05-2.彼女は物語を紡いでいる
「本題に入ろう。ギルティアからの伝言だ」
シャーロットの言葉に、ガーナが目を見開く。
理解の出来ないことばかりかと思っていたのだろう。
……やっぱし、兄さんを知っているんだ。始祖としてではなくて、兄さんの個人的な知り合いなのかもしれない。
それに違和感や不快感を覚えなかった。
それが当たり前であると言う感覚――。いや、知っていたと言うことに安心すら抱いた。
ガーナは、その感覚を振り切る様にシャーロットの腕を掴んだ。
「兄さんがなんて言ってたの? どうして伝言を預かったの!? 兄さんから直接話を聞かされても良いはずなのに、なんで、アンタが聞いているの!?」
それ以上に兄からの伝言が聞きたかったのかもしれない。
一気に距離を近づけて催促をするガーナに対して、シャーロットは笑みを浮かべた。
……うわ、怖い笑顔。
シャーロットは、人形のような感情がない眼をしている。
形だけ作られた笑顔は、仮面のように見える。
……兄さんは、この人と一緒に居るのかな。
距離を取り直す。
それから、手にしていた荷物を地面に置いた。
「化け物は化け物だ。人とは共にいられぬ存在。共に過ごせばいずれ正体が現れ、全てを不幸に変えるだろう。そして、思い知ることになる。――人間ほどくだらない生き物は、存在しないのだということを」
それから、告げた内容は残酷なものだった。
……兄さん。兄さんは、本当にそう言ったの?
表情を一つも変えずにそれだけ言い、シャーロットはガーナの手を振り払った。
「覚えておけ。これは予言だ」
触られることを拒絶したかのようにも見えたのは気のせいだろうか。
「貴様が忘れているのならば、改めて名乗ろう」
彼女の瞳は、氷のように冷たい。
感情を宿さないような冷め切った目で見られたガーナは、思わず身震いする。
「なにも畏れることはない。私は、貴様を同志として迎えることも視野に入れているのだから」
……簡単に人を殺すような目をしているね、この人は。
だけども怯えはなかった。
……それすら懐かしいよ。どうしてかな?
懐かしさが込み上げる。
心を支配する優しい感情はなんだろうか。
これは本当にガーナが抱いている感情なのだろうか。
それとも別のなにかが心に忍び込んでいるのだろうか。心の中にある優しい感情に対抗するかのように嫌悪感を抱く。
その矛盾は心を破壊しようとしているようにも感じられた。
……苦しいよ。苦しいのに、怖いよ。
求めた筈の存在だった。探していたはずだった。
ライラの呼びかけに応えることもなく、彼女を選んだのはガーナだ。
……泣いているようにも見えるよ。
まるで、話しかけられることを恐れていたようにも見えた。
それなのにも関わらず、表情一つ変えずに嘲笑うかのように話す。
その姿すら美しく、人形のように見えた。
「私の名は、シャーロット・シャルル・フリークス」
それは今世で与えられた名だ。
「帝国から災いを遠ざける始祖であり、死に魅せられた魔女の名だ」
お道化ているわけではない。
真面目な顔をして名乗る言葉には意味なんてないのだろう。
「始祖としてはシャーロット・シャルラハロート・フリークスの名が知られているか。どちらでも構わない。どちらの名も私の名だ」
この国には徴兵制はない。
王族が支配し、貴族が存在する帝国であるのだが、戦争が多発する国でもある。その為、軍部だけは身分関係なしの完全な実力社会なのだ。
……やっぱし、そうなんだ。
自身の名を誇らしげに語る。
その姿は、学園で何度も目にしてきた貴族の姿と重なって見える。
……でも、なんでかなぁ。他の貴族とは違う気がする。
貴族として生まれ育ったことを誇りに思い、それを自慢している“中身”のない貴族の子どもたちとは、なにかが違って見えた。




