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ガーナ・ヴァーケルは聖女になりたくない  作者: 佐倉海斗
第3話 罪深き始祖たちは帝国を愛している

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07-4.秘密の共有は許されない

 ……レイン君は兄さんと関わってこなかったはずなのに。


 なぜ、レインが心当たりを見るかのような目をイクシードに向けたのだろうか。


「ガーナちゃんは、私の故郷であるアクアライン王国とライドローズ帝国の始祖に関するお話を知っていますか?」


 ライラは唐突に話を始めた。


 それは大切な話なのだろう。


「詳しくは知らないわ。でも、歴史の授業で習ったじゃないの。アクアライン王国の独立戦争は帝国の支配を退けたって有名な話。私だってちゃんと覚えているわよ」


「ええ、そうですわ。七百年前、王国と帝国は激しい争いをしました。歴史は風化するものですから、私も、詳しいことは聞かされていません。王族として初代女王の逸話を隠し通さなくてはならないと教えられてきましたのよ」


「変な話ね。帝国みたいに堂々と伝説にしちゃえばいいのに」


「ふふ、そういうわけにはいきませんでしたのよ」


 ……どうして、そんな秘密を打ち明けようとするのよ。


 ライラは悲しそうな表情をしていた。


 その視線の先には一触即発の状態を保っているシャーロットたちがいる。まるで彼女たちと繰り広げた光景を思い出しているかのような表情をするライラに対し、恐怖を抱く。そして、治癒された両腕を伸ばし、ライラの頬を包み込む。


「ライラはライラよ。私の目の前にいるのは十六歳のライラ。アクアライン王国第二王女のライラ。私の大親友のライラ。だからそんな顔はしないで」


 それはガーナが言えた言葉ではなかった。


 ……あぁ、そっか、ライラもレイン君も私と同じなのね。


 他人の記憶に振り回されているのはガーナだけではない。


 それを感じ取ってしまった。


「ごめんなさい、ガーナちゃん。貴女だって不安を抱えていたことを知っていました。なにか事情があるのだろうとわかっていたのです。それでも、私は一歩を踏み出すことができませんでした」


 ガーナとライラの手が重なり合う。


 それからライラは悲しそうに眼を細めた。


「初代女王陛下が、心より愛した方の血が流れておりますの」


 二人の視線は絡み合うことはなかった。


 ライラの視線はイクシードに向けられている。視線に気づくこともなく、彼は、今にも暴れだしそうなシャーロットを宥めている。


 その光景すらも懐かしいと感じてしまうのは、その身に秘めた魂の記憶によるものなのだろうか。


「私はギルティア・ヤヌット様の子孫なのです。もっとも七百年も昔の話ですから、その血は限りなく薄いものでしょう」


 本来、存在してはいけないはずの始祖の血が繋がっている。


 帝国内にて権力を持っていたフリークス公爵家やジューリア公爵家とは異なる。


 それは許されない行為だった。


 七百年間、王族だけが知らされていた真実を打ち明けたライラは静かにガーナの手を掴み、自身の頬から離す。


「そして、私自身、初代女王陛下の魂を持って生まれてきたのだそうです」


 自覚をしている転生者は少ない。


 その多くは前世の記憶を失い、別人として生まれてくる。


 同じような運命をたどっていることにも気づかないまま生きている。


 そして、彼らは生まれ育った故郷に、大きな変化を与える宿命の元に生まれている。


 何度も引き起こされている市民革命や大規模な内戦は、転生者によって引き起こされている。


 そして、彼らの意思は七人の英雄である始祖の手により潰され、踏み弄られている。


 これは終わりの見えない宿命の連鎖だ。


 始祖は帝国を守ることしかできず、転生者たちは国を守る為に剣を取る。


 その連鎖を断ち切る為には【物語の台本】の破壊が最低条件である。そして、その条件が満たされてしまったのは、はたして、ただの偶然だろうか。


 ……ただの偶然とは思えない。


 無言のまま、話を聞いているレインも事情があるのだろう。


 それをライラは知っている。だからこそ、こうして打ち明けている。


 ……情報量が多すぎなのよ。


 転生者が複数に存在していることも知ったばかりである。それも命を失いそうになる危機的な状況の中、敵が漏らした情報だ。


「ガーナちゃん、私の話を聞いてどう思いますか? 得体のしれない怖い存在だと思いませんか?」


「まさか。さっきも言ったけど、ライラはライラでしょ。怖いなんて思わないわ」


「そうおっしゃられると思いました」


「ふうん? だったら、どうして変な顔をするのよ」


 ガーナの問いかけの意味が理解できなかったのだろうか。


 ライラは何度も瞬きをしていた。


「教えてくれたことは感謝するわ。だって、それは私が信用されているってことでしょ? 親友から打ち明けられる話は全部信じるものよ。それに不安そうな顔もしていないのに、どうして、怖い存在だなんて思われてるんじゃないかって聞くのよ。顔と言動が一致していないわよ、変なライラね」


 誤魔化すことはしなかった。


 いつもならば空気を読んで冗談の一つでも口にしていたところだろう。


「それに怖がられるなら私の方よ」


 上手に笑えただろうか。


 ……変なの。怖くないわ。


 嫌われるのではないかという恐怖感はない。隠し通さなくてはいけないという義務感もない。それは不思議な感覚だった。


「ライラ、レイン君。聞いてくれる? 私が隠さなきゃいけないって本気で思っていたバカみたいな話。信じられない話よ。私だって半分も信じてないもの」


 無言で頷いたライラと、視線を向けたレイン。


 どこか似た雰囲気を持っている事に気付いていないであろう二人を見て、ガーナはようやく気付いた。


 ……そっか。そういうことなんだ。


 どうして、レインを助けようと思い、行動をしたのか。


 理由を考えることもなく、身体は動いていた。


 ……そっか。二人は、似ているんだ。


 二人の関係性は、恐らく、本人たちの知らない所にあるのだろう。


 ……そして、私は昔にも二人に会っているのかもしれない。


 根拠もない話であるが、ガーナはそれを知っていた。


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