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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第5話 帝国の基盤が崩れる時、革命が起きる
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01-1.革命の末に笑うのは誰だ

* * *



「――報告、ご苦労だった」


 千年以上も昔から引き継がれてきた王座に座る皇帝、アーロン・ライドローズ・テンガイユリはため息を零した。


 帝国を治める為には始祖たちの協力が不可欠である。


 アーロンの父親にあたる先代皇帝は始祖の意思に背いた為、四十七年前に惨殺された。先代皇帝の意思を継ごうとする者は死に絶え、当時十四歳だったアーロンが皇帝に選ばれた。


「なぜ、上手くいかないのだろうな」


 アーロンは四十七年間、皇帝として帝国を守ってきた。


 始祖たちの不穏な行動を報告した部下を下がらせ、頭を抱える。


 ……お飾りと笑われるわけだ。


 テンガイユリ家は帝国を治める皇族だ。千年前、帝国を守護する為に立ち上がった英雄たちが暗躍する為のお飾りであると他国から笑われながらも、その地位を手放さない為に必死になってきた一族である。


 先代皇帝は一族の在り方を否定した。


 始祖を排するべきだと主張し、帝国は人が治めるべき大国であると国民に訴える準備をしている最中、惨殺された。


 その光景をアーロンは一日たりとも忘れたことがなかった。


「宰相たちを呼んでくれ」


 アーロンの言葉に頷いた側近は素早く連絡をしている。


 ……見逃されていただけだ。


 目を閉じる。


 長い年月を生きている始祖たちがなにを企んでいるのか、アーロンは知らない。帝国の為に生き続けることを選んだ英雄たちの考えを知ろうと足掻いたことはあったものの、一度も理解をすることはできなかった。


 ……四十七年か。


 彼らと過ごした日々を思い返す。


 先代皇帝の代から引き継いだ平和を保ち続けることができたのならば、アーロンは操り人形のような皇帝で居続ける道を選んだことだろう。


「陛下」


 側近に呼ばれた宰相たちに呼ばれ、目を開ける。


 帝国の軍事力を維持するのは七人の始祖たちだ。彼らに対抗する勢力として先々代皇帝が独自に作り上げた騎士団の団長と目が合う。


 ……軍に対抗する勢力としては弱すぎだろう。


 勝ち目がないことはわかっている。

 それでも、帝国の未来を考えると始祖たちの行動を黙認しているわけにはいかなかった。


「諸君。よく集まってくれた」


 軍部の大半は機能しないと考えるべきだろう。


 それならば、情報が漏れることを防ぐ為、軍部を切り捨てれば勝率が高まる。


「始祖がテンガイユリ家を裏切り、レイチェル家の血筋を復活させようと企んでいる」


 アーロンの言葉に動揺する者はいない。


 先々代皇帝の頃から始祖たちの動きを危険視する声があった。一部の貴族たちの中からそのような声が上がり始めたのは、百年前、聖女の裏切り行為が発覚した以降だった。


「帝国は帝国民の国である。人間の国でなければならない」


 アーロンは感情のままに話しているわけではない。


 このような状況に陥る時には相応しい言葉を口にしなければならない。少しでも勝算がない戦いだと悟られてしまえば、簡単に離れて行ってしまうだろう。


「千年前の英雄には退いてもらわなければならない」


 なにも思わないわけではない。

 始祖たちの力を行使することにより、帝国は大国になったのは事実だ。


「我らが帝国には英雄は不要である」


 それでも、アーロンは宣言をした。



* * *



 ライドローズ城で行われているアーロンの宣言は傍聴されていた。


 始祖たちにより大々的に行われた革新派の粛清を信じているのだろうか。

 傍聴されていることを前提としながらも、堂々とした宣言をするアーロンの声に耳を傾ける。


「ジャック」


 傍聴した音声を録音していた二十代後半の青年、ジャック・アイビー・ジューリアは顔を上げる。


「丸聞こえですよ」


 指摘され、革新派が所有する屋敷中に響いているのではないかと思ってしまうほどの大音量だったということに気付いたのだろう。反省の色を見せないジャックに対し、レインは大きなため息を零す。


「ジューリア公爵に怒られても俺は知りませんからね」


「釣れないことを言うなよ。一緒に怒られようぜ」


「冗談でしょう? 俺は好んで怒られるようなことはしませんよ」


 世間ではジューリア公爵家、フリークス公爵家ともに中立派として名を知らしめていることだろう。それを疑わないのは情勢を知らない者たちだけだ。


 ……ここまで変わらないものなのか。


 ジャックの隣の椅子に座る。

 指摘された通り、音量を下げているジャックはレインに見られていることを気にもしていないようだ。


 ……記憶というのは恐ろしいものだ。


 ジャックはリンの兄だ。


 レインにとっては十歳上の従兄だ。直接、関わりを持つようになったのは僅か一か月前であるのにもかかわらず、ジャックは当然のようにレインを古くから知っている友人として受け入れてしまった。


「それより、聞いたか?」


 ジャックは鼻歌を歌いそうな勢いだった。


「革新派の名称を改めると言われたんだ。他でもないジャネット様から!」


 始祖が関わると目の色を変えるのは兄弟共通だろうか。


 そのようなことをレインが考えているとは思ってもいないのだろう。


「俺たちの考えは正しかった。七百年越しに認められたんだ!」


 傍聴していた音声は途絶えた。


 会話が終わったのだろう。


 それにも気づかないほどにジャックは興奮していた。


「大声を出さなくても聞こえています。それから興奮するのは恥ずかしいので止めましょう。見た目が悪いですよ」


 レインは大人びたような声を出していながらも、表情は緩んでしまう。


 一か月ほど前までは知らなかったはずの記憶がある。ジャックと同じように興奮をしてしまいそうになる自分自身を抑えるのは大変なことだった。


「興奮だってするだろ!」


 ジャックには前世の記憶がある。


 七百年前の記憶だ。帝国の正義はレイチェル家にこそあるのだと主張し、革命を引き起こそうとした戦いの日々の記憶である。


「ジョン!」


 ジャックはレインの肩に腕を回した。


「俺たちの正義だ。今度こそ英雄に肩を並べる時が来たんだ!」


 それは七百年前に果たすことができなかった彼らの正義だった。


 英雄に憧れる子どもが夢見た日々だった。


「もちろんです。アイビー。今度こそ俺たちの夢を叶えましょう」


 レインが口にしていた名はジャックの前世の名だった。


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