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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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09-5.物語の裏側には悪役が潜んでいる

「どうか、私に――」


「シャーロット」


 墓に縋るような言葉を遮ったイクシードに視線を向ける。


 なにを考えているのかわからないイクシードの目は真っすぐにシャーロットに向けられていた。


「意味ねえことをするんじゃねえよ」


 迷うことなく、シャーロットの行動を否定するのはギルティアだけだろう。


「何かに縋りつきてえだけなら俺がいてやるからよォ。それで満足しろよ」


 シャーロットの腕を強引に掴み、起たせる。


 それに対し、シャーロットは眉を潜めた。


「ギルティアに願っても変わらないだろう」


「中身のねえ墓に縋るよりはいいだろォ?」


「中身はある。形だけの墓ではないからな」


「千年も昔の骨なんて溶けてるだろ」


 イクシードの言葉に対し、シャーロットは何も言わなかった。


 ……そういうものではないのだが。


 墓の中身を暴いたことはない。今後も暴くことはないだろう。


 ……縋りつくのは何十年以来だっただろうか。


 シャーロットは掴まれた腕を振り払い、墓に背を向けて歩き始める。


「軍に向かう」


「へいへい。これから忙しくなりそうだよなァ」


「そうだな。休む暇もないだろうな」


「はは、そりゃあいい。久しぶりに暴れられるんだろォ?」


 イクシードはシャーロットの肩に腕を回す。


「当然だ。国を巻き込むのだからな」


 それを気にすることもなく、シャーロットは笑った。


 先ほどまでの表情が抜け落ちた人形のような様子はない。それを不気味だと指摘する人もおらず、二人は懺悔の塔を立ち去って行った。



* * *



 翌日、フリークス公爵家の当主が行方をくらましたことが新聞に大々的取り上げられていた。


 各地では始祖に関する人々の死が増え始め、帝国中に始祖に対する恐怖心が広がっている。


 イクシードは墓地を訪れる前に購入した新聞を読み、退屈そうな表情を浮かべていた。そして新聞に火をつけ燃やしてしまう。


「何をしている」


「よォ、クラウス。遅かったじゃねえかァ」


「質問に応えろ」


「はは、怒んなよ。くだらねえことばかりが書いてある紙を燃やしただけだろォ? そんなに気に障るようなことは何もしてねえよ」


 イクシードの背後に立つクラウスは眉を潜めた。


 それから視線を墓地の中を駆け回っている紅色の髪をした少女に向ける。年齢は五歳くらいだろうか。


 子ども用に仕立て上げられた可愛らしい桃色のドレスに身を包み、花が咲くような笑顔を浮かべている。


「……本物か」


「疑わしいなら確認すればいいだろォ?」


「見ればわかる」


「気持ち悪いなァ、クラウス。シャーロットが距離を取らせようとするわけだぜ」


「貴様にだけは言われたくはない」


「はっ、冷めたこと言うんじゃねえよォ。似たようなもんだろォ?」


 イクシードは愉快そうに口角を上げた。


「アン。おいで」


「はあい。お母様」


「花をあげてくれ」


 シャーロットの足元に駆け寄っていった少女、アントワーヌは渡された花束を抱き締める。小さな身体には不釣り合いな大きな花束を持って目の前の墓に運ぶ。


「……アントワーヌ嬢」


 クラウスは意を決したように声をかけた。


 花束を墓石の前に置いたアントワーヌが振り返る。


「クラウス様!」


 その目は希望に満ち溢れ、幸せそうなものだった。


 シャーロットの様子を窺うこともせず、シャーロットの隣に立っているレインに目を向けることもなく、クラウスに抱き着いた。


「迎えに来てくださりましたのね!」


 アントワーヌの言葉に対し、クラウスは否定をしようしたが、口を閉じた。


 それからまだ幼い姿をしたアントワーヌが生きていることを確かめるように抱き上げた。


 頬が赤くなったアントワーヌは恥ずかしそうに眼を反らす。


 なにもかも幸せだった時に戻ったかのようだった。


「クラウス。私の娘に手を出すのは早いのではないか?」


 からかうようにシャーロットは口を開いた。


「抱きしめるだけにしてくれよ。ろくでもない噂で新聞の一面を飾りたくはないだろう?」


 墓に水をかけるのを止め、シャーロットは歩き始める。


 それに慌ててついていくレインの姿を見たクラウスは目を見開いた。


「ジョンか?」


「……そうですが。なにか問題でもありますか?」


「なぜ、記憶がある。お前は記憶だけはなかっただろう」


 クラウスに抱きしめられているアントワーヌは不思議そうな顔をしていた。


 クラウスの言葉の意図を理解していないのだろう。


「方法はいくらでもありますよ」


 レインは呆れたような眼を向けていた。


「それから勘違いしないでください。俺はレインです。前世の記憶を取り戻したことを除けば、何も変わってはいませんよ」


 それだけ言い残し、シャーロットの後を追いかけていった。


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