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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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08-3.世界は優しくはない

「すばらしい才能ですわね。褒めてさしあげましょう」


 アンジュは素早くよけていた。


 ガーナの拳が振り下ろされた地面には穴が開く。その凄まじい衝撃を体に受けていれば、アンジュとはいえ無傷ではすまなかったはずだ。


「教育的指導をしてあげますわ」


 振り下ろされた拳を避け、アンジュは待っていたと言わんばかりにガーナの左腕を掴み、地面に叩きつける。


「左腕と右腕、どちらにしましょうか」


 視線はライラに向けられている。


 痛みを堪えながらも、必死に起き上がろうとしているライラを見て、アンジュは笑っていた。


「お嬢さんたちが大好きなギルティアに決めてもらいましょうか?」


 その言葉に思わず、ガーナは顔をあげ、イクシードを探してしまう。


 アンジュの一歩的な暴力を見ているだけのイクシードは面倒そうな表情を浮かべていた。


 助けるつもりはないのだろう。


 それだけでガーナの心は曇っていく。


「にい、さ……」


 それ以上、言葉にならなかった。


 ……ライラを助けなきゃ。


 今はイクシードのことを気にしている場合ではない。


 アンジュがガーナを苦しめている間、ライラは傷つかない。少なくとも外傷が増えることはない。なんとか立ち上がろうとしているライラに視線を移す。


 ……お願い、ライラ。もう立たないで。


 圧倒的な力だった。


 一方的な暴力だった。


「両腕と両足を折っちまえよ」


 イクシードの答えは残酷だった。


 提案されたものよりも残酷な答えを出したイクシードの表情は退屈そうだ。


 なにもせず、見守っているだけだったレインを捕まえているだけだ。いつの間に捕獲されたのか、ガーナにはわからなかった。


「まあ、それは最高の提案ですわ」


「痛いッ!! やだ、やだ! やめてっ!!」


「あら、嫌なのですか? 困りましたね。アタシ、その声には応えようとは思えませんのよ」


 アンジュのお気に召したのだろう。


 ガーナの左腕を引っ張っていく。伸ばしたまま、背中に向けて折りたたもうとする。ガーナの抵抗をする声も悲鳴も気にする素振りを見せない。


「ガーナちゃんから手を離しなさい――!!」


 ライラの声が響き渡る。背中の痛みに堪えながらもなんとか立ち上がり、必死にガーナの元に向かおうとする姿は痛々しいものだった。


 それを待っていたかのようにアンジュは笑った。


 ここには彼女たちに同情をする者はいない。


 二人の少女を助けようと手を差し出す者もいない。


 レインだけはこれ以上は見ていられないと言わんばかりに両目を固く瞑り、俯いてしまっていた。


「異国の王女のお望み通りに離してあげますわ」


「いっ!? いぎゃあああああっ!?」


 一瞬だった。


 ガーナの両腕が飛んだ。血が飛び散り、視界を過るのが自分自身の腕だと認識をするのは一瞬だった。激しい痛みに悲鳴を上げる。


 地面に落ちている腕は動かない。


 それをシャーロットは魔術で浮かばせ、ライラの顔に衝突させた。避けることができなかったライラはガーナの両腕を顔面で受け止める形となり、再び、姿勢を崩す。それでも、血に塗れたガーナの両腕を抱き締める。


「アタシは手を離してあげましたわ。あら、今度はお嬢さんがその手を持っているではないですか! 大事に抱えていてもなにも意味がありませんわよ?」


 ライラの眼から希望が消えていなかった。


 大粒の涙を流しながら、苦しんでいるガーナを救い出す方法があるはずだと信じているのだろうか。


「出し惜しみはお止めなさい、お嬢さん。これは警告ですわ」


 アンジュはライラを煽る。


 その言葉はライラの心を揺さぶると知っているかのようだった。


「アタシが英雄の成り損ないを殺してしまう前に動くべきだと思いますわよ! 貴女が何よりも大切にするべきものを理解しているのならばね!」


 ライラの真っすぐな目が気に入らないと言わんばかりの表情を浮かべるアンジュは煽るのを止めない。


 ……なにが、目的なのよ。


 激しい痛みが徐々に和らいでいく。


 苦しませないようにと痛みを麻痺させているのはアンジュだ。ガーナを踏みつけている足から流し込まれている魔力は温かく、優しいものだった。


 ……矛盾している。


 標的はガーナではなく、ライラのようにも見える。


 ……答えを見つけなきゃ。


 両腕を切り取られた痛みは麻痺してしまっている。


 しかし、両腕がなくては立ち上がることは難しい。


 懸命に両足を動かし、立ち上がろうとして見るのだが、アンジュの足が背中から退くことはなかった。


「……ガーナちゃんを返してください」


 ライラの声が震えている。


 ガーナの両腕を左腕で抱き締めながらも、その足取りは力強い。アンジュとの距離を近づけるライラを妨害するものはいなかった。


「私の大切な親友を傷つけないで」


 ライラはアンジュの目の前に立つと、勢いよく、アンジュの頬に平手打ちを喰らわせた。


 ……わざと避けなかった?


 避けられたはずである。


 攻撃を予知することも出来ただろう。


「あはっ、あはははははっ!!」


 アンジュは大笑いをしていた。


 まるで目的を達成したと言わんばかりの笑い声と共にガーナの背中から足を下ろした。


「帝国の英雄に対して暴力を振るいましたわね? それも、たった一人の帝国民を守る為だけに! これほどにおかしいことはありませんわ!!」


 アンジュはライラに対して両腕を伸ばす。


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