えた。


 この騒ぎで目を覚ましたイザトと彼に寄り添うリカは何を考えているのだろうか。くだらないものを見る目をランスロットに向けているだけで何も言わない。


「テンガイユリ家の為?」


 同級生の一人がその疑問を口にしてしまった。


 貴族の子女子息が多く在籍しているA組の半数は無断欠席を続けている状況下でありながらも、出席をし続けているのは国の情勢を正しく知ることができていない貴族の中でも身分や権力が低い家系の者たちだ。


「名を申せ」


 発言を許していないと一方的に言い切り、その命を奪おうとしないのは寛大さを見せつける為か。それとも、発言の一つで命を奪う余裕すらもないのか。


「パーシヴァル・ヴァルキュリアです!」


 同級生、パーシヴァル・ヴァルキュリアは立ち上がり、敬礼をした。


 敵意はないと訴えるかのような仕草を見た男性、ランスロット・エイプリルは露骨にため息を零す。


「子爵家か。……伯爵家以上の者はいないのか。A組は名門家系の人間が多く在籍をしていると聞いたが!」


 ランスロットの声に対し、誰にも応じる者はいない。


 伯爵家以上の者たちは一週間近く姿を見せていない。ランスロットたちによる襲撃を免れる為なのか、それとも、別の目的に巻き込まれているのか。


 この場に残る生徒たちの多くは何も知らない。


「伯爵家以上の人間は一人残らず逃げたか」


 それを理解したのだろう。


 忌々しそうに吐き捨てた。


「着いてこい。勇敢にも逃げずにいた貴様らに居場所を与えてやる」


 ランスロットは背を向け大股で歩き出す。


 それに従わない者はその場で斬り捨てることが許可されているのだろう。


 各々、武器を構えた軍人たちに無言で行動を迫られる。


 ……嫌な予感がする。


 酷い頭痛がする。


 ……ライラ。大丈夫かな。


 アクアライン王国の使者と面会をしてくると言い残したライラの姿は教室にはない。ランスロットの独断による軍事行動でなければ、王国を味方につける為の人質にされている可能性もある。



* * *



 ガーナたちは校庭に並ばされた。


 中等部、高等部のすべての教室が襲撃されたのだろう。


 広々とした校庭の中央に集められた人数は百数名だ。全校生徒の一割程度しか集まらなかった。


 ……連絡が間に合わなかったのかな。


 それとも、ガーナのように平民生まれの生徒ばかりなのかもしれない。


 皇帝であるアーロンが率いる軍部による襲撃を事前に知っていたかのように名門貴族の出身者は一人もいない。


 どの家門もアーロンの行動を支持していないのだろう。


「これより貴様らは――」


 ランスロットの言葉を遮るように爆発音が鳴り響いた。


 反射的に耳を抑えてしまったのはガーナだけではない。中には驚いて腰を抜かしている生徒もいる。


 それを叱るべき教授たちも想定外の出来事だったのだろう。

 多くの教授たちは狼狽えてしまっている。


「武器を構えろ!!」


 爆発音が鳴りやまない中、ランスロットの声が響き渡る。


 それに何とか応じて見せた軍人たちの表情は一瞬で曇っていく。指示をされた通り、武器を構えたものの、次の行動に移せない。


 ……上?


 空を仰いだ姿勢のまま、軍人たちの動きは泊まっている。


 それに気づいたガーナも空に視線を向けた。


 ……空が割れてる。


 フリアグネット魔法学園を中心とした学園都市には、古代魔術で構成をされている巨大な防護壁が存在する。


 結界と呼ばれている半透明の青空は破られた。


 亀裂を修復する機能が停止をしているのだろうか。

 それとも、古代魔術を上回る力で破壊されたのだろうか。


 学園都市を覆っていた半透明の膜は爆音と共に消え去った。


 ……あれは。


 人影だ。


 魔力を循環する仕組みが組み込まれたことにより、空を飛ぶ夢を叶えた箒に跨るのは僅か六人だった。


「なにをしている! 撃ち落とせ!!」


 姿を現した人影がなにかを告げる前にランスロットは命令を下した。

 その命令に従おうとするものの、震えた手では引き金を引けない。銃剣を構える者たちの手は震えてしまっている。


 ランスロットはそれに気づいたのだろう。


 大げさな舌打ちをした。それから自身の剣を鞘から抜き、剣先を空に向ける。


「【火の鳥よ。襲撃せよ】」


 創作魔法(オリジナル・マジック)ではない。

 魔導書に記載されている有名な火属性の魔法だ。才能さえあれば誰でも使える火属性の魔法を唱え、ランスロットは剣に魔力を込め続ける。


 剣先から出現した火を纏った鳥たちは一直線に向かって行く。


 それは現れた軍勢を焼き尽くすことはなかった。水をかけられたかのように一瞬にして蒸発してしまう。


「これは反逆行為だ」


 聞いたことのないはずの声だった。


 それなのにもかかわらず、ガーナはその声の主を知っている。


 ……ジャネット。


 シャーロットの姿を追いかけた日と同じ感覚に陥る。


 ……貴方が姿を現すなんて。


 人影は急降下を始めた。


 それに合わせるかのように空から人々が降りてくる。


 それはまるで神話を再現しているかのような光景であり、ランスロット以外は彼らに攻撃をすることさえもできなかった。


「我々はアーロン・ライドローズ・テンガイユリを皇帝として認めない」


 ジャネットの言葉は始祖の意思だった。


 地面に足を付けた彼らに武器を向けている軍人たちの表情は暗い。恐怖に怯え、今すぐ武器を投げ捨てて命乞いをしてもおかしくはないほどに震えていた。


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