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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第4話 裏切り聖女は革命を望まない
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07-1.それは聖女の仕掛けた罠だった

* * *



「……うぐっ」


 身体を揺らされて目を覚ます。


「ガーナちゃん! ガーナちゃん!! しっかりしてくださいませ!!」


 眼を開けていることに気付いていないのだろうか。ガーナの肩を掴み、必死に、起こそうとしているライラは、力を弱める事無く揺らし続ける。


「ガーナちゃん!!」


 見た目に似合わぬ怪力である彼女の力は、ガーナの肩を握り潰しそうな勢いで込められていた。


「ガーナちゃん!! 起きて下さいませ!」


「うぐっ」


「目を開けてくださいませ!!」


 ……起きてるってば!!


 夢を見ていたのだ。


 先ほどまで見ていた光景は、夢だった。


 ……寝起きだからかな。うまく、声が出ない。


 一か月前のあの日以降、聖女に関係する記憶を夢に見るようになってから、度々、意識を手放すようになっていた。それを説明することも出来ず、時間が過ぎていった。


 ……心配かけたくないのに。


 隠し事は無しにしよう。


 交わした約束を守ることは出来なかった。


 ……巻き込みたくないのに。


 誰よりも大切な親友であると自信を持っているからこそ、これ以上は巻き込めない。誰かを不幸にする可能性が消えていない現実を思い出せば、ガーナは、恨まれるのを覚悟で黙ることにした。


 もっとも、そんな考えはライラにも見破られてしまっているだろう。


 気付きながらも、指摘せずに傍に居てくれるライラに心から感謝をしていた。


「いたああああああああいっ!! ちょっと、ライラ! 私の肩! 粉砕するわよぉっ! 起きたから起きましたからぁっ! 痛いのっ! 痛いのっ!!」


「起きましたのね! 急に倒れられるから、心配しましたのよ!」


「心配かけてごめんね! でもね、ライラさんよ。そーんな凄い勢いで抱きしめられたらぁ、私、死んじゃうわ! 別の意味で倒れちゃうってばぁっ!」


 怪力の持ち主であることを自覚していないライラの眼には、涙が浮かんでいた。それに気づいて、少しだけ離れたライラの頭を撫ぜる。


 柔らかい髪質に触れる。


 ほんのり香る柑橘系の香水は、お揃いの香水だった。


「だって、私、心配いたしましたのよ……!」


「うん。ごめんねぇ、ライラ」


「もし、目が覚めなかったらって……」


 ライラの必死の訴えに対し、ガーナは頷いた。


「うん、うん、ごめんねぇ。私は大丈夫よ。最近、よく眠くなっちゃうだけだからね」


「でも、魘されていましたわ!」


「え? 魘されていたの? ……怖い夢じゃなかったんだけどねぇ」


 ガーナは困ったように笑った。


 魘されている自覚はなかったのだろう。


「私は大丈夫よ」


 その言葉に安心感を抱けないのだろう。


 ライラは不安そうな表情を浮かべていた。


「ところで、リカはいないの?」


 部室を見渡す。


 少し離れた椅子に座りながらも暗い表情を浮かべているリンと、興味ないのか本を読んでいるイザトはいたものの、リカがいない。


「まさか、あの子、迷子になったんじゃないでしょうねえ」


 部室に向かう際中、教室に忘れ物を取りに行ったまま、まだ戻っていないのだろうか。


「リカちゃんなら今日は用事があるそうですわよ」


「そうなの?」


「はい。先ほど、ローズマリー教授から伝えられましたのよ」


「そうだったのねぇ。ユーリちゃんも帰っちゃったの?」


「ええ。緊急のお仕事があるのだとおっしゃられていましたわ」


 ライラは椅子に座り直す。


 それから鞄の隣に置いてあった箱を手に取った。


「ローズマリー教授から預かりましたの」


「えー、なんだろ? 開けてみていい?」


「大丈夫だと思いますわよ。ガーナちゃんに渡してほしいと言っておりましたもの。随分と古いもののようですが、心当たりはございませんか?」


「うーん。ないのよねぇ」


 ……古そうなのよね。


 箱を振ってみるが音はしない。

 片手に乗る小さな箱を購入した覚えもなければ、教授に預けているものもない。


「ダメだ!!」


 ガーナは首を傾げながら箱を開けたのと同時だった。

 本を読んでいたはずのイザトの声が部室に響く。


「え?」


 箱は開けられてしまった。


 中には古びた銀色の指輪が入っているだけだった。


「今すぐ閉じて!」


「ええ? なんでよ? 普通の指輪よ?」


「良いから!!」


「え、嫌よ。まだちゃんと見てないんだから!」


 イザトの様子がいつもとは違った。

 立ち上がり、強引にガーナの手から箱を叩き落とす。


「ああ!! ちょっと! 預かりものよ!?」


 床に転がった箱から指輪が転がり落ちる。


 慌てて拾おうとするガーナに対し、イザトは箱を蹴り飛ばした。


「あんなものをどこで手に入れたの?」


「知らないわよ。ユーリちゃんから受け取ったってライラに言われたの! もう! なにしてるのよ。イザトらしくない。あっ、ちょっと! 指輪も蹴ったでしょ!? 探さなきゃいけないじゃない!」


 銀色の指輪が消えていた。

 ガーナは反射的に頭を抱える。それを呆然とした表情で見ていたライラは何度も瞬きをしていた。


「あの、もしかして、呪われた品だったのでしょうか……?」


「そうだよ。あんなものを手にしていて、なんともなかったの?」


「ええ、なんともございませんわ。……もしかして、ガーナちゃんが意識を手放してしまったのはあれが原因でしょうか?」


「それはどうだろうね。僕にはわからないよ」


 イザトは興味がなくなったかのように距離をとった。

 それから先ほどまでいた場所に戻っていく。


「呪われているの? あれ」


 ようやく理解をしたのだろう。


「どっか行っちゃったんだけど。これって、部室が呪われちゃったんじゃないの?」


 ガーナの言葉を聞き、イザトは動きが止まった。


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