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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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08-5.世界は優しくはない

「“罪の中で眠れ”」


 抵抗する時間も与えられず、二人の身体を半透明の刃が貫く。


「“罰の中で溺れろ”」


 その刃はライラの意識を簡単に奪ってしまった。


「“罪深き者の名を隠せ”」


 背中の傷は嘘のように塞がり、なにもなかったかのように服に染みついていた血も消えてしまっている。


 それは神聖ライドローズ帝国時代から独自の発展を遂げてきた魔術だった。


 語りかける言葉に魔力を乗せ、様々な効力を持たせることができる魔術であり、一般的に使われてきた古代語を用いた魔術と区別する為、呪詛と呼ばれてきた。どちらとも、現代では使える魔法使いや魔女は少ない技術である。


「“その血に流れる罪の名を忘却せよ”」


 ガーナは何度も瞬きをする。


 半透明の刃で身体を貫かれたものの、痛みはない。ライラのように意識が刈り取られることもない。呆然とした表情のまま、動くことはできない。


 ライラを守るようにして抱きしめている姿は痛々しいものだった。


「一時的な処置を施した。これで満足したか?」


 シャーロットはライラの首元から指を離す。


 なにが起きたのか、理解をしていないガーナは頷くことしかできなかった。機嫌を損ねてしまえば、今度こそ命を奪われてしまいかねないと判断をしたのだろう。


「はああ、めんどくせえなァ」


 イクシードは大げさなため息を零す。


 それからシャーロットにレインを押し付け、ガーナの目の前に立つ。


「呪ってやるほどのことでもねえだろォ?」


 ガーナは意識を手放しているライラに触れようとするイクシードの手を払い除けた。


 反射的に拒んだのだ。


 それにはガーナ自身も酷く驚いた表情を浮かべていた。


「なんだァ。反抗的な態度じゃねえかよォ」


 イクシードは気に入らなかったのだろう。


 威圧的な声をあげた。


「ギルティア」


「なんだよ」


「時間だ。そこまでにしておけ」


「あ? ……命拾いをしたなァ? また反抗的な態度をしてみろ。その首をへし折ってやるからなァ」


 イクシードの言葉に対し、ガーナはなにも言わなかった。


 無言で見つめている。


 それはイクシードの言葉の真意を探っているようであった。


 イクシードとシャーロットの会話に割り込むことはできなかった。


 シャーロットは唖然としているガーナに視線を向けたが、すぐに反らしてしまった。幼少期から慕ってきた兄の本性を垣間見てしまったガーナの心情は、揺らいでいることだろう。


「英雄の一人だということなのでしょう。なによりもシャーロットの魔術の効果を半減させる呪いがかかっていますわよ。アナタがかけたのではないのですか?」


「いいや、私は厄介な魔術は好まない」


「どの口がそれを言いますの? ……それでしたら、これはかの有名な大預言者が施した魔術の残り香ということでしょうか。研究者に渡せば喜びそうですわね」


 アンジュは興味深そうにガーナを見る。


 ……予言者か。


 アンジュが口にする大預言者には心当たりがあった。その存在に対し、畏怖や尊敬ではなく、懐かしみを覚えているのはシャーロットだけだろう。


「解き明かせるだけの才能を持った者はいないだろう」


「例え話ですわよ、シャーロット。その手の研究に関しては誰よりもあなたが優れているでしょう。見覚えがあるのではないですか?」


「いや、初めて見る呪いだ」


 アンジュの言葉に対し、シャーロットは関与を否定した。


 ……魂を巻き込んでいる。


 それは魂を縛り付ける呪いのようだった。


 ガーナの頭の中を覗き込めば、解呪することもできるだろう。


 ……懐かしい。


 シャーロットはその呪いを知っている。


 それに懐かしさを抱くのは、記憶の奥底に追いやられてしまった幼い頃の日々によるものだろう。


 始祖になる前の懐かしい日々を思い出させる魔力だった。


 帝国の為に生き続けなくてはならなくなった忌々しい呪いだった。


「アンジュ。二人を連れていけ」


「アタシを使いますの? 高くつきますわよ」


 冗談を口にするアンジュに対し、シャーロットは冷めた目を向けた。


 それに対し、困ったように笑いながらアンジュはガーナとライラの身体を抱きかかえる。帝国民の女性の平均身長よりも低いアンジュだが、自身よりも背が高いガーナとライラを簡単に両腕で支える。


 運びにくかったのだろう。


 抱え直した二人の上半身を肩にかけるようにして運んでいく。ガーナの足が地面を擦っていてもお構いなしだった。


 それは異様な光景だった。


「こいつはどうするんだァ?」


 イクシードは捕獲していたレインを腕の中から解放する。


 けがはしていないものの、汚いものに触られたと言わんばかりにレインはイクシードが触れていた箇所を容赦なく手で叩いていた。


「連れて行くわけにはいかないだろう」


 シャーロットはレインにゆっくりと近づく。


「ギルティアを汚れもののように扱う癖は、変わらないのだな」


「触られたくないものでして」


「そうか。それはしかたがない」


 シャーロットは注意をしない。


 それどころか、レインの主張を肯定した。それに対し、イクシードだけが不満そうな顔をしていた。


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