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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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09-2.物語の裏側には悪役が潜んでいる

「愛する人の為ならばなんだってできるものなのだと言っただろう」


 シャーロットの言葉は綺麗事だ。

 クラウスもそれを理解しているのだろう。


「……アントワーヌ嬢の為ならば」


 クラウスは差し出された紙を手に取る。


 そして、それに魔力を流し込めば光を放ち、天に昇っていた。


「貴様ならばそういうと信じていた」


 シャーロットは墓石に背を向けて歩き始めた。


 そこに眠り続けるフリークス公爵家の人々に背を向けるかのように感じさせるのは気のせいだろうか。迷うことなく目的地に向かっていくシャーロットの背中を見つめていたクラウスは複雑そうな表情をシャーロットに向けた。


「シャーロット」


 歩みを止めないシャーロットを引き留めようとしているかのようだった。


「お前の願いはあの頃のままか」


 クラウスは拳を握りしめる。


 ジャネットたちが企んでいる【帝国再生計画(プロジェクト・リプロダクション)】は多大な犠牲を伴う大規模魔術である。


 改悪された状態のまま放置されていた【物語の台本(シナリオ)】を基礎として再利用することにより、新たな呪詛【帝国再生魔方陣エンパイヤ・リプロダクション】を帝国中に広めることにより、レイチェル家の復興と始祖たちだけが知っている千年前の帝国を取り戻すことを主な目的とした魔術だ。


 それは時代の流れに逆らう行為だ。


 発展を拒むことによる進歩はあり得ない。


 それが世間に知られてしまえば、始祖の在り方に対して疑問を抱く者が現れるだろう。そして革命が引き起こされることだろう。


 それすらも始祖たちの掌で踊らされているだけなのだと知らず、革命を掲げる人々は帝国の為になることだと信じるのだろう。


「応えろ。シャーロット」


「意味のない問いかけだな、クラウス・ローリッヒ」


「なによりも重要なことだろう」


 クラウスはシャーロットの真意がわからなかった。


 初めて出会った時からシャーロットの真意は不明なままである。


「だからこそ、意味がないと言ったのだ。千年の月日を得ても、変化を知らない願いを聞くのは無意味な行為だと思わないか?」


「……そうか」


 クラウスはジャネットたちの企みを知っていた。


 千年前の延長に過ぎない彼らの在り方を壊そうとするかのように繰り広げられる革命の火種を消す日々も、隣国の脅威に怯える国民たちの闘志を焚きつけ、繰り返される終わりの見えない戦争も、すべては【物語の台本(シナリオ)】に記されているからこそ引き起こされる現象の一つだ。


「大前提が間違っている。私の願いは千年の月日で薄れるようなものではないのだよ」


 これは、欲望に取りつかれたまま、人間としての在り方を捨てた始祖たちの暴走だ。


「アントワーヌ嬢とジョンはお前の再現だと思わないか」


「いいや、あの子たちは私の可愛い子どもだ。私のように生きることはない」


「革命に翻弄されるのはお前も同じだっただろう」


 シャーロットは歩みを止めた。


 それから視線をクラウスに向けた。


「勘違いではないか? 千年前の革命は私の手で終わらせただろう」


 始祖となる前の日々の思い出は掠れている。


 生きている年月が長いからだろうか。


 帝国に関する膨大な知識と歴史を忘れない為には、個人的な記憶は追いやられてしまう。


 個人的なことに関して記憶力が乏しいのはシャーロットだけではない。


 始祖となった者たちの半数以上が大切にしていたはずの日々の思い出を手放している。手放したくはないと足掻くことを諦めてしまったのは何百年前の出来事だったのか、思い出せない。


「母親に振り回されるのは同じではないか」


「そうだな。そういう意味では同じような道を歩んだと言えるだろう」


 母親の影響下にあり、人生を翻弄された。


 それはシャーロットも、ジョンも、アントワーヌも同じだろう。


「だが、明らかな違いがある」


 クラウスから視線を逸らす。


「私は両親を殺したが、あの子たちは私を殺そうとすら思わなかった。それはあの子たちが私の再現ではない証拠だと思っているよ」


 シャーロットは淡々と語った。


 そして、再び歩き始めた。


 クラウスも納得したのだろうか。シャーロットを追いかけるように歩き始めた。



* * *



 薄暗い塔の中に入っていく。


 長い歴史を誇るフリークス公爵邸の中でも、もっとも年月が経っている懺悔の塔と呼ばれる場所に明かりが灯る。


 慣れた足取りで螺旋階段を降り、地下へと向かう。始祖であるシャーロットが祀られていると信じられている懺悔の塔の地下には三つの墓がある。公爵家の人々が眠る墓に眠ることが許されず、存在そのものを隠すように並んでいる三つの墓を取り囲むかのように複雑な魔方陣が描かれていた。


「ギルティア」


 シャーロットの呼びかけに応えるように儀式の準備を進めていたイクシードが振り返った。その手には顔が変形するほどの暴力を振るわれ、血を流し、意識を手放そうとしている男性の髪が握られている。髪を引っ張られる形となっているのにもかかわらず、抵抗すらも出来ない男性の目は虚ろだ。


「遅かったなァ」


 生贄として殺されるのだろう男を拘束したのは、イクシードだった。


 魔方陣を完成させた後、暇つぶしとして男を甚振っていたのだろうイクシードの言葉に対して、シャーロットは満足げに微笑んだ。


「そうか。予定よりは早かっただろう?」


「そうでもねェよ。見ろよォ、遊びすぎて死んじまいそうだぜ?」


「ギルティアが手加減をしなかったからだろう。治してやれ」


「はは、いいのかよ? まァた、暴れるぜェ?」


「構わない。抵抗の一つも出来ないようでは退屈だろう?」


 捉えられている男はフリークス公爵家の当主だ。


 シャーロットの言葉に対し、イクシードは口角を上げた。髪から手を離し、魔方陣の中央まで蹴り飛ばす。身体が打ち付けられ、痙攣をし始めた胴体に足を乗せる。


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